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ネアンデルタール人、シンギュラリティ、或いは花を手向けること

作者: 海山 照理

   ネアンデルタール人、シンギュラリティ、或いは花を手向けること

                                  海山 照理


  1


 あれからもう三時間が経過した。

 私は研究所から徒歩数分で辿り着くこの丘の上で独り、一面朱に染まった麦畑をずっと眺めていた。

 ウェアラブルデバイスが示す気温は、その間ずっと下がり続けていた。六月も中旬、例年なら夏日と呼ばれたかもしれないこの日でも、気温は既に一三度だ。真っ白なワンピースからはみ出した腕がとても冷たい。そして、私の傍らに横たわったまま動かない母の頬に触れるともっと冷たい。それは、血が通った人間の体温ではないことを私に再確認させた。

 ――なぜ、こんなことになってしまったのだろう。

 私は麦畑の彼方にいつしか沈みゆく夕焼けを一瞥した後、その遥か上空でまるで大きな積乱雲の様に渦巻く巨大な「ホモ・フォグレット」を仰ぎ見た。

 ――最後の独りになること。

 それはあらゆる生物種のうち、たった一体の個体にだけ体験可能なことだろうか? だとしたら、それは何故私だったのだろうか? 母のせいだろうか? もしくは、同じ境遇に至った彼女のせいだろうか?

 何を問うてみても、私に回答をよこしてくれる誰かはもういない。

 今日、私は、この世界に生きる最後のホモ・サピエンスになってしまったのだから。



  2


 終焉という言葉を聞く時、私は、いつもそこに何か幻想染みたニュアンスを感じていた。少なくとも現実という言葉と相いれない何かだと思っていた。

 でも、二年前、「UN(国際連合)」「NASA(アメリカ航空宇宙局)」「WMO(世界気象機関)」「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」……等の現実を代表する威圧的な言葉がテロップされたテレビ画面の向こうから、それらの組織員が発した言葉は、終焉とは紛れもなく現実の内に起こる出来事なのだと私に伝えた。

 ――二年後のこの月、2060年6月に想定されるある事態についてお伝えします。

 テレビ画面超しに映る英国BBCのスタジオで、中年の男性はそう語ることから声明を始めた。途中、入れ代わり立ち代わりで様々な世界的権威が説明を行った。一介の女子高校生に過ぎない私は、その放送で語られるほとんどの用語を理解することが出来なかった。だが、最後に語られた言葉で少なからず事の大きさを理解することが出来た。

 ――これは、数日で全生物種の七〇%以上が絶滅したとされる、6550万年前白亜紀末以来の大量絶滅に匹敵するものです。

 そして、ちょうど一週間後の夕方、母との会話が食卓から無くなった時、私はこの身のこととして事態の重さを理解することが出来た。

 母は、放送の中で述べられた、国境やあらゆる組織の境を越えて組織される「終焉危機対策スキーム」に人類学者として召集された。対策スキームの本部が設営されたのはポルトガルのリスボン市だった。一〇年前に父が天国に旅立って以降、母と私が移住した鎌倉の我が家からリスボン市までは飛行機を使っても二〇時間以上はかかる。それ故、私は未成年の一人暮らしという余りにも心もとない日々を余儀なくされることとなった。対策スキームの本部が何故日本ではないのか、もしくはもう少し我が家から距離が近く発展も著しい中国などではないのかと不満を覚えた。だが、ある朝、対策スキームから発行されたマニュアル類がスマートデバイスに配信されたのを読むと「……リスボン市モンサント森林公園の地下に2051年に建設された世界最大の重力波望遠鏡施設へのアクセシビリティを最優先した結果として……」などと長々と合理的らしい説明が一応なされていた。今回の終焉危機回避のために、重力波の観察とやらがそこまで大事なのかと難癖を付けてみたくなったが、いつも私の愚痴に付き合ってくれる母は不在だったので一人溜息を吐くしかなかった。

 母とは毎日就寝前に自宅の固定端末で通信を行ってはいたが、私とのコミュニケーションに費やせる時間はごくわずかなものだった。そのため母や対策スキームとやらが、日々、リスボン市の本部でどのようなことをしているのかほとんど理解していなかった。せいぜい知っていたのは、対策スキームの中では、二年後に迫った終焉を回避するため人類のあらゆるリソースが一斉に投入され始めたこと、また、学者を中心とした終焉危機対策案の提案と検討に母も参画していること、くらいだった。

 だが、その程度のことは、対策スキーム内に居た母から聞かずとも、連日の様に放映されるニュース番組から及び知ることが出来た。どうやら、多くの対策案が提案されている様だが、いずれも二年間という時間的な猶予の無さと、また、実現したとしてもその後、何万年、何億年継続するかもわからない今回の終焉危機における継続可能性の観点からこれといった打開策は見つかっていない様だった。

 メディアが伝えるには、対策スキームのミニマムな議論が空転する中、太陽はその巨大な黒点の出現頻度を順調に減らしている様で、人類の終焉は刻一刻と迫っている様だった。

 私だけではなく、皆、暗い未来を察知し始めていた。

 学校の先生は私達生徒に言った。

「こんな時だからこそ、みんなで力を合わせて一致団結することが大切なんだ」

 勘の鈍い私にも、その言葉の中身のなさだけはよくわかった。

 先生もメディアも、諦めぬ心や頑張り続けた先の奇跡を揃って口にしたが、それが疑いない表明と言い切れる者は恐らく居なかった。もしそんな人が存在すると言うのなら、私の知る限り、最近言葉を覚え始めた近所の二歳児ヒカルちゃんか、登校中の路上で見た、神による救済を叫び散らしパトカーに乗せていかれた自称救世主の浮浪者くらいがいい線をいっていた。真に説得力ある言葉を吐く者は、私の回りに誰も居なかった。全部母のせいだと思った。私にとっては母さえ居てくれれば然したる問題はなかったはずだ。それくらい母はいつも私の疑問や不安に的確な解を示してくれる存在だった。

 そんなことを就寝前、独りになった寝室で考える時、ふと思い出すのは、母が私に教えてくれた古い言葉だった。

「神は死んだ」

 縁起でもない言葉だった。含みが無さ過ぎるためか冗談の様に聞こえるこの言葉は、でも、終焉の判決を受けた世界の雰囲気を的確に言い表している様に思えた。

 19世紀後半、ニーチェという思想家はその言葉を高らかに宣言し、そして、付け加えるように、神なき代償として人類は「力への意志」を手に入れるのだとも言ったらしい。今日となっては、その力への意志とは即ち「科学」であったと私には思えた。でも、その科学が招いた結論は、終焉の日の正確な予測と、それを知りつつも打つ手なしの絶望に打ちひしがれる二年間の地獄だったようだ。未だ神も悪魔も見ぬうちに地獄をこの世に引きずり出す科学の力には恐れ入るばかりだった。科学的予測なんかより、毎度外れてばかりで予定時刻も曖昧な悪魔的カルト教祖の予言の方がまだマシにも思われた。そもそも、人類は科学など手にせず、神を妄信し続けていた方が幸せだったのかもしれない――そうであれば、私達は、滅びのその日まで何も知らずに例年より多少肌寒いだけの日常を暮らせていたのだろうから。文明の進化を巻き戻しどうにかニーチェとやらの口を塞ぎ、神ある日々を歩み直せないかなどとなんとも敬虔な妄想に浸っている時、それでもまた思い出すのは母が教えてくれた言葉だった。

