第15話 波動サウナ勝負と伝説の銛(もり)
「平民よ、そんなに無理するな」
「何を言う。貴族だからってエバるんじゃないよ」
今、僕らがいるのは波動サウナと呼ばれる施設。
裸の上に特殊な繊維で出来ている乗っ白な浴衣みたいな服を着ている。
ユウトとエルヴィン、そしてカンナが一緒に入っているのは、三畳くらいの高温サウナの様な部屋で、『波動サウナ室』とプレートが掲げられている。
サウナっぽいと言っても、スポーツジムでもスーパー銭湯でもなく、医療施設の中にある。
なぜ三人でそんなとこにいるのかというと、元々は宇宙怪獣狩りの勝負の準備の為だ。
「それでエルヴィン、『伝説の銛』ってどこなるの?」
カンナさんが可愛い顔で聞いている。
「それは我がクラーセン家の本家があるイナバ星系の『うさ耳八幡宮』に奉納されている」
「「ええっ~。うさ耳八幡宮」」
うさ耳八幡宮は、モノリスミッションの目的地。参拝すればミッション完了するらしい。
あまりに遠いからミッションを無視したんだった。
「だけど、そこは30光年も先だよね」
「あーーーー。そういえば、君たちは青い血じゃないのか」
忘れていたという感じでエルヴィンが言う。
「僕ら貴族はね。蒼い血を持っているのだ。平民達の赤い血とは違う」
「蒼い血?」
「厳密にいえば、体内にあるときは君たちと同じ赤い血だ。しかし、傷等で対外に出た瞬間
赤から青に変わる特性がある」
「ふーん。それって、いいことあるの?」
「蒼い血の持ち主は波動耐性が強いことを示している。波動耐性はAからDまであって、
蒼い血は耐性がAクラス、赤い血はBクラスからDクラス」
「波動耐性って、宇宙旅行する時に調べるあれだよね」
「そうそう。Aクラスになると10光年までの超時空ジャンプが無制限にできる。貴族が特権階級なのは、
自由に宇宙を飛び回れる蒼い血を持っているからなんだ」
「じゃあ、エルヴィンはAクラスなのね」
「もちろんそうさ。でもカンナさん達もBクラスかもしれないから、超時空ジャンプを年数回くらいできる
可能性はあるぞ」
「それって、どうすると調べられるの?」
その答えが『波動サウナ』だ。
波動サウナは赤い血の平民が超時空ジャンプの前後に体を波動調整するための施設だ。
そのため、医師の指導を元にスケジュールを組んでサウナを利用する。
今回三人で来たこの医療施設はエルヴィンが関わりを持つところらしく、顔パスで利用できるとのこと。
「まぁ、平民のユートとは比べても仕方ないけどさ。どっちが長く波動サウナにいられるか勝負してみないか?」
「勝負って・・・血が違うんじゃ勝てっこないですよね」
「まぁそういわず。遊びだと思って」
どっちが波動サウナに長くいられるか勝負ということだ。あまり乗り気はしないけど戦わずに勝負から逃げるのは、ちょっとしゃくだ。
カンナさんも付き合って、波動サウナ勝負が始まった。
「まずはCクラスの入口。これが耐えられなかったらDクラス確定で超時空ジャンプはあきらめないいけない」
「うーん。特に何も感じませんね」
「私も」
「それじゃ出力をあげていくよ。Cクラスの真ん中・・・Cクラスの上位、おっ、なかなか耐性ありそうだね、おふたりさん」
「まだまだ大丈夫。カンナさんは?」
「私も何も感じないわ」
「ほう。いよいよBクラスに入るぞ。Bクラス下位・・・Bクラス中位、おいおい、本当に大丈夫か?無理するなよ」
「なんともないですね」
「私も同じです」
「Bクラスは確定だな、すごいぞ。もっとあげてみるぞ。Bクラス上位・・・とうとう、Aクラスだ。嘘だろう?」
「えっ、蒼い血ということ?」
「そんなはずはないだろう・・・Aクラス下位・・・Aクラス中下位・・・Aクラス中位。ちょっと、ちょっと待って」
そう言って、カルヴィンは『波動サウナ室』から退場した。
「まだメーターはまだ上がるね。Aクラス上位・・・Aクラスリミット・・・あ、止まった。ねぇ、なんか感じる?」
「全然」
