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第10話 コンテナ回収と優柔不断な艦長

明日も8時と20時にアップ予定です。

撃沈された重点護衛目標の七番輸送船は、コンテナ輸送船として広く普及したタイプだ。排水量四万トンで、1辺30メートルの立方体のコンテナを6つ積載している。


宇宙戦闘が終わって15分が経過した時、護衛艦『サザナミ』には指令が下された。輸送船の爆発により、散らばってしまったコンテナの回収指令だ。

積み荷か特殊なものだったらしく、強い波動を発しているので追尾が可能だということ。波動を追尾して、コンテナを回収するのが、護衛艦『サザナミ』に指令が与えられたのだ。


「オキタ艦長、最大艦速で回収に向かいますか?」

「もちろん、そうするように。方向的には問題がないフィールドだろう」

「そうですね。相対速度からすると約一時間後に追いつくはずです」


廃品回収の簡単なお仕事です、ということだろう。護衛艦『サザナミ』は最大艦速でコンテナ回収に向かった。


「艦長おかしなことがあります」

「なんだ?」


ユウトとカンナも呼ばれて艦橋でオキタ艦長とスズカワ操舵員の話を聞いている。搭乗員12名、すべて艦橋に集まっている。


「目標が加速しています」

「そんなバカな。コンテナだろう?」


何が起きているのか、艦長もスズカワさんも理解できないらしい。

もしかして、コンテナに入っていたのは最新式の機動兵器で敵側の少年が偶然みつけて搭乗してしまった、とか?まさかね。そんな40年前のアニメじゃあるまいし。。。


「ねぇ、カンナさん。何が起きているのか、分かる?」

「全然」


最大艦速で追尾しているのに、目標との距離があまり縮まらない。


「艦長!目標の速度が我が艦の最大艦速を超えてしまいました」


なんと、スピードが目標の方が早くなってしまった。想定外の事態だ。


「・・・・」


オキタ艦長は無言だ。


「目標との距離が広がっていきます。艦長、指示をお願いします」

「うーむ」

「目標回収をするなら、搭載機での追尾が妥当だと思います」

「その様だな」


うーん、オキタ艦長、ちゃんと考えています?スズカワさんの指摘、僕でも分かったことだよ。


「誰を搭載機で向かわせますか?」

「うーむ」


コンテナに何が起きているのか全く不明。当然、危険があることも想定できる。オキタ艦長は迷っているらしい。

三分間誰も声を出さなかった。その間に目標との距離は広がる一方。目標を見失ったら、相当問題になるんだろうなぁ。


「よし、カンナ、出撃せよ」

「ええっー、カンナ、ですか?」


スズカワさんも意外だったらしい。


「カンナよ、搭載艇の操縦訓練は終わっているな。すぐに搭載艇に向かえ!」



護衛艦『サザナミ』は2機の搭載機がある。搭載機と言っても、汎用の機体を使っているので、敵のイウロ軍が使用している戦闘機とベースは一種のものだ。全長10メートルで自重は15トン。戦闘を目的にした戦闘機とは違い武装は小口径のレーザーが二門あるだけだ。操縦は1名で行い、追加で5名まで乗り込むことはできる。


カンナは護衛艦の搭乗員になってからしばらくして搭載艇操縦の訓練をした。もっとも、ほとんどの搭乗員は搭載機の操縦はできる。新兵のユウトとおっさんAとおっさんBの三名を除けば。



「艦長、なぜ、カンナなんですか?経験が浅すぎます」

「いいか、スズカワ、判断は大局的に見て行わなければいけない。今、『サザナミ』は想定外の状況に陥っている。このあと、どんなことが起きるか分からないということだ」

「だからって、カンナじゃ、危険が多すぎます」


オタク気質があるスズカワさんは、カンナさんにメイド姿にしてお茶をいれさせのが気に入っている。だから、危険が多すぎる今回の搭載機の操縦に指名されたカンナさんを心配しているのだろう」


ふたりの睨み合いはしばらく続いた。僕もカンナさんが指名されたことが納得できていないから、スズカワさんの意見に賛成だ。

しかし、艦長の権限は大きい。その判断に従うしかないというのが、乗組員の立場だ。


「一番搭載機、操縦カンナ、発進します」


睨み合いをしているうちに、準備ができてカンナさんが発進する。スクリーンで発進したことが表示される。


「艦長、もしかしたら、何かあった場合の責任とか、考えていますか!」

「なんだ、それは?」

「人権制限者のカンナなら、何かあった場合、問題が軽くなると思っていませんか?」

「ば、ばかな!」


ふたりのやり取りを見ていて分かってしまった。図星だということが。

静かな声で言うスズカワさんに比べて怒声をあげたオキタ艦長。どっちが本音を言っているか、誰でもわかってしまう。


「ふざけるな!」


思わず僕は声をあげてしまった。いきなりの大声に艦橋に集まった搭乗員達すべてが僕に注目してした。


「カンナだけを危険に晒すなんて!いいですよ。僕が行きます!」

「おいおい、ユウト。お前は操縦できやしないだろうっ」


「スズカワさん、搭載機の訓練用シミュレーションはこの艦にありますか?」

「もちろん、ある。搭載機で簡単に訓練できるようになっている」


「ありがとうございます!十分です。訓練してから行きます」

「おいおい、冗談だろう?」


「ユウト、カンナさんのサポートに向かいます」



そういってユウトが搭載機の格納庫に向かうと、02と胴体に描かれた二番搭載機だけが残されているのを見つける。

コクピックに入り、シミュレーションモードでシステムを起動する。システムは共通なので初めてでも戸惑うことはない。


無事、搭載機の操縦訓練シミュレーションが始まった。まずは基本操作を身に着けるベーシックミッション。



「おい、ユウト、いいかげんにしろっ。出てこい」


搭載機の外でスズカワさんの声がする。でも、シミュレーションが終わるまで外からコクピットを開けることはできない。


操作の説明を見ながら、ユウトはどうしてこんなことをしてしまったか、考えていた。



確かにオキタ艦長の優柔不断な判断にはむかついた。一緒に戦っているカンナのことも心配だ。スズカワさんにしても、正義ぶって語っていたけど、自分は護衛艦の操舵士で搭載機任務に選ばれるはずがないと知っている。

