第11話 にゅるにゅる触手と囚われた美少女
「いよいよ、お仕舞いってことよね」
真っ暗になった搭載機01のコクピットでカンナはひとり事を言っていた。
積み荷の追跡を命じられた時、それほど危険があるとは思っていなかった。
皇国ソルート軍の戦争の最前線なら死亡する兵士の数は多くいるだろう。しかし、星系ネーデルは最前線ではなく、ただの辺境エリアにすぎない。
イウロ連邦との境目にある連邦側支配の星系とは言え、大した戦略性もない。ただの辺境星系で、ちんたら3年も紛争が続いている。
皇国ソルート軍もイウロ連邦軍も、本気で戦う気などないのだろう。その証拠にこの星系にいる軍艦は両軍とも、駆逐艦レベルまで。戦艦どころか巡洋艦すらいない。軍人たちも、命を懸けてなんて気持ちなどないんだろう。
そんなネーデル星系での護衛作戦に、たいした危険などあるはずない。きっと参加した誰もが思っていたことだろう。
しかし、今。カンナはひとりだけ。迫りくる死という現実に向き合っていた。
「まぁ、どうせ。大した人生でもなかったから、いいんだけどさ」
母親さえ自分のことを愛してくれなかった。こんな私を愛してくれる人なんていない。
「いつか、きっと。白馬に乗った王子様が迎えにきてくれる」
そんなたわごとを言えるような生き方をしたことなんてない。いつでもカンナは失敗すれば死という場所で生きてきた。自分の身は自分で守る。利用できるものは最大限利用する。
「そういう意味では、マズったわね」
カンナの余命は、あと3時間弱。3日後の16歳の誕生日は迎えることはできないだろう。
搭載機の波動エネルギーゲージが急速に低下している。このまま進めば3時間弱でエネルギーはゼロになる。宇宙でエネルギーがなくなるというこは、そのまま死を意味した。
しかし、搭載機というのは救命艇の役割を持つ。加速もしていない状態なら1か月は余裕でエネルギーがキープできる照明すら止まった状態で急速にエネルギーが低下してしまう原因。それは搭載機をがっちりと掴んでいる触手にあると確信していた。
加速していたターゲットの積み荷を最大速度で追う事、一時間半。信じられないことにいきなりターゲットは停止した。
減速して停止したのではない。光速の30%というもうスビートから一瞬で停止。物理法則を全く無視する運動をターゲットはして見せたのだ。
カンナ機も急減速を行い、ターゲットの5万キロメートルに接近した。そこで見た状況は想像を超えていた。銀色の丸いボールから濃い紫のつるが伸びる。つるは枝分かれして、その先端に六角形の膜を展開する。
その姿は太陽に向かって伸びるつる性の植物にそっくりだった。違いは色と伸びるスビート。見ているうちにあっという間に10個のボールから伸びたつるは、ジャングルの様に六角形の葉を茂られた。
六角形の葉は、どうもカンナ機の反対側に向けているらしく、すべての葉が同じ方向を向いていた。葉が茂った範囲は1キロメートルくらいになっていく。時間と共に隙間はなくなり、宇宙の向こう側は見えなくなった。
精密に観測してみると、六角形の葉が広がった範囲はゆるやかな傾斜があった。球面の一部となっている。その球面の中心は1万キロメートル先と数字が表示される。どうも、その点から何かが放射されていて、それを受けるために、葉は展開されているらしい。
「植物型の宇宙生命体って事かしら」
人間が住んでいる宇宙フィールドにはほとんど存在しない宇宙生命体。恒星エネルギーに依存しないとされる宇宙生命体は、恒星と恒星の間の宇宙フィールドに居るといわれている。本来、住む場所が違うため、人間と宇宙生命体はそれほど影響を与え合わない。
こんな近くに宇宙生命体が居るというのは不自然なことだ。
「要は積み荷が宇宙生命体だったってこと?それも発芽前の種」
今の状況を観るとそう判断ができる。
「ライブラ!あの宇宙生命体は何?」
搭載機のAI付のデータライブラリに質問をする。搭載機のライブラリは貧弱といえども、最低限の情報くらいはあるはずだ。宇宙怪獣ドキュメントで知っているカンナの貧弱な知識よりは役に立つはずだ。
「植物型宇宙生命体の『アイネ』の一種と推定されます。『アイナ』は時空断層の近くに自棲する安全な宇宙生命体です」
