裏番頭
翌朝は四国へ車で飛んだ。え?走ったの間違いじゃないかって?いや、今は車も空を飛ぶ時代なんだ。もっとも自力じゃなく、飛行場で、羽根とエンジンを取り付けるわけだが。昔のロボットアニメにあったような合体するやつ。高度が取れないから遠出するには向かないが。技術的な問題じゃない。単に寒いから。
当初は墜落事故もあったが、いまやプロペラで垂直離着陸できる戦闘機より安全といわれている。今の車はすでに1トンを切っている。高度がないので、パラシュートは使えない。しかし、エンジンが止まっても、気球を膨らませれば安全なところまで移動できる。
車は、火蔵と僕をのせて香川についた。あれ?愛媛じゃないのか?
「一度、本番の讃岐うどんってやつを食ってみたかったんだ。」
なんだ、寄り道か。AIになった僕には食事はできない。うまそうなにおいが街中にあふれている。車は小さな民家の前で停まった。
いわゆる、隠れ家的な店だな。そう思っていると、野良着姿のおばあさんが、とことこと坂の下から小走りに近寄ってきた。
「待ってたよ。話しは中で。」
ん?標準語だ。いなかのおばあが標準語って違和感ありありだろ。
「裏番頭さん、この面子で思い当たることはあるかい。」
火蔵は、出されたうどんをすすりながら何枚かの写真を見せた。
自衛隊・逃走屋・元組長・文科省の役人。
「忖度だな。いや、なつかしいよ。当時、裏番頭なんてもてはやされて暴露本とか出したけど、今じゃこうやって隠れてくらす生活だ。行政のトップが、立法の長といってはばからない世の中だ。すし友ジャーナリスト以外は、顔出しもできない時代よ。」
声からして、男性であることは間違いない。よほど、危険人物として当局からマークされているようだ。
「いくら証拠を付きつけようと、知らぬ存ぜぬだし、握りつぶされる。いやな、世の中だ。自覚の無い悪党ってのは、たちが悪い。」
裏番頭の男は、時々窓の外を眺めている。
「お前さん、いろんなやつらを引き連れてきたね。どうやらうどんを食いに来た客ってわけじゃなさそうだ。」
「捜査状況が筒抜けでな。こんな田舎のうどんやをどうこうする気もないさ。やつらだって寝た子を起こすほど馬鹿じゃない。」
火蔵は代金を支払うと、店を後にした。