誰も彼も、自分のこと最優先じゃないのか。本当にカンナのことを考えている奴はいないのか。


そこまで考えて、分かってしまったこと。それは、一番、怒りをぶつけたい奴がいるってことに。


それは・・・自分だ。転生前のユウトは、それこそ、優柔不断の塊だった。


38年間の人生において、いつも安心できる方ばかりを選択してきた。子供の頃から何事も飲み込みが早く、一緒にいる誰よりも早く物事をマスターすることができた。


勉強でも仕事でも、それは同じだった。


初めて就職した新人研修では、トップの成績だった。仕事をはじめてもトップだった。

うまくできないで、もたもたしている同期。なんでそんな簡単なこともできないんだとユウトは上から見下ろして優越感を感じていた。


だけど、そんな優越感は長続きしなかった。できないで苦しんでいる同期達はお互い励ましあって努力している。ちょっとした成功を同期達は喜びあっていた。ひとりだけできてしまったユウトはその輪に入ることはできない。


努力もしないから、ただ与えられた仕事でそれなりの結果を出すだけ。いつしか、同期達は追いついてきた。負けるはずはないと思っていた同期に初めて成績で負けてしまった時、ユウトの自尊心は悲鳴をあげた。


仲良くがんぱっている同期達。中には恋が芽生えてラブラブになったふたりもいる。今のユウトは上位の成績ではあるけど、ダントツじゃない。恋人はおろか友達すらいない。楽しみといえば、仕事帰りに寄るゲームセンターの筐体の中だけ。


社会人になってすぐの挫折はその後も繰り返していた。いつも、頑張るとこまでいかずに逃げる。仕事でもプライベートでも誰ともつるまずに生きていく。そんなユウトが生きていた平成の日本はぬるま湯だった。日雇いバイトで贅沢しなければ、ちゃんと生きていける。友達も恋人もいなければ、大してお金はかからない。生活費とゲーム代だけ稼げれば、満足できる

ユウトにとって、平成の日本はゆるいだけの場所だった。


だけど、本当の気持ちをいえば、仲間と一緒に熱くなりたい。恋人も作って熱い時間を過ごしてみたい。だけど、38歳で恋愛経験ゼロ、友達ゼロのユウトにとって、リア充とは夢のまた夢だった。


そんなユウトが転生して宇宙戦闘という熱い場にきた。15歳になって隣には同じ15歳の同僚の美少女。リア充という単語が夢ではなく、手の届くとこにさっきまで、そこにあった。


しかし、優柔不断で安全第一のオキタ艦長に奪われた。怒りがユウトを包んだ。そして、その怒りはいままでのユウトに対する怒りだと気づいてしまった。


「もう、元には戻れない。いや、戻りたくない」


そんな想いを胸に秘めて、ベーシックミッションを完了して、次のミッション選択メニューが出る。選択するのは超難関ミッション。

高密度のデブリが散乱するフィールドを高速で飛び回るミッション。


もちろん、普通はいきなりはとてもクリアできないミッションだけど、ユウトは気にしないで選択をした。結果はクリアタイムを15秒も残してノーダメージで抜けていた。評価は「パーフェクト」。



「準備完了しました。搭載機02、ユウト、出ます!」

「本当に大丈夫だな。ユウト」


モニターに映ったスズカワさんが操作コンソールの前で言う。


「もちろんです。パーフェクトの結果をお見せします」

「そうか。分かった。カンナを頼むぞ」


そう言ってユウトを送り出した。



そんなことがあった30分後、護衛艦『サザナミ』の搭乗員達はスクリーンを見つめていた。


「ターゲットとカンナ機のポイントにユウト機が近づきます」


何故か停止したターゲットにカンナ機が接触し、カンナ機も停止していた。スクリーンの限られた情報だけでは、何が起きているのかよく分からなかった。


「ユウト機も、ターゲットに接触します。あっ!」


ターゲットとカンナ機とユウト機のサインが、スクリーンから消える。


「両機、ロストしました」

「そんなっ。そんなバカな!」


独断でユウトを発進させたスズカワが操舵コンソールを叩く。


「オキタ艦長、どうしますか?」


ひたいに握りこぶしをくっつけて、顔を下げて深く考えているオキタ艦長。

顔をあげると、眼がきらりと光る。


「総員戦闘配備。これから我が艦は・・・・帰還する!」


オキタ マサヨシ、45歳。護衛艦『サザナミ』艦長。


『優柔不断と安全第一』のポリシーは想定外の事態においても鉄壁だった。


まだブクマ0なんです。よかったらブクマお願いします。


◆ユウトの獲得スキル一覧


レーザー射撃  レベル1

シミュレーション・レーザー射撃 レベル13 レバレッジ8

  サブスキル/精密射撃 溜め射撃 未来予想射撃 連続射撃

テニス     レベル4 レバレッジ5

  サブスキル/ブーストサーブ

セールス    レベル3 レバレッジ2

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