『アイネ』というのか、あの宇宙生命体。きっと、『アイネ』の葉が向いている地点に小さな時空断層があるのかも。そう思って、カンナはこの後、どういう行動をすべきかを考えていた。
安全な宇宙生命体で、今は完全停止している。あれだけ育ってしまった『アイナ』を搭載機で回収するのは無理だろう。それならば、位置を特定できるビーコンを打ち込んで、回収する宇宙船を廻してもらえばいい。
「ビーコンを打ち込んでその位置を報告すれば任務完了。その方針で行こう」
ビーコンを確実に打ち込むために『アイナ』のジャングルに近づく。安全な宇宙生命体だということで警戒心が甘くなった。
その結果、カンナ機は『アイナ』から急激に伸びてきたつる、というより、触手といった方がすっきりする。カンナ機は、回避する間もなく、触手に絡み取られてしまう。
「しまった!油断した!」
いつもなら、安全だという情報があっても、警戒心は忘れないカンナだったが、宇宙という慣れない場所での単独任務は精神的な負担が大きくなっていて、ライブラが提供した安心という情報を信じきってしまった。
「最大加速で離脱!」
波動エンジンを最大にした・・・したはずだった。しかし、何の反応もない。その上、波動エネルギーが急速に減少していく。波動エンジンを止めても波動エネルギーの減少は止まらない。
その後、何を指示しても搭載機は反応しない。レーザー射撃も、緊急脱出ボタンもダメ。ただ波動エネルギーが減っていくだけ。
そのうち、スクリーンが消えてコクピットの灯りも消えた。
「もし、アキラが『サザナミ』に載っていたら、助けに来てくれたかな?」
真っ暗なコクピットの中でハンドランプをつけただけのカンナは、唯一信じたことがあるアキラを思い出していた。
「もし、ユウトが空白症候群になっていなくて、野生の眼のままだったら・・・・どうだったかな?」
アキラと同じ眼だったユウト。もしかしたら、と思わないでもない。だけど残念ながら空白症候群の後のユウトは温室育つの感じがした。日向ぼっこをしているときの子犬の様な、人を疑うことなど必要ない。そんな眼に変わってしまったユウト。
「全く期待できないわね」
そんなことを思って、くすっと笑った瞬間。
「カンナ!大丈夫かっ」
いきなり、スクリーンが復活してユウトの顔がアップになる。
「まさか・・・ユウト?」
「ああ、今、助けてやる!」
「駄目っ。近づくとユウトも捕まってしまうよ」
「了解っ」
ユウトの搭載機からレーザーがカンナ機を捕まえている触手に伸びる・・・命中!
じゅっという音があがるが、しかし大したダメージを与えられない。その上、他のつるが伸びてきて、六角形の葉をユウト機に向ける。六角形の葉にレーザーが当たるが反射してなんのダメージも受けない。
「くそっ。武装が貧弱すぎる!ミサイルはないのかっ」
当然ながら、搭載機の通常装備ではミサイルは搭載しておらず、障害物除去のための小口径レーザーだけだ。
「無理よ。私は大丈夫だから、この場所を記録して『サザナミ』に戻って。ビーコンはなくても場所は
特定できるはずだから」
ユウトが助けにきてくれるなんて。すごくうれしい。だけど、この状況ではユウトも道ずれにしてしまうだけ。あと3時間しか持たないというのを隠せば、ユウトだけでも助かることは可能だ。
カンナには迷いがなかった。自分が助かる可能性を信じるほど甘ちゃんじゃない。このままで起きることは、目に見えている。犠牲者はふたりよりもひとりの方がいい。そう確信をもってついた嘘だった。
「カンナさん。駄目ですよ。余裕があるふりしても。機体に損傷があるんじゃないですか?戻って応援を頼むほど、時間的な余裕があるようにみえません」
ば、ばれた!?・・・なんでこんな時だけ鋭いの、ユウト。
「大丈夫です。僕は必殺技をもっているんです。いいですか。必殺技の名前はゼロ距離バースト射撃!」
「な、なに、それ!だいたいあんた、搭載機は初めて乗った素人でしょ」
「ふっふっふ。なめてもらっては困ります。僕はね、天才なんです。操縦はエース級、射撃は超エース級なんです」
「うそ言ってないで、ちゃんと状況把握してっ」
嘘は言ってない。ちゃんとチュー太が言っていた。射撃はレベル10の超エース級。操縦はレベル8のエース級だって。