「進化の本質は不可逆性にある。どこに向かおうが後戻りは出来ない」

 母は大学で教鞭を執る優秀な人類学者だった。

 私が幼稚園に上がる頃から、国からの助成金を上手く引き出せる様になり、よく学術研究と題した海外旅行に連れて行ってもらった。特に、欧州には母の研究対象である先史時代の洞窟遺跡が数多く残っており何度も足を運んだ。幾度目かの渡欧かは覚えていないが、私が小学三年生の頃、欧州の南西に位置するイベリア半島ジブラルタルに連れ出され、母と海岸線を眺めながら会話した記憶がある。

 その時、母は私に言ったのだ。

「人類は私達ホモ・サピエンスだけじゃなかったのよ」

 母は洞窟調査を終えた後で、身体に被ったのであろう泥や埃を払いながらそう言った。

「このジブラルタルの洞窟には、私達ホモ・サピエンスとは別の人類――ホモ・ネアンデルターレンシスが住んでいたの」

 私は小学生だったが、母の人類学に偏った教育のせいで、ホモ・サピエンスという言葉の意味を知っていた。それは、私達現生人類というヒト属の一種を指す言葉だ。だが、その後に母が続けた別の人類の名前は初めて耳にするものだった。

「ホモネアンデルターレス?」

「ホモ・ネアンデルターレンシスよ。イリスはネアンデルタール人って覚えておけばいいわ」

「ネアンデルタール人なら、私知ってるかも。私達の遠いご先祖様のことだっけ?」

「そういう風に習ったの? なら、それは間違いね。ネアンデルタール人は、私達の直系の祖先にあたる先行人類じゃなくて、少なくとも三万年前まで、私達現生人類と同時代に生きていた当時の現生人類よ。それぞれ独立した一つの人類種だったの」

 母の言葉回しはいつも少し難解に思えた。ただ、学者とはそういうものだと私は当時から理解していた。

「今はいないの?」

「今はいないわ。私達ホモ・サピエンスがアフリカ地区から彼等の住むヨーロッパ地区に進出した時に絶滅したと言われているの」

「私達が絶滅させちゃったの?」

「わからない。私達ホモ・サピエンスが意図的に絶滅に追いやったのか、もしくは、生態圏が重なったことで自然的に淘汰されたのか……。でも、彼等が四五万年以上住まったヨーロッパ地区に私達が侵入すると、彼等は北の果てはウラル山脈西麓、南の果てはこのジブラルタルと、辺境の地に追いやられ、たかだか一万年程度でその姿を消した」

「ジブラルタルってここだよね?」

「そう。このジブラルタルは、追いやられたネアンデルタール人の最後の一人が息を引き取った寂しい場所かもしれないの。それに面白いことに、ローマ時代にこの地を訪れた私達ホモ・サピエンスも、このジブラルタルの地を“世界の最果て“と呼んだそうよ。それくらい寂しい場所かもしれないわね」

 私は辺りを見回し、確かに寂しい景色だと思った。洞窟が空いた高い岩肌に乾燥した土埃が吹き付け、一歩でも踏み外せば崖の下の海に吸い込まれていきそうな、そんな行き場のなさを感じさせた。

「でも、だからこそお母さんは、そんなネアンデルタール人の化石を掘り起こしてあげているの。埋まったままじゃ可哀そうでしょ? それに今回の研究では大きな発見があった」

「発見?」

「ここではイリスくらい歳のネアンデルタール人の少女の化石が見つかっていて――お母さんはその娘の名前をネアンと呼んでるんだけど、新しく開発された技術で彼女のDNAを完全に解析することが出来たの」

「DNA? はよくわからないけど、ネアンって名前の方はちょっと単純だね」

「ネアンデルタール人最後の少女の名前がネアンっていうのも覚えやすいでしょ?」

「そうかな? でも、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が仲良くなれなかったなら、イリスとネアンもきっと仲良しにはなれそうにないね」

「そうとも限らないわ。ネアンデルタール人は例外的にだけど、ホモ・サピエンスと共生したこともあったの。私達ホモ・サピエンスのゲノムには、数パーセントだけど彼等の血が混じっているのよ」

「結婚したの?」

「まぁ、そういうことね。それに、彼等は私達が想像するよりずっと私達らしかったはず。彼等も貝殻や骨でアクセサリーを作り着飾ってみたりしていたみたい」

「おしゃれだったんだね」

「そう。おしゃれだったの。それにね、きっと私達と同じ優しさを持っていたとお母さんは思っているの」

「へぇ」

「例えば、彼等の化石を調べると、骨に大きな傷や陥没があったり、また、四肢が不自由だった者達が居たことがわかる。興味深いのは、傷や不自由を抱えた後にも長い年月を生き延び、老年で死に至った痕跡を見ることが出来る」

「うん」

「つまり、独りでは生きていけない身体だったにも関わらず共同体の扶助を受けて生き延びることが出来た。彼等の共同体に優しさという概念がなければ成立しなかったことよ」

 母は少し熱っぽい口調になって続けた。

「それに、中東の洞窟遺跡の調査からは、彼等が死者に献花していたこともわかっているの。イリスもお父さんが天国に行った時、お母さんと一緒にお花をお供えしたでしょ? お父さんが天国でお花に囲まれて幸せになれるようにってお祈りしたでしょ? あの時の天国のお父さんを想う優しい気持ちを持っていなければ、花を手向けるなんてことは出来っこない」

「だからホモ・サピエンスとネアンデルタール人は結婚出来たんだね。優しい者同士だったんだね」

 私がそう言うと、母は海の向こうに視線を向け、どこか寂しそうに言った。

「……でも今は、人類としては私達ホモ・サピエンスだけしか残っていないわ。私達は高度な進化を成し遂げていく中で、彼等を意図的にか自然的にか淘汰してしまった。いなくなった者は戻らない。同じ人であったかもしれない彼等の存在にどんな意味があったのか、今となっては誰も分からない」

 母の言葉はいつしか私の存在を忘れた自問の言葉になり始めた。

「種の競争と淘汰は、実のところ誰の意志が省みられる訳でもないし、生物個体に主導権や選択権がある訳でもない。あるのは進化という自然の力学だけ。優しさとか、感情とか意味とか意義とか、そういうものは何も関係ないの。時間の様に一方的で正確で無機質な力学だと思うの。勝者も敗者も、同じところに戻ってやり直すことは出来ない。敗者の――置いて行かれた亡霊の声は、先行く勝者には図り知ることは出来ない。天国に旅立った者の声は知り得ない」

 母はそこまで言い終え、不安そうに見つめる私の存在に気が付くと、付け足すように「先に進むこと――進化の本質は不可逆性にある。どこに向かおうが後戻りは出来ない――それが真実なら、イリスも毎日を一生懸命に生きていくべきよ」と言って、子供への言葉に無理くり変換した。

