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仮想死者VD
犯罪捜査のための画期的なシステムが開発された。
死者の記憶をAIにダウンロードし、VR再生する。これにより、死者目線での現場再現ができるようになった。AIだから嘘をつくことはない。死者には人権がないこの国では、システムの導入は順調だった。やがて、通信技術の発達で、捜査にも持ちだせるようになった。
Virtual Dead、仮想死者、VDの登場である。死者が加害者の場合は、十分な事件の証拠になる。しかし、殺意がなく、感情的な動機や、あるいは被害者の場合は、事件と死因との関係性が立証しづらくなってしまった。どんな事件の犯人でも必ず死は来る。当初、期間を限定して再生していたが、さらなる過去にさかのぼって記憶を再生し、ほどんどの未解決事件は犯人の死によって解決された。それでも、中には、誤った記憶、たとえばドラマで見たことを実体験と思い込んでしまったり、アルツハイマーなどの記憶障害で忘れ去られていることもあった。
僕もそんなVDで再生された記憶だ。事故で脳障害になり、死の1年ほど前からの記憶が再生不能となってしまった。