プロローグ
黒曜石の色に染まった夜の街で響くのは、複数人の荒い息の音だった。
一人の青年が群を抜いて街を駆ける。その後ろを複数の男が追いかけている。
追われている方の青年は、一丁の拳銃を握りしめたまま走っている。他に持っているものなど何もない。これだけ使って、どうすれば撒けるか?簡単なことだ。追いかけてくる者共に弾を撃てばいい。そう青年は結論付けるが、肝心な銃弾がない。
追いかけてくる者共が、何かを叫んでいる。しかし青年には聞き取れなかった。聞き取る余裕がなかった。
もう一時間以上、全速力で駆けている。脚も痛み出す頃だろうが、何故か脚は痛まなかった……否、痛まないのではない。痛みを感じる暇がないだけだ。
青年は、逃げる以外のことを考えることができなくなっていた。逃げた先の未来を思うことも、逃げる前の過去を思い出すこともできない。
この後自分が生き延びられるのか、それとも息絶えてしまうのか、青年には微塵も想像できなかった。だが、それでも構わなかった。
この最悪な「今」をどうにかできさえすれば何だっていい、と考えていたからだ。
────青年はただ、この世の悪全てから逃げたいと切に願っていた────




