第4話 ミニスカ美少女とトレーニング
「明日、朝10時の約束忘れてないよね?」
カンナさんに言われてびっくりした。
え、なにそれって。何しろ、こっちの世界の記憶はなくて、どんな約束していたか分からない。
ユウトが元々もっていた、ブレスレット型のパーソナル情報機器『アイブレス』にアクセスしてみても、そんな予定書いてないしね。
「当たり前じゃない。私とあなただけの秘密の約束なんだから。とにかく明日10時に私の部屋に迎えにきてね」
ええっ。仕事じゃなくて?カンナさんとふたりの秘密の約束をしていたなんて・・・ドキドキ。
なんといっても15歳の美少女とデート・・・えっとぉ・・・未成年とそういうことはまずいでしょうとは思うけど、そういうユウトも15歳だし。
大丈夫。だって、僕も15歳だからね。
実は、現実世界では38歳のおっさんだった僕が、こっちの世界に飛ばされたら、なんと15歳に逆戻り。それもジャニーズ系の美少年だ。まさに青春、真っ只中。
カンナさんも僕も高校一年生の年齢。甘酸っぱい恋の適齢期ってこと?
「カ、カンナさん」
おっと、いけない。あせって、思わず、うわずってしまった。もしかして、僕にとっては初デート?もしかして、デートだけでなくて、それより先に行ったりして。
もう一度、カンナさんの部屋の前で声を掛けた。
「カンナさん」
すると。
「ユウトお待たせっ!いくわよ」
颯爽と現れたカンナさん。真っ白なミニスカート姿。
そんな格好で、どこにいくの?
「さぁ、今日も覚悟しておきないねっ」
入った部屋はトレーニングルームとプレートが掲げられた一室。6畳くらいの部屋にガラス張りのボックスがふたつ。
そこに、それぞれひとりづつ、入るらしい。
ボックスに入った瞬間、周りの風景がいきなり変わる。テニスコートに立っている、ふたり。
バーチャルリアリティって奴ですか?
僕もカンナさんもラケットを持って立っている。
テニスをするってことでいいですかね。
「それじゃ、今日も1セットマッチでいくわよ」
いきなり、サーブを打ってきた。うわっ。何もできないうちに、打ち抜かれた!
あれ?サーブ権はカンナさんからって決まっているの?そういうものなの?
「15-0」
ちゃんとスコアボードに表示される。
自動的にカウントしてくれるんだ。便利な機能ついているらしい。
「何やっているのよ。次、行くわよ」
思いっきり、カンナさんサーブをを打つ。
ひらりとミニスカートがめくれたりして、ついつい「気になるなぁ」なんて思っていると、ボールが僕の横を抜けていく。全く反応できていない僕。
「30-0」
やぱい、何もできないうちに、2ポイント取られた。
本気出さないと、あっという間に終わってしまう。
カンナさんのサーブの動きを見て、ボールがいく先を予想する。
テニスは唯一得意な球技なんだ。
テニスの経験はもう20年くらいやっている。元々は、大学に入った時テニスサークルに誘われて、楽しいキャンパスライフを夢みて入会したのがきっかけ。
サークルで出会いがあって恋人ができてリア充なキャンパスライフ。しかし、恋愛の結果は惨敗。それでもテニスは好きになり卒業後も時々やっていた。
カンナさんは、というとまだ初心者の動きと思える。これなら、僕が本気を出せば勝てるだろう。
ボールがコートにバウンドする先に移動して打ち返す。あれ。当たらない。というより、届かない。あーーー、手が短い。まだ15歳ということで背もあまり高くないから、手の長さが違うんだ、転生前とは。
「40-0」
「まずは1ゲーム、いただきね」
うーん、そうはいくかっ。リア充を犠牲にして培ったテニス技術。始めたばかりのカンナさんに負けたら、転生前の僕の青春がみじめすぎる。
カンナさんがサーブを打つ。予想地点の少し先まで移動するつもりで動く。
パコーン。
ラケットに当たって軽快な音がして、なかなかいいとこに返して、カンナさんは動けない。よし、ブレイクしたぞ。
「40-15」
チャラララッタラーン♪
「チュートリアルのチュー太ですっ」
おっ、また出たな。レベルアップかいな。
あいかわらず、ミッキーのできそこないみたいな顔したネズミキャラが出てくる。
「テニススキル、レベル1にアップしました」
「よし、そうこなくちゃ」
「前世のスキルレベル、コンバートしますか?」
「えっ、そんなこと、できるの?」
「はい。転生者の特権として、転生前のスキルレベルをコンバートできます」
「それは、ありがたい。コンバートして欲しい」
チャラララッタラーン♪
「テニススキル、レベル3にアップしました。そして、習得レバレッジ5倍も付きます」