 難解な言葉と子供向けの言葉の分別すら曖昧な母は、およそ養育者としては不適格だったと思う。それに、母が私に語る人類学の話は必ずしも学会のコンセンサスを得たものばかりではなかった。ネアンデルタール人に一定の相互扶助の営みがあったであろうことは間違いなさそうだが、そこに優しさの概念が存在していたと断言することは難しい。特に、ネアンデルタール人が死者に花を手向けたという説には異説も多い。例えば、彼等の遺跡に後年、花草を集め巣作りをするスナネズミが住み着き、偶然、化石の周辺にまるで献花が為された様に巣を作ったとする説なども提唱されている。そう考えると母の言葉のほとんどは自説であったのだろう。それでも、私は幼い頃から母の言葉こそ真実だと疑わなかった。それは後に母の言葉が対策スキームに集い絶望の淵にあった一流の学者達に、そして、終焉を間近に控えた全人類にすら光明を与えることになったことで確信に変わった。



  3


 件の放送から半年が経った頃、いよいよ打つ手なしの混迷を極めた対策スキームにおいて、母は人類学者独自の視点である対策案を提出した。

 いつしか『ホモ・フォグレットへの進化案』と呼ばれれる様になった案だ。

 母と、後に母の最も重要な協力者となるアランから聞いた話によるとその案が提出されたことで、人類は初めて終焉を回避するチャンスを与えられたこととなる。

 それまで、対策スキームに集った様々な分野の学者達は皆あらゆる案を提案したが、その根底にあるコンセプトは共通していた。この終焉の危機に対して「現生人類を如何に存続させるか」というものだ。当然と言えば当然なそのコンセプトは、母に言わせれば想像力の貧しさに縛られていた。

 だから、母はリスボン市を出て、米国カリフォルニアへ飛んだ。

 母は、現生人類が現生人類として存続することは不可能であると早くから見切りをつけ、“進化”の発想に則った対策案を検討していた。それは、「現生人類の存続が不可能であるならば、存続可能な新人類に『進化』すれば良い」というものだった。話は酷く簡単だ。今回の終焉に、人類種が耐え得らないのであれば、耐え得る種に進化すれば良いという提案だ。

 当初は、ほとんどの学者が無視したこの主張だったが、あらゆる対策案が棄却される中で、相対的浮上を果たしいつしか支持を得るに至った。母は期が熟したとばかりに、対策案の実現に不可欠な技術を持つ人工知能やナノテクノロジー関連企業の開発者達――カリフォルニア地区を中心に活動を行うシンギュラリタリアンと呼ばれる人々の助力を煽ろうとしたのだ。

 この米国への出張には、私も同行した。日本への帰国が月に一度あれば良い方だった母が、心ばかりの謝罪とでも言わんばかりに設けた母子の久々の旅行の様にも思えた。

 カリフォルニアのサンフランシスコ国際空港に到着した私は、そこに漂う、ある意味想像通りの、絵に描いた様な陽気さに目を見開いた。大きく開けた港内の窓やガラスからやけに輝度の高い日差しが差し込み、食堂や土産屋の店内からは小気味良いテンポのバンドサウンドが流れ出していた。肌の色も言語もバラエティに富んだ人々が浮足立って港内を歩いていた。私は久々に終焉という現実を忘れた群衆を見た気がした。

 喫茶店で母と落ち合うと、小一時間程、親子の会話を楽しんだ。

 相変わらず母の口から出る言葉のほとんどは学術タームを折り重ねた対策スキームでの研究についてのものだったが、そんな様子が変わらぬ母を実感させ私には丁度良かった。それに、私も、母のよくわからない難解な話の流れをへし折る様に、学校での些事な出来事についてのべつまくなしに話しまくった。完全なるディスコミュニケーションと言えばそうだが、人間の繋がりとは表層の会話の小奇麗さで決まるものじゃない。私と母は、すれ違い、ズレ合う会話のリズムの中に、でもお互い変わらぬ在り様を感じ親子としての絆を確認し合った。

 彼が私達のテーブルに現れたのは、そんな親子の時間の真っ最中だった。

「――対策スキームのアマノユリさんですね。シンギュラリティ・アライアンスのアラン・サフォーです」

 事前に母から聞いてはいたが、三〇代前半にしては若々しく服装もサーファー風のそれにサングラスと、いつも母の仕事仲間として紹介される学者のおじさん連中とは一線も二線をも画していた。それになにより、サングラスを外して覗かせた青い瞳と笑顔は思春期の私の胸をときめかせた。

「今日は、欧州より私達のカリフォルニアへ来ていただきとても嬉しく思います。娘さんのイリスさんも是非カリフォルニアを満喫していってください」

 アランは眩しい笑顔で私にも声を掛けてくれた。私としては、彼の素敵な雰囲気に引きずられ、すっかり今からカリフォルニア観光を楽しむ様な気持ちになっていた。

「ええ、ありがとうアラン。でも、今回は意見交換などとかこつけた観光ではないの。対策スキームが遂に、あなた達シンギュラリタリアンにも正式に協力要請を出した。ここに至るまでどれだけ下らない議論を経て来たか……」

 どうやら母の今回の出張に懸ける思いは私とは対照的にとても真剣なものだった。母曰く、対策スキームに召集された学者達は、キックオフ以降、あまりに保守的な議論ばかりに時間を浪費してきた。母は当初から急進的な打開策を訴えていたが愚鈍な学者集団に、自らの愚鈍さを理解してもらうため、成果のないことが見え透いた会議を重ねる必要があったのだと言う。母はそれらの会議の傍らで、自らが構想する『ホモ・フォグレットへの進化案』推進のため、非公式にこのカリフォルニアに集うシンギュラリタリアン達――特に最先端企業が集うシンギュラリティ・アライアンスのトップエンジニアであるアランを窓口に――様々な対話を進めてきていた。今回は初めて対策スキームからの予算を得ての正式会合が行われるのだと言う。

「本当に、この危機的局面にあって、ここまで時間を要するなんて私達民間の組織では考えられないことです。何にせよ、今日この場のセッティングに漕ぎつけたユリさんのご心労はいかばかりかと」

 アランは冗談めかしてそう言うと、私達を社用車に連れ、会合が行われるホテル・カリフォルニアまで案内した。

 会場には、場違いにも思えるカジュアルなファッションのカリフォルニアの経営者や開発者達――シンギュラリタンと呼ばれる彼等が五〇人近く集っていた。母によく連れられていった学者達の集いとはかけ離れてカラフルでカジュアルな光景だった。スーツなど着ているものはほとんどおらず、良くてジャケット、多くはパーカー、悪いとメタルバンドか何かのシャツを着ている者さえいた。が、皆、シンギュラリティ・アライアンスに属する最先端企業の人々だった。これだけ敷居の低そうな会合もそうはなく、完全なる部外者である私も、会合の一席をあてがわれ、母と彼等の議論を拝聴出来た。

 会合では、アライアンス側からあらゆる技術情報及び一〇〇名の人員提供を、また、その内、リスボン市本部へ三五名の常駐人員の提供を約束する調印が行われた。また、ユニットのリーダーは母に、サブリーダーはアランに決定した。



