ミカン泥棒
愛媛に入ると懐かしいミカン畑風景が広がっていた。まだ、実は青いが柑橘系どくとくのすがすがしい香りが漂う。ちなみに、他県のやつらに水道をひねるとミカンジュースがでてくるといわれるが、普通の家庭にまで出るわけじゃない。
引き込み道路の入り口を過ぎて急停車した。すぐ後ろで激しいブレーキ音がして、一台の車が引き込み道路を駆け上がっていった。ミカン畑の中で灰色のBMW553が止まる。一般には出回ってない最新特別仕様車だ。きっと後をつけてきた連中だろう。ナンバーは隠している。畑の奥にいた老人がハサミを手に駆け寄っていく。
「おめえ、おらの畑に何の用じゃ。さては、ミカン泥棒じゃな。」
じいさんの気迫に押されたか、車はあわてて逃げていった。
車は僕の爺さんの家の前で止まった。
「身内との接触の際は、身分を隠すこと。わかってるね。」
火蔵は僕とAIに念をおした。
「死んだいとこのことかい。あいつはうちに居候しながら学校にいってたよ。救いようのない底なし馬鹿だったから、ろくな大学にいけなくてさ。」
おい、お前もじじいのコネで一緒にいってただろう。
「おれは家を継げばいいけど、両親が死んであいつには何も残ってない。まともな就職口を探さなけりゃいけないってのによ。」
いとこは、涙ぐんでいた。けなしてんのか、心配してんだかわからんやつだ。
「今日は、おじいさんの事を聞きたくて。」
火蔵は仏壇に手を合わせた後、切り出した。
「おれもよく知らねえが、議員さんや区長なんかあつめて、手紙や袋を配ってたらしい。手紙は封筒に入っていて中は見たことないっていってた。学校建設を反対している人への説明資料なんで5ミリぐらいの厚みがあったらしい。」
おい、馬鹿いとこ。手紙の厚みじゃないだろ。それは現金だわ。じいさんはせっせと賄賂を配ってたんだ。今の僕はAIのおかげで結構賢くなってるんだ。