獣医学部
「あんた、何者なんだい?」
秘書にそう問われても、誇れる経歴などない。
「三流大学の獣医学部卒。爺さんが愛媛のミカン農家で、設立に援助。そのためか、当時、高倍率にもかかわらず入学。その後、実力不足で国家試験も受験できずに、バイト生活。もっとも1年前から無断欠席がつづき解雇状態。」
AIが僕の覚えてないことまで回答する。
「覚えてる。うわさでは受験は高倍率だったが、定員われで経営が大変だったらしい。でも、そんなやつがなんでこんな大変なことになってるんだ。」
秘書は、首をかしげるばかりだった。
国家機密を扱っていたわけでもなければ、政治にかかわっていたわけでもない。海外渡航の経験も無いので、国際的な犯罪者というわけでもないだろう。それが、なぜ変装して逃走したり、死んでまで記憶を狙われるのか。なにか、重大な発見でもしたのだろうか?それなら消されないだろう。いったい僕は何をしてしまったのだろう?
「むかしながらのよしみで、何かわかったら教えてくれ。」
そういって、火蔵はドローンとともに事務所を出て行った。
彼等と入れ違いにサングラスの背の高いスーツ姿の男が、事務所に入っていった。