  4


 私の住む日本では初雪がちらつき始めた頃だった。終焉までの残り時間は、もう数えるのが嫌になる程に現実的な数字になっていた。

 新横浜駅周辺は、例年にない程明るく煌びやかなネオンが飾り付けられクリスマスを祝っていた。しかし、私にはその光景は終焉を前にした最後の享楽の様な投げやり感を思わせた。街を歩く人々の表情は子供達を除き、どこか悲しげな、そしてこれから来る終わりへの不安を宿していた。

 私は毎日、母との通信を交わしつつ、一方で、カリフォルニアで知り合ったアランとの文通も始めていた。母は自分の研究についてあまり話さない。なので、アランから教えて貰う母の研究についての話はとても参考になった。とは言え、アランとの文通の価値はアランという素敵な男性との言葉のやり取りにこそあるのも本心だった。やはり、私には日本人のがさつな男性よりも垢抜けた欧米の男性の方が魅力的に映るらしかった――自分でも日本人の女子高生らしい感性だと思った。

 アランとの文通によると、この頃、母の組織したユニットは対策スキーム内で最大の派閥になっていた。同時に母は以前より多くの時間を本部研究所内での活動に投資する様になったと言う。

 タイムリミットが迫る中、母は個人としての生活や人生を人類のために献上する義務があった。そこには、依然として、娘である私の養育の放棄も含まれていた。但し、人類には未だに人権意識――言ってしまえば、対策スキームという団体としての世間体は存在した様で、研究所内に母と私のためのプライベートルームを設置するので、そこに母子ともに住むことを提案してきた。

  私としては、地元や高校の皆と離れることは寂しかったが、月に一度も自宅に帰らなくなっていた母とずっと一緒にいられることの方に魅力を感じた。さらに母は、母子転居の提案に加え、対策スキームにある追加条件を提示した。それは、私が、対策スキーム内でのあらゆる会議や研究の場に立ち会うことの許可だった。母は、娘の教育の場として、地元の高校より、この対策スキームもとい今や人類最高の英知が結集した場での知のやり取りを垣間見ることこそ最大の教育になると考えた様だった。対策スキームもこの条件を容認した。素人の一人が会議の場に入り込んだところで、然したる障害はないであろうし、機密漏洩が発生したとしても、今や私達の敵は天体活動である。機密も何も、宇宙の法則には無関係だ。

 私はリスボン市の本部構内に転居し新しい生活を始めることとなった。

 当てがわれた私達母子のためのプライベートルームには、日ごと立ち代り家庭教師がやって来た。彼等は母のもとで働くシンギュラリタリアン達だった。仕事の片手間に、まるでちょっかいでも出すように色んな開発者達が出入りしていった。とは言え、誰も彼も、現代に名を馳せる開発者で、彼等の雑多な、でも、ディープな科学講義は私の知的好奇心を満たすに十二分だった。特に、アランは暇を見つけては、よく顔を出してくれた。アランは対策スキームで母と彼等シンギュラリタリアン達が何を開発しているのか丁寧に教えてくれた。

  彼は私の部屋を訪れるとよくこんな類のことを言っていた。

 「君のお母さんほど知的で革命的な学者はいない。ユリさんは本当に人類の救世主に成り得るかもしれない」

  アランは学者としての母が如何に優秀な人物かを娘の私に吹き込んだ。

  彼曰く、母の最も素晴らしい点は、人類学者として他の学者にはないパースペクティブのでこの終焉の対策案を考えていることだと言う。確かに、他の学者達が現生人類を如何に保管するかという視点から対策案を考案しているのに比べ、母は保管する対象を現生人類と固定しない。ホモ・サピエンスから進化した超人類を志向するあたり、命題の立て方から大きく違う。アランが言うには、母は、ホモ・サピエンスが従前のホモ・サピエンス性を失うことなく、拡張的に超人類に進化する要件についても一つの回答を提示している点が素晴らしいのだとか。ちなみにそれは意識だった。

 母は、ホモ・サピエンスが進化を果たすにあたり、右腕を、左目を、心臓を、物理的身体そのものを失おうと、その肥大した脳さえあれば――究極的には、脳の機能――引いてはニューロン間の電位通信ネットワーク――つまりはニューラルネットワークさえ引き継ぐことが出来れば人間の意識世界は稼働し続けると言う。そして意識世界だけあれば、人間は従前と何も変わらぬ姿で生存可能だと主張していた。

 私は母のこの意味不明な主張について、専属家庭教師のアランに「身体を失っても意識さえあれば身体を失わないというのはどう考えても矛盾だ」と疑問をぶつけてみた。

 するとアランは「イリスはいつも言葉の表面だけをなぞるから混乱するんだ」と言って、いつもの様に講義を始めてくれた。

「ユリさんの――君のお母さんの考えを理解するには、存在についての概念を理解しなければならない。ユリさんは存在には空間がまず必要だと考えている。そしてここがユニークなポイントだが、存在に許される空間は物理空間に限らないとしているんだ。物理空間の他に情報空間があるのだと、そう考えている。それをまずは理解してくれ」

「情報空間? イメージし辛いわ」

「そうかい? イメージするも何も、今、君の実存が存在しているのは実のところ情報空間だ。何を言いたいかと言うと、そもそも意識は情報空間にしか存在し得ないということだ。それは心とか魂が居る場所と考えれば理解し易いかもしれない。君が、君の目に見えるもの触れるもの全てを君の“第一人称”として感受出来るということは物理世界という次元だけでは説明し得ないことなんだ。物理式では君の“第一人称”という現象は一切記述出来ない」

「ちょっと待って、全然わからないわ」

 アランは少し困った様にしばらく俯いて言った

「じゃあ、例え話だ。君の右の掌で赤いリンゴを持ちあげたところをイメージして欲しい。そのシーンを君の心が感受するに至るまでにどんな現象が起きていると思う?」

「……右手の触覚がリンゴを持った際の刺激を感受して、両目が赤いリンゴが発する光のパルスを感受して、それらの感覚刺激が神経を通って脳に届く。そして、最後はそれらの刺激が脳内のニューラルネットワークを電位情報となって駆け巡り、私の心が感受する」

「その通り。そう考える時、君の心が外界を感受する直接の原因はニューラルネットワークを電位情報が駆け巡ることだ。それが心が物理世界を感受する最低限の要素だ。そして、それ以前の手とか目がどうのというプロセスは必ずしもその形式である必要はない。機械で作り上げた人工の情報をニューラルネットワーク――つまり第一人称に直接流し込めば同じ様な体験は生起し得るんだ」

「何が言いたいか分かって来たかも……水槽の中の脳とか、電脳世界とかそういう話?」

「なんだ、分かってるじゃないか。そうだ。情報空間に在る意識そのものについては人間は未だ全く手出し出来ないが、物理世界に属する、外界や身体の情報については如何様にも作成し得る。ホルマリン漬けの脳さえ残せば、そこに電極を刺し外界の情報をインプットしあたかも全身欠損なく、ある時間、空間、つまりは物理世界の中で生きていると感受することが出来るっていう身も蓋もない話さ」

「本当に身も蓋もないわね。でも、私が聞きたいのは、どうそれを可能にするの?」

 そう言うと、アランは不敵な笑みを浮かべて言った。

「それは僕の専門だ。端的に、意識の座という意味で僕らが指示する脳とは、ニューラルネットワークのことを指す。そして、ニューラルネットワークとは一つの情報システムに過ぎない。情報システムであるならばコンピューターの中でも存在可能なはずだ」