ゲージがAクラスリミットになってから一分ほどで下がり始めて、しばらくするとオフのところに来る。
「終わったのかな」
「みたいね」
外に出るとカルヴィンが休憩室のベンチで上向きに寝ている。
ぜいぜいと息をしていて、ちょっと苦しそうだ。
「大丈夫?」
「お前たち、何者だ?」
「へっ?」
「波動サウナ勝負で平民が貴族に勝てる訳ないだろう」
「そんなこと言っても」
そのあと、医療施設で精密検査を強制的に受けさせられた。
その結果、医療施設の院長に言われたこと、それは。
「あなた達、ふたりは、『銀の血』をもっています」
「ええーーーーっ、銀の血?」
エルヴィンが驚きのあまり後ろにひっくり返った。
人って本当にびっくりするとひっくり返るものらしい。笑
銀の血というのは、波動耐性Sクラスのこと。実際、血は体外に出ると銀色に輝くらしい。
「ねぇ、ユウト。血が出たとき赤かったよね。子供の頃」
「ごめん、覚えていないんだ、子供の頃」
「そうだったわね。私は普通に赤い血だった」
「どういうことだろう」
「もしかして・・・モノリス?」
カンナさんとこそこそ話。
モノリスとの出会いが普通の血を銀の血を変えたのか。
もしかして、僕たちも貴族になれるのかも。
「銀の血の波動耐性Sクラスは、100光年の超時空ジャンプすら無制限に行える。星域はおろか、宙域
すら無理なく航行できる身体をもっているということだ」
「じゃあ、30光年先のうさ耳八幡宮も一回のジャンプで跳べるってことね」
「カンナさん、理論的にはそうだけど、・・・僕がそれ、耐えられないし。この星系にある恒星間宇宙船で
30光年ジャンプできる船があるはずない」
まぁ、ともかく。30光年先のうさ耳八幡宮に行くのは身体的には問題がないらしい。
だけど、実際に行くとなると、恒星間宇宙船が必要になる。
「あのさ。物は相談だけど。波動サウナ勝負に勝ったお祝いとしてさ。うさ耳八幡宮まで連れて行ってくれないかな?」
「もちろん、それはできる。私個人の高速星間クルーザーをもっているさ」
なんと。恒星間宇宙船を個人所有している。
いくら宇宙時代だといえ、恒星間宇宙船はめちゃくちゃ高額だ。
ユウトとカンナが乗っていた護衛艦『サザナミ』でさえ恒星間移動はできないタイプ。
キャリアと呼ばれる特別な恒星間ジャンプ船に運ばれてはじめて恒星間移動ができる。
恒星間移動ができる宇宙船というのは、貴重で超高額な船。
それを個人でもっているなんて。
「エルヴィンって、もしかして、とんでもないお金持ち?」
「まぁ、貴族だからね」
前世も僕は庶民だった。転生した現世はなんと奴隷。
なんか、とんでもないお金持ちを目の前にすると、ついつい理由のない怒りが出てくる。
「貴族って恵まれていんだね」
「・・・そうともいえるか・・・」
エルウィンの微妙な反応で、あんまり庶民根性を出すのはよくないな、と反省する。
「でも、うさ耳八幡宮に行きたい私たちとしては、エルヴィンがお金持ちでよかったわね」
「それはそうなんだが・・・」
「何か他にも言いたいことがあるのか?ユウトよ」
「うっ。でも、勝負は別だ。貴族だろうと平民だろうと、ね」
「もちろんだ」
そして、今、エルヴィン個人所有の恒星間クルーザのガレージにいる。
ひとつの小さな島が全て宇宙飛行場で、個人所有の星間宇宙船の多くはこの島にガレージがある。
「これが僕の恒星間宇宙船『スターシード』だ」
「意外とちっちゃいね」
「超時空ジャンプはエネルギーをやたらと使うものなんだ。エネルギーをできるだけ減らすために、船体は小さいほうがいいんだ」
『スターシード』は、球形をしていて、直径は10mくらい。モノリスで手に入れた僕らの宇宙船と大きさも形もよく似ている。
『スターシード』のエンジン噴射口は、球形の下の方に6つ着いている。それ以外に見えるのは、入口くらいだ。
「よし、これでうさ耳八幡宮にお参りにいくぞ」
「違うだろ。宇宙怪獣を倒すための『伝説の銛』を手にいれるためだぞ」