シミュレーションで前世のフライトゲーム経験をコンバートでレベルアップして、発進後に実戦のレベルにコンバート。
その裏側を知らなければ天才パイロットだ。
「カンナ、今、助けにいくよ」
「ちょっと、あんた。なんでそんなにムキになるのよ。理由ないでしょ」
「理由はある」
「何よっ」
「まだカンナさんとデートしていない!」
ぬるま湯の生活を捨てて、リア充の青春を目指す15歳にとって、十分な理由だ。
「もし、ふたりとも助かったら・・・デートしてもらえますか?」
「本当にバカね、あんた」
「も、もしかして・・・『ごめんなさい』パターン?」
「そんな訳ないでしょ。助かったらデートでもなんでもするわよっ」
おおっ、「デート」だけじゃなくて、「なんでもオッケー」も、もらっちゃいました。うわっ、パワーあがるっ。これは死ぬ気でいくぞっ。おっと死んではいけない。ふたりで助からないと。
緻密な計算をしてみる。思ったより敵は高速に動くことか確実だ。カンナ機に近づこうとすると触手が伸びてきて、葉の盾も並べられてしまうだろう。しかし、敵はこちらの戦力が読めているは思えない。だからフェイクが可能だ。
直接接近するのではなく、くの字型に曲がって体当たり的に近づく。そしてカンナ機をつかんでいる触手の根本をゼロ距離で溜め攻撃をする。
おっ、完璧な計画!
これでデートも、そのあとの〇〇もなんでもゲット!!
僕のリア充計画は、ここから始まるんだっ。
最大パワーで宇宙怪獣に斜めに接近する。向かう方向の触手が反応する。やった、いい感じ。ここで急角度の旋回っ。これはエース級だからこそできるスペシャルスキル。予想できまい。
「スキありっ」
さらにターボエンジンを噴射してぶつかる勢いでカンナ機に近づく。よし、いけるっ!
「あれっ」
いきなり最高パワーで噴射していた波動エンジンが止まった。慣性移動でカンナ機の近くへ。その方向には、触手がうねうねしている。
「やばっ」
カンナ機にあと少しというところで何本もの触手にキャッチされる。駄目かぁ・・・リア充計画はもうおしまい?後悔なんてしていない。一瞬だって本気になったのは本当のこと。その結果が失敗だとしても、本気なった事実は残る。
そんなことを考えているうちに、触手はユウトの機体をカンナ機にまとめるように動く。もしかしてチャンス?と思ったけど甘かった。
レーザーも何も反応しない。何もできない。
「ユウトのバカ。犠牲は私だけでよかったのに。。。」
「カンナごめん。助けられなかった。本気出したのに。。。」
ユウトの機体とカンナの機体が近づいた瞬間。奇跡が起きた。
ユウトとカンナの機体が白く輝く光で包み込まれた。そして、その光は強く大きくなっていく。
「な。なに?」
「何が起きたの?」
「わからない!」
本来、波動エネルギーを吸い取られたふたりの機体は通信手段も失っている。しかし、ふたりは不思議と会話ができている。
輝く光の中でカンナの姿が見える。宇宙スーツを着ているはずのふたりは、裸で白い光に包まれている。
「えっ!裸?」
とんでもない危機なのに、15歳のエロパワーは危機感すら超える。裸の美少女とふたりきり。というとこは・・・見えるはず。
目を凝らして見たのは、あそことあそこ。
「な、何見てんのよ」
そういうカンナもついつい、ユウトのあの部分に視線がいく。なぜか大切なところは光輝いていて見えないっ。
「うわっ、U15の規制かぁ」
「何わかんないこと言ってるのよっ」
ふたりには、分からないことだが。光に包またふたりは、ある一転に向かって吸い寄せられていた。
宇宙生命体『アイネ』の葉がすべて向いていた1万キロ先の一点。
そこに在る物体が、ふたりの運命、いやいや、ふたりだけではない。銀河系に居住するすべての人類の運命を変える、とんでもない物体だった。
わーい、初めてのブクマがついたぁ。読者ひとり。うれしいな。もし、よかったら、あなたもブクマしてくたざいな。
◆ユウトの獲得スキル一覧
レーザー射撃 レベル1
シミュレーション・レーザー射撃 レベル13 レバレッジ8
サブスキル/精密射撃 溜め射撃 未来予想射撃 連続射撃
テニス レベル4 レバレッジ5
サブスキル/ブーストサーブ
セールス レベル3 レバレッジ2
搭載艇操縦 レベル8
搭載艇射撃 レベル10