「パソコンの中の脳ってことね。うーん。ますます身も蓋もない話ね」

「そうさ。人の心はコンピューターに引っ越し可能って発想さ」

「でも、それは方法を説いている訳じゃないわ。そんなことどう可能にするのよ」

「まだ問題は残っているんだけど、大筋で決まっていることはある。――フォグレットを使うのさ」

「フォグレット?」

「分子ナノコンピューター群が密集した雲の様な躯体なきOSとでも言おうか。人間のニューラルネットワークを構成する単位がニューロンならば、ナノサイズの分子コンピューターをニューロンと見立て、さらにそれらニューロンが織りなすところのニューラルネットワークを、分子コンピューター群の連携システムと見なせば、ニューラルネットワークであるところの人間の意識の機能的側面――機能的意識と呼ばれるそれは完全にエミュレート可能なんだ。つまり、フォグレットとは脳内のニューラルネットワークを模した、霧様雲形コンピューターなんだ」

「それって人工知能みたい」

「言うまでもなくそうさ。ただ、僕は、人間とは別の知能とか意識としての人工知能には興味がない。人工知能とは人間の乗り物としてこそ真価を発揮する。乗り物なんだ。フォグレットという乗り物に、人間の実存である意識を乗せてやることが出来れば、それは紛うことなきホモ・サピエンスの種的な進化だと言える。そうなった時、・フォグレットは、進化の先端に立つホモ・フォグレットとでも呼ぶべき一つの生命種として成立する」

「ホモ・フォグレット……。でも、やっぱり、その雲の乗り物に、人間をどう乗せるかという問題はまだクリア出来ていないようね。その説明だけはさっきから出来ない様だし」

「……流石はユリさんの娘だ。確かに、機能的意識をフォグレットに転移することは可能だと結論付いているが、第一人称体験を生む意識の側面――主観的意識を脳から雲にどう転移するかの理論――トランスファー理論については未だに検討付かずだ」

「そういう難しい話はお母さんがきっと解決してくれるわ」

「僕もそう願っているよ。――何にせよ、フォグレットという乗り物の作成すら今までは遠い夢の世界の話だったんだ。今、対策スキームにはあらゆる資本と人財、技術が集められフォグレットは現実的なアイテムとして開発が進んでいる。僕達シンギュラリタリアンと呼ばれる人々が夢見たシンギュラリティは目前だ」

「アランの脳内は機械のことばかりなのね」

「そうかもしれないなぁ」

 そう言うと、アランはコーヒーでも淹れよう、とブレイクタイムを申し出た。

 アランは私の幼稚な質問にいつも丁寧に答えようとしてくれる。私にとっては、いつしか母の次に信頼出来る人間になっていた。――ついでに、恋愛感情を寄せる素敵な男性にもなり始めていた。

 アランはコーヒーを淹れながら窓際を指さして言った。

「イリスはどうしていつも窓際に花を飾っているんだい? 何て言う花?」

「プリムラって言うの。天国のお父さんに毎日この世界の鮮やかな彩りを届けているのよ」

「プリムラか。お父さんもきっと喜んでいるだろうね。とても綺麗だ。この寒冷化する地球の中でもまだまだ花は咲くものだね」

「花にはこの程度の寒さも太陽系の重力異常なんかも関係ないわ。いつだって美しく咲くの。世界を機械脳で感受するアランには少し眩し過ぎたかしら? あんまり眺めていると美しさで機械の目が潰れちゃうわよ?」

 難解な講義の仕返しとばかりにちょっとした冗談を返した。

「そうかもしれないな。機械脳ででっち上げた人工花に比べて、なんとも新鮮な輝きだ」

「アランも花は好きそうね。ねぇ、そうだって言うのなら、私に花束をプレゼントして。出来れば両手いっぱいのを。この部屋に飾ってあげるから、ね?」

 私は小さな告白を会話の延長で無理くりねじ込んだ。アランは笑いながら言った

「そうだね。来週末にでも大きな薔薇の花束を抱えてプロポーズに伺わせてもらうよ」

 私はこれが冗談の上に成立した約束だとわかっていても、心の中で小さな幸福を感じていた。

 でも、遂にアランから花束を受け取ることはなかった。

 それは、その翌週にフォグレットが完成することとなり、本部は大変な混乱に陥ったからだ。



  5


 私は母に付き添い所内の様々な現場を以前にも増してよく見学する様になっていた。現場はいずれも人類の存続にかかる重要な発見や議論の場面ばかりだった。もし、今回の終焉を乗り切ることが出来れば、きっと未来の教科書や映画に採用される様な科学史上の重大事ばかりだったと言える。それはまさに、ニュートンがりんごの落下に重力を直感した瞬間や、ダーウィンが人類は猿から進化したと熱弁した場面に匹敵するものばかりだった。

 中でも最も重要な会議となったのがB607室で行われたやり取りだった。

 会議室の半分を母をリーダーとしたシンギュラリタンの派閥が占め、もう半分の反対派との討論が行われていた。私は、会議室の入り口近くのパイプ椅子に座り討論の行く末を見届けていた。

 母は出席者に向け力強く切り出した。

「我々の機能的意識――脳内ニューラルネットワークの情報構造を、フォグレットに転移することは確かに可能である。しかし、一方で、我々の主観的意識――個々人の“第一人称”を、どのようにその雲の中に転移するのかという問題は確かに悩ましい」

 この頃、フォグレットによる人間の機能的意識の完全なるエミュレーションは、生体内ナノボットによる脳内ニューラルネットワークのスキャニング、そのアルゴリズム化及びフォグレットへのインストールプロセスの確立と共に実現していた。

 但し、フォグレットという乗り物を作成出来たとしても、そこに、私達の意識の第一人称――言ってしまえば、魂はどう転移するのかという問題は解消されていなかった。

「――しかし、考えてもみてほしい。我々人類の医療現場では、生身の身体の一部を機械に置き換えることは既に当たり前の様に実践されてきた。例えば、脳の一部のニューロンを損傷した者には、その機能を代替するニューロン型コンピューターチップを移植することで治療を続けてきた。そして、彼等の主観的意識は以前と変わらず継続し続けていると我々は確信してきた」

 学者としての母の口調はいつも雄弁だ。娘の養育者としての母の不器用な振る舞いも嫌いではないが、やはり、母の本性は学者だ。母の壇上での振る舞いは一種のカリスマ性を覚えさせる。母の元に多くのシンギュラリタリアンが集った要因として、その理論や主張もさることながら、その独特のカリスマ性の影響もあったのではないかとすら思わせる。

「――で、あるなら、さらに進んで考察して欲しいことがある。もし、脳内のニューロンを、一日一%ずつ、全く同等の機能を持つコンピューターチップと交換するとする。これを一〇〇日継続すれば、彼は一〇〇%マシン脳の人間になる訳だが、恐らく彼は継続した自己同一性を保っているはずだし、主観的意識の連続性も失われていないことを我々は認めざるを得ない」

