昔から、くさかった
爺さんのやつ、がっつり悪事に加担してたとは。そのせいで、狙われたのか?
「だれかに怨まれてるとかないのか?」
「古い記憶を探っても、そんなのはありません。学校のワインセラーから一本拝借したとか、その直前に牧草を刈ってたら馬に糞をぶちまけられたとか。相当臭かったんでしょう、馬糞くんと呼ばれて、皆から親しまれていたらしいですよ。あ、楽しまれての誤字です。なので、消毒のためアルコール臭もやむなしと、ごまかせたようです。」
「そのころから、とんだ、糞野郎だったってことだ。」
AIに感情がないのをいいことに、散々言ってくれる。
「バイト先の店長にでも話を聞くか。」
とやまブラックチェーン。カレーやラーメンなどの軽食中心で、どれも見た目が黒い。
「検索結果では、黒い噂が絶えないようですね。オーナーは原九朗。仮想通貨での支払い技術、とやまブロックチェーンで失敗し有名になったようです。一年前、チェーン技術がハッキングされたとありますが、脱税のための偽装ではないかと現在も捜査中のようです。」
少し離れたところで車から降り、歩いて客として店に入る。ちょうど昼の混雑時。
「いらっしゃいませ。」
一斉にバイトたちの明るく元気な声が流れる。もちろん録音だ。やつらにそんな元気は残っていない。
「料理が黒いのは、失敗してもわからないようにですね。さらに、具材の鮮度もわからなくなります。」
AIの分析は的確だ。
「ニンニクなどの匂いが強いのも同じ理由です。しょうがやわさびなどの薬味で下処理されてますが、これは防腐効果で、すこしでも賞味期限を延ばそうというつもりでしょう。」
AIはさらに得意げに続けた。実際のところAIに感情はないので、聞き手の印象なのだが。
「はずれ。セントラルキッチンで調理したものは冷凍無菌パックかドライなので基本腐りません。法律上、賞味期限が書かれているだけ。薬味が多いのは素材がわるいから。」
僕は、初めてAIに勝った。めっさ気持ちいい。
「理解しました。再調査の結果、鶏肉はブロイラーで臭みを消すため、豚肉には食感と香りつけ。ランクの高い肉の脂身を足して味も変えてますね。こりゃ、豚でも食べませんね。」
おい、AI。それをうまいと毎日食ってた僕の立場はどうなる。