「習得なんちゃら、って何?」
「習得レバレッジは、得られる経験値が何倍かになる得点です。ユウトのテニススキルは、
転生前経験のコンバートで5倍のレバレッジになります」
「おおっ、それはお得だね」
チュー太は消えた。
レベル3になった僕は、カンナさんのサーブを続けて2回ブレイクしたけど、ちょっと
ミスして最初のゲームは落としてしまった。
「ふう、1ゲームは私のものね。それにしても、ユウト、うまくなったわね」
「そうですか。まだまだです」
「だって、ユウトはまだテニスするの、今回で3回目でしょ。私はスズカワさんにもう半年くらい教えてもらっているのに」
「経験半年なんですか。それにして筋がいいですね」
「なんか、偉そうに何言ってんの!」
今度は、僕がサーブだね。いくぞー。
僕のサーブしたボールは、カンナさんの横を抜けていく。反応できないよね。どうも、レベル3でも、カンナさんよりはうまくなったらしい。
「15-0」
よし、次は、反対側にサーブを入れてみて。おっ、ちゃんと返してきた。じゃ、僕も返してと。何度かのラリーで結局、僕のポイント。
「30-0」
カンナさん、表情が真剣になったぞ。初心者のユウトに負けているのが納得できないんだろう。甘いな、僕は初心者じゃない。20年の経験者だ。
さぁ、いくぞ。
「40-0」
よし、あと、もう1ポイントでゲームが取れる。後ろのギリギリラインを狙ってと。カンナさん、見送った。入らないと思ったのかな。甘いな。
「G-0」
チャラララッタラーン♪
「チュートリアルのチュー太ですっ。テニススキル、レベル4になりました。サブスキル、ブーストサーブを覚えました」
「ブーストサーブ?なにそれ?」
「サーブのときに、『ブーストサーブ』と念じると、パワーを貯めて打ち込むことができます。ただし、パワーを使うので、あまり続けて使えませんので注意してください」
「おおっ、それは使えそうな技だな、やったね」
チュー太が消えて、カンナさんのムッとした顔が見える。
「ユウトに初めてゲームを取られてしまったわ。それもストレートで」
それは、ショックでしたね。だけど、もう僕の方がレベル上になってしまったみたい。カンナさんは、レベル2というとこかな?
「まぐれですよ」
「それはそうよ、決まってるじゃない!」
その後は本気でやると、あっさり勝ってしまいそうだったので、ちょっと気を抜いて、いい感じのゲームにしてみた。
その結果、「6-4」で僕が勝ち。
「ゲームセット、ウイナー、ユウト!」
勝った。カンナさん、悔しそう。
うーん、どうも試合になると、つい勝ちたくなってしまうんだ。学生時代も、モテる奴は調子よく負けてやっていたりした。テニスには勝って、恋愛には勝てない、それが転生前の僕だった。
こっちの世界でも、なんか同じになりそうだから、気をつけなきゃ。
「カンナさん、もうちょっとでしたね」
「何?もう、私より強くなったつもり?今日はちょっと調子できなかっただけよ。次は負けないわよ」
次はあ3日後って約束をして、トレーニングルームを後にした。
ユウトは自分の部屋に戻ってきた。
3畳くらいの部屋で、ベッドがひとつ、小さな机がひとつ。収納ボックスがひとつ。
自室はシンプルだ。
話に聞くと、このタイプの部屋は人権制限者だけらしい。
皇国市民の乗組員は最低6畳程度の広さがある自室だ。自分の好みに内装を変えることも許されている。
殺風景な自室のベッドに横になり、天井を見ながら整理してみる。
この異世界には、スキルとレベルという概念がある。いろいろな事柄は、それに対応するスキルのレベルで行動をする。
レベルが高くなると成功率があがる。それは、護衛艦の対空レーザー射撃でも、テニスでも一緒だ。
レベル3で一人前のスキルになるらしい。元の世界で経験していたことは、こちらの世界でもコンバートされる。
残念ながら、シューティングゲームのスキルはレーザー射撃スキルにコンバートはされなかった。ゲームと現実の違いがあるから当然か。
逆に現実でやっていたテニスのスキルは、バーチャルリアリティのテニスにコンバートされた。それだけ似ているということだろう。
それと、高レベルになるとスペシャル技を覚えることがある。
今、わかっているのは、それくらいか。
頭の中の整理が終わったら、そのまま寝てしまった。
ユウトのスキル
レーザー射撃 レベル1
テニス レベル4 レバレッジ5 サブスキル/ブーストサーブ
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毎日2話アップ中。あと1週間くらいはそのベースの予定です