 母は続けた。

「しかし、一方で、彼の脳内のニューラルネットワークを完全にコピーした一〇〇%機械脳のアンドロイドを、彼の生身の脳と交換することなく、別途に作成した時、彼の意識は依然として彼の生身の側で継続しつづけるだろう。つまり、主観意識の同一性は保たれない。彼の横に彼と瓜二つの思考をする人工知能が出来上がるだけだ。この問題が示す結論は次の様な事実だ」

 母は熱っぽく早口でまくしたてる。

「主観的意識に連続性が認められる条件――それは、意識のこの世界における座標位置が不動または不断移動していることだ」

 少しの間を空け、出席者を睨み、ふとすれば独裁者の様にも見える振る舞いで続けた。

「そもそも、ホモ・サピエンスの実存は、分子生物学的スコープで覗けば半年で全ての細胞が、まるで空間から塵や埃を巻き込み吐き出す竜巻の様に入れ替わる。実存とはそもそもが情報的にしか固定され得ないのだ。つまり、この世界のある座標位置に発生した情報的な竜巻とでも言うべきものだ。で、あるなら、その情報的竜巻を構成する物理的な塵や埃などの構成物を、同機能の別の人工物――例えばそれがニューロンであるならば、フォグレットに段階的に置き換えれば問題などないはずである。サハラ砂漠の黄色い砂で出来た竜巻が、いつしか、ゴビ砂漠の赤い砂を吸収した赤い竜巻になろうと、竜巻にとっては、外見が異なるだけで、その存在のアイデンティティは連続している。故に――」

 と、遂に、反対派の男が口を開いた。

「そんなおとぎ話はどうでもよい! それをどうやって実証するというのだ? ここは哲学談義の場ではない! 刻一刻と迫るタイムリミットに追われる科学の場だ! どう実現する!? まさか竜巻の観測でも始めるのか!?」

 彼は怒り、捲し立てた。だが、母は、取り乱すこともなく、一つの画像をディスプレイして言った。

 「この画像を見て欲しい。私の脳内をスキャニングしたものだ。……お分かりでしょう。そう、私は一〇日前に、脳を全てフォグレット化することに成功した」

 会議室はどよめき始めた。

「脳の内容物のフォグレットへの段階的交換施術は、およそ一五秒で完了した。詳細は後に述べるが、トランスファー理論が遂に完成した。――言うまでもなく、施術の間、私の主観的意識は一切途切れることはなく連続性を保った。私は、恐らくホモ・サピエンスから、脳だけではあるがホモ・フォグレットに進化することに成功したのだ」

 ディスプレイには母の頭部のMRI画像が写されていた。しかし、頭蓋の中に写った影はひだ状に入り組んだ脳のそれではなく、フォグレットと思われる均一な影だった。

 会議の席に居た皆が唖然とし、誰も何かを発言しようとはしなかった。母を始めとするシンギュラリタリアンの試みは、この日完全なる勝利を治めたのだった。

 

 会議の一〇日前、母は、所内の実験施設に私を連れて行った。

 アランの開発チームが遂にフォグレットという器に引き続き、トランスファー理論に基づく転移プログラムの開発に成功したと連絡を受けたのが、そこから、さらに二日前の出来事だった。

 私と母がその大きな倉庫の様な実験施設の扉を開けた時、室内の天井近く――床から一〇メートルあたりの上空に、雲としか形容のしようがないそれが、ユラユラと揺蕩い渦巻いていた。私が・フォグレットの実物を見たのはこれが初めてだった。この雲が1nm未満のコンピューターが無数に寄り集まり、互いに連携し合う一つの人工知能だと感覚的に理解するのはとても難しいことに思えた。

 アランは言った。

「ユリさん! 遂に全ての材料が揃いました!」

 私は彼等がどのようなテクノロジーでこの奇怪な雲を作り上げたのか皆目見当が付かなかったが、それが、彼等シンギュラリタリアンが目指した至高の芸術であったことは、彼の熱の入った口調から即座に伝わった。

「あとはこの雲に人間の意識を移し替えるだけです。先ずは動物実験を――」

 母はアランの言葉を遮り言った。

「私が被験者になる。動物実験は不要。私が提唱した・フォグレットへのトランスファー理論はほぼ完璧であるし、そのためのテクノロジーもあなたは完成したのだと断言した。残るはタイムリミットの問題だけ。ここで失敗する様なら終焉に間に合うことなど有り得ない」

 母がそう言うとアランは慌てて言った。

「――でも、余りに危険です」

「問答は不要。私の意識を、全身とは言わない――脳だけでも、あのフォグレットにトランスファーする」

 その発言に、そこに居たシンギュラリタリアン達は慌てた。しかし、母は脳だけをフォグレットに置き換え身体は残すこと。また、表現系についても身体は捨てず、頭蓋内のフォグレットから脳がやっていた様に操作を行うという条件をもとに皆を押し切った。意識が人間の実存で、それが脳にのみ宿っているのならば、その取引条件は全く何の条件にもなっていなかったのだが、母は押し切り一〇分後には雲へのトランスファーを開始した。

 アランはいくつかの設定や準備を早々に終え、半ばヤケくその様に「どうなっても責任は取れませんから」と言い放ち、固定端末からフォグレットにコマンドを送信した。次の瞬間、雲はその渦をさらにタイトな形状に変え、その中心から母の頭部をのみ込んだ。

 固定端末にはリアルタイムでフォグレットからのモニター情報が返されてきた。

 ――母の身体に、皮膚及び呼気から流入し、脳内の血管や細胞内に浸透。脳内ニューラルネットワークの情報構造――機能的意識をスキャン及び移転。既存の神経細胞に取り替わる様に。でも、脳機能を停止させぬ様一分子ずつ取り替わる――理論が正しければ、主観的意識も途切れることなく移転されているはず……。

 皆がモニター情報に集中し、静けさが訪れた。その静けさの中で私の脳はやっとことの進展に追いついた。

 ――この実験は……母が死ぬかもしれない危険を孕んでいる、のか? 親子の会話など挟む余地もなかった。余りにも唐突過ぎた。母はいつも私の愚図を待ってはくれない。

 しかし、そんな内省も、ものの数秒で終わった。

 頭部に纏わりついていた雲は一部を母の頭蓋内に残し、残りはまた上空の本体に戻っていった。母の足元には真っ白な砂塵が散っていた――先程まで脳を形成していたであろうタンパク質がフォグレットにより微細分解され、体外に排出されたものだった。

 皆が固唾をのんで見守る中、母は振り返り、前と変わらぬ笑顔を見せて言った。

「今、私がフォグレットに囲まれ、意識をトランスファーしている間、私の第一人称は完全に継続していた! 自己同一性や記憶に支障はない! 私はアマノユリだ! イリスの母でこのユニットのリーダー! ……そして、終焉の危機からホモ・サピエンスを救う一人目のホモ・フォグレットだ!」

 母はやはり無敵だった。

 私が母の心配などする必要など毛頭なかったのだ。私は戻って来た母に最早何も言葉をかけなかった。私の言葉など何の必要もない。言葉とは母のためにあるのかもしれない。そして、今後、母の言葉は、存在は、私だけではなく全ての人類を終焉から救済することになるのだ。

