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プロローグ:魔王と勇者の一騎討ち(?)

「いやー……随分と長旅だったな」


 眼前に広がる、壮大な城壁。ただ一点のみくり抜かれたそれを見て、俺は目を細める。

 思えば旅を始めて三年、その前にあった修行の日々も含めて十数年の生涯だったが──ここに辿り着くまでにどれだけの苦労をしたか。


「待っていろよ魔王……俺は必ず……」


 旅の途中で、魔王である彼女とは何度か遭遇した。身長は俺より低く、歳は同じくらいに見えたが……今はそんなこと関係ない。

 俺──アキトが勇者である限り、彼女にしてやらなきゃいけないことは一つだ。


「さて、前座のお出ましか」


 城壁の上から無数の影が躍り出る。魔王城の守衛を任されているだけあって、随分と身のこなしが軽い。


「──ま、そんなの関係ないけどね」


 眩い閃光が、辺り一帯を薙ぎ払った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ややあって、玉座の間。

 魔王は玉座に鎮座し、勇者は不敵な笑みを浮かべていた。ともすれば一触即発、そんな雰囲気が流れる。


「……来たか、アキト」

「よう魔王、ようやく辿り着いたぜ」


 周囲には誰もいない。本来なら彼女を守る立場である四天達は、先刻を以って戦力外通告だ。


「……本当に、これ(・・)は必要なことなのか?」

「前にも話した通りだ。これ(・・)以外の道は残されてない──俺とお前が、勇者と魔王である限りは」


 悲痛な面持ちで、魔王は俺に問う。


「今まで幾らの魔族達がそなたに斬られてきたことか──」

「──ん?」


 そんな他愛ない一言に齟齬を感じた俺はすかさず訂正する。


「いや待て、俺は魔族は一人も斬ってないぞ」

「何?」

「何のために《エクストラヒール》付与の剣を聖剣と別に持ってると思ってるんだ。俺が斬った傷なんて数ヶ月で元通りだよ」

「な……なんだと? それでは、奴らは──私の前で散っていった彼らは……」

「まぁそれはそれ、また今度(・・)話そう」


 魔王は目を瞑り、不安そうにこちらを見る。

 フードに隠れていた素顔が露わになり、赤みがさした整った顔立ちを披露した。


「信じて……良いんだな?」

「無論、俺だってお前のことは信じてるよ」

「……分かった。ならばここで決着をつけよう」


「あぁ……俺たち(魔王と勇者)の運命に、な」


 コツ、コツと。

 静かな広間に足音が二つ、反響する。


 俺は勇者の証である聖剣を手に。

 魔王は自らを魔王たらしめる魔杖を手に取って。


 その距離──僅かにして一歩分。


「覚悟はいいな? 後戻りは出来ないぞ」

「無論──これがただ一つの道だというなら……」


 覚悟が決まったらしい。白髪碧眼の美少女(魔王)と、静かに目を合わせる。


「では……始めようか」


 そして俺は──静かにその唇を奪った。


 思い出す、あの日の言葉。

 初めて彼女に出会った時に誓った、その言葉を。


『俺は勇者だ』


『魔王サマは家で待ってろ。俺が必ず──』



「ふっ……く……」

「ん……」


 勇者と魔王。二人の交わりが、世界の歴史そのものを書き換える。


『必ず、君を救ってみせる』


 白と黒の螺旋が、上空へと走った。


 これは、ただ「より楽しい人生」を目指す勇者と。

 そんな勇者に導かれて、新たな人生を送ることになった魔王のお話。

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