 その後、母はすぐさま検査室に連れていかれ、ありとあらゆるメディカルチェックを受けたが、全ての項目に異常はなかった――ただ一つ、頭蓋の中の脳を占めていた空間が均一なフォグレットに満たされていることを除いて。

 その後は知能テストが実施された。母に対して常識的な質問を問う様な簡易なものから、いくつかの数学的課題を解かせるペパーテストなどだった。母は淡々とそれらの課題をクリアした。特筆すべきは、数学的課題への回答速度の圧倒的な速さと完璧な正答率だった。実質、腕を動かし、ペーパーに回答を記入する時間を除けば、かかった時間はほぼ〇だったと言える。さらには、テスト終了後に、いくつかの設問については、既知の数学理論を応用して解を導いたが、実際にはもっと効率的に且つ美しく解を導ける未発見の数学的な定理が存在することなどを語った。つまり、母の知能はシンギュラリティを迎えていた。母曰く、メディカルチェックを受けている間、自身の知能が自身の知能を自己成長させる方法を発見し数十分のうちに果てしない知的成長を果たしたのだと言う。

 全ては完璧だった。

 そして、母は即興的に、ある知的探究を思いつき、実験をすると皆に伝えた。一時的に、既に滅びたネアンデルタール人の脳を体験したいというのだ。母らしいアイデアだった。

 またもや皆が右往左往する中、母は固定端末の中に保存してあったあるデータを閲覧し始めた。それは母が何年も前に研究で関わったていたジブラルタルの洞窟で発掘されたネアンの遺伝子情報だった。母は、小型ディスプレイに映された遺伝子情報を目視で読了すると、頭蓋内のフォグレットのプールの中で自身のニューラルネットワークとは別に、ネアンの遺伝子情報から推測されるニューラルネットワークのエミュレーションを開始した。  

 母はその間、無表情で私達をただ見つめ続けた。三〇秒の間、母は身動き一つとらず、ただ、ただ、私達を見つめ続けていた。

 そして、ふと何かに気が付いた様に私達に告げた。

「明日からの一週間、休暇を貰うわ。ホモ・フォグレットへの進化案はスケジュール含め完全なる達成の道筋が私の知能の中で付いている。――それとは別に、確かめるべきことがあるの……」



  6


 脳をフォグレット化した母の知能はホモ・サピエンスの有する自然科学におけるあらゆる未解決問題の多くに答えを出してしまった。それも、数日にしてあらゆる証明や論文を、頭蓋の・フォグレットから固定端末へ無線送信する形で。テキストデータの打ち込みだけでも一〇〇〇人が一〇〇〇日作業し続けなければ作成不能なデータ量だった。この時点で、大学も研究機関も人類にとっての価値を大幅に減じた。母一人いれば人類にとっての科学の探究――少なくとも理論や証明に係る分野――については事足りることが分かった。その間も、母は自らの頭蓋内のフォグレットを高性能で汎用性の高いものに自己改造し続けた。他の学者や開発者は最早母から依頼されたハード的な設計作業と生産を――理論的にそれが何かわからぬまま――熟すだけの存在となった。フォグレットも今では根本原理から見直され、稼働エネルギー、空間での可動性、その他の諸問題をクリアし、さらには、量子的な計算力をも有す様になっているようだった。しかし、母以外にその理論的理解が可能な者はいなかった。

 それでも、母は皆に分かる言葉で、それが何か比喩的に説明し、コンセンサスを得ていった。しかし実際のところ余りにも超越的なスピードで発展したホモ・フォグレットたる母の知能に、私達ホモ・サピエンスがついていくことなど出来ず、いつしか、対策スキームは宗教的な組織構造に移行した。母の神託を盲目的に信じ実行する組織だ。だが、旧来の宗教組織と違う点として、母の神託は一〇〇発一〇〇中の的中率を誇っていたことだ。私は、人間が作り上げる法や政治的権威、また、組織構造とは、一人の超越者の登場でかくも簡単に瓦解するのだと感嘆する以外になかった。また、母は科学的分野に限らず、政治的な取り決めについてもいくつかの提案をし世界の了承を得た。それは、ホモ・サピエンスのホモ・フォグレットへの進化は、世界同時多発的に実行され、人間間の抑止力が並行に推移する様に計画されるべきということ。そのタイミングは終焉が始まって一二時間以内がふさわしいこと。また、それまでの間はシンギュラリティテクノロジーに該当する技術は母だけの独占物とし、他の人間やコンピューターへの提供の一切を禁止することであった。その理由は、シンギュラリティ後の世界では、一人の悪質なホモ・フォグレットの登場で壊滅に至る可能性があるためだった。母曰く、ホモ・フォグレットに進化した一人目の人間が母という善良なる思想の持主であったことが今回最も幸運なことであったと言う。悪質なテロリストなどがそうであったならば、今頃、世界のあらゆるセキュリティは崩壊し、例えば、あらゆる兵器が無差別に世界を襲っていた可能性などがあったと言う。

 母は今や神とは言わずも、明らかに人間を超越していた。

 私は、再び19世紀後半に「神は死んだ」と言った男のことを思い出していた。神なき代償として人間は「力への意志」、つまり科学を手中に収めたことはそれから二〇〇年が経過した現代において否定する者はいないだろう。しかし、続けて彼が語ったある言葉について、私はアランから聞くまでは知らないままだった。それはこんな言葉だった。

「人間は動物から超人へ至る架け橋である」

 アラン曰く、シンギュラリタリアンの多くはこの言葉の中に真実を見出すのだと言う。神への信仰による救済などではなく、超人への科学力による進化をドグマとする在り様は、でも、ある意味で宗教的だと私は感じた。今日ではシンギュラリタリアンに多く見られるこのドグマの根底にある世界観は、古くはキリスト教グノーシズムや原始仏教の時代から普遍的に存在するものだとも教えてくれた。自己の成長や進化を至高価値とする有様は確かに資本主義的な今日の私達にとっては神様なんかよりずっと馴染み深いものではある。彼等が神の代わりに希求するのは「超人」だ。読んで字のごとく、人を超えた存在、宗教的には未だに神という他はないのかもしれないが、生物学的には進化を果たした人のこと指すのだろうと私には思えた。

 そうであれば、今日、「超人」は実在する。それは私の母だ。そして、いずれ、人類は皆「超人」に進化することとなる。その名をホモ・フォグレットと言う。

 いつしか、ホモ・サピエンスは既に今回の終焉などという、宇宙では日常茶飯事の様に繰り返されてきたただの天体変動への興味を失い始めていた。そもそも私達ホモ・サピエンスなど、この壮大な宇宙にとって塵に等しき存在だったのだ。何も私達の終焉とは今回の様にメディアで繰り返し言われた「太陽のN重極化」「超急進型の全球凍結」などの言葉で語りつくせるものではなく、火山の噴火、隕石の衝突、飢饉、疫病、原子力の暴走……など数え上げれば切りがない。また、いちいち未来の可能性を数え上げなくとも、過去を振り返れば、地球生命の半数以上が絶滅した例など枚挙にいとまがない。さらに、太陽の膨張による地球の消滅に至っては確定済である。挙句、いずれ訪れる宇宙の熱的死の前では為す術もない。初めから終焉は決まっていたし、そもそも、私自身も、もし地球の終焉が訪れずともたかだか数十年で死に至るのだ――父がそうであった様に。私達は、終焉についてあまりにも無智で、また、目を伏せてきていたのだ。

 唯一の希望とは母が仕切りに私に教えた“進化”にしかない。

 宇宙時間からすれば、一瞬で過ぎ去るこのひと時のホモ・サピエンスの歴史とは、神を唾棄し、超人に至るために与えられた猶予期間であったという価値以外には在り得ない。私を含め、母という存在を知ったホモ・サピエンスはそう思い始め、また、ホモ・フォグレットという名の超人への進化に全ての関心を集める様になっていた。



  7


 初夏の爽やかな風が吹き始めたその日、気温が急激に低下し始めた。

 予定調和だった。

 私は取り乱すこともなく、淡々とその時を待っていた。

 正午過ぎ、あらゆるメディアチャンネルからホモ・サピエンス最後の放送が流された。画面に映っていたのは、二年前に終焉の予測を告げたあの中年男性だった。

「我々の予測通り、どうやら、グリニッジ標準時間の午前二時から急激な気温変動が始まりました。恐らくこの放送から一週間後には、この地球多くの地域で気温は零下に達するでしょう。そして、いずれ太陽の光さえ消失していくのです。しかし、今、この放送をご視聴の皆さんも既にご承知の通り、恐れる必要は何もありません」

 私は対策スキーム本部内のプライベートルームでその放映を視聴していた。

「三ヵ月前、既に皆さんもご存じの通りホモ・フォグレットへのトランスファー機構は完成を迎えました。現在、世界各地の拠点に、私達の新しい身体となるフォグレットの噴出口が完成しています。予定の通りこの放送終了に伴い、各地でフォグレットが大気中に噴出され、我々ホモ・サピエンスの身体を取り巻くでしょう。そして、我々は皆でホモ・フォグレットへ進化するのです――」

 放送が終了すると、私と母は、プライベートルームのディスプレイの電源を切り、モニタリングルームへ向かった。

 既に本部内に人は居なかった。皆、屋外に出て、ホモ・フォグレットにトランスファーしているのだと思われた。アランはカリフォルニアに一時帰国している最中だった。なので、ホモ・サピエンスとしての最後の会話を楽しめなかったのは残念である。が、その分、雲の中の世界で盛大な祝杯を一緒にあげようと思った。

 モニタリングルームに到着すると私達はディスプレイを起動した。映された世界地図には各所に建設された噴出口の位置がプロットされており、それら全てが順調にフォグレットを噴出し終えたことを伝えるメッセージが表示されていた。それを確認すると私達も屋外に出て、本部の建屋から徒歩数分のところにある丘に向かうことにした。

 私達は緑色の草原の合間合間に、ゴツゴツとした石灰岩が立ち並ぶカルスト台地の中の遊歩道を歩いた。上空のそこかしこに低く浮遊する雲の様なフォグレットが揺蕩っていた。道中、数名の人間が、ホモ・フォグレットに進化していく瞬間を観察することが出来た。

 大きな石灰岩の上に立ち、天を仰ぐように両手を広げた彼は、やがて、上空から渦巻きながら下降してきたフォグレットに全身を包まれ、いつしか、雲そのものに同化していった。代わりに肉体を組成していた粒子が砂の様に風に散った。

 母は、ウェアラブルデバイスに表示された文字列を確認した。急激に減少していくその数値は、この世界に残るホモ・サピエンスの人数を示していた。私達が、麦畑を望める丘の頂上に辿り着いた時には、その数値は2とだけ表示されていた。

 この世界に残るホモ・サピエンスは遂に私と母だけになった。

 母は言った。

「これで、私の仕事のほとんどは終わり」

 母は、この世界のホモサピエンスの全員が、ホモ・フォグレットに進化したことを確認する最後の仕事を請け負っていた。

 私は、母を労う様に言った。

「さぁ、お母さん。あとは、私達が進化するだけ。最後の仕事だよ」

 母は偉大だった。本来であれば、急激に寒冷化していくこの地球で絶滅するはずだったホモ・サピエンスの運命を逆転させた。私は、各地から集合し一つの群に合体していくホモ・フォグレットを上空に眺めながら、あの雲の中では、既に、人類の新しい世界が広がっていることを想像していた。だが、母は言った。

「そうね。……最後の仕事をしないと、ね。だから、今から私からあなたへの最後の言葉を伝えるわ」

 溜息を付くように、息をひと吐きして続けた。

「イリス、あの雲はね、本当はホモ・フォグレットと呼ぶには相応しくないの。特に、ホモというヒト属を表す部分に関しては圧倒的に相応しくない。あれは超人などではなく、ただの超越とかそういうもの。少なくとも人とは呼べない」

 ほとんど意味はわからなかったが、それが不穏な言葉であることだけは理解出来た。

「何か理論に間違いがあったの?」

「いいえ。理論に何の間違いもないわ。でも、私が示した理論の内容は、ホモ・サピエンスが、その個々人のニューラルネットワークを保管したまま、フォグレットにトランスファーされ得ることを説明したに過ぎない」

「私もそう思っているけど……」

 久々に、母の言葉が先走り私が一人置いて行かれる時の不安感を覚えた。

「でも、頭蓋という拘束から解かれたニューラルネットワークは、フォグレットの中で、如何様にも変形し、拡張し、お互いに接続し合うことが出来る。そして――」

 母は、淡々と呪文を唱える様に続けた。

「あの雲の中の世界の初期設定は、この世界の複製といって良いものなのだけれど、進化の力学は、必ず高い自由度を選択させる。そうなれば、この地球にあったあらゆる物理実体のイメージは不要なものとして破棄されるでしょう。ニューラルネットワークの連結は個の概念を喪失させる――自他の区別という概念の喪失を生む。そして、イメージで構築された雲の中の世界法則も容易に改変される。文化も価値観も、そのベースとなる言語体系や思考パターンそのものすら旧来の人類には予想不能なものに代っているでしょう。雲の中の世界では、既に地球人であったことの意味や価値は消滅している可能性が高い。そして、その進化はフォグレットという圧倒的な計算速度の世界素子の中で進展する。ホモ・フォグレットにとっての一秒は、ホモ・サピエンスにとっての一年にも匹敵し得るかもしれない――」

「お母さん、どういうことなの? 私にはわからないよ」

 私は胸にせり上がる不安を吐き出すようにそう言ったが、母は構わずに続けた。

「ホモ・フォグレットとは、技術的な特異点のみを意味する訳じゃないの。地球生命誕生以来、自己組織化の力学が――進化という生命のストリームがやっとたどり着いた一つの特異点なの。進化そのものが遂に、生物個体や人という仮の表現系に頼ることなく、自らのほぼ純粋な表現系を手に入れたといってもいい」

「――わからないよ……」

「分からなくて当然よ。でも、敢えて言葉を与えるのなら、あの雲は進化がたどり着いた超越としか言いようがない。そして、そんな分かりようがないものにホモ・サピエンスはなってしまったということ」

 私は母に何を問えばいいのかもわからなくなっていた。

「お母さんは、ネアンの脳を体感した後――一週間の休暇中、ジブラルタルの地に行ってきた。そこで気が付いた」

 母は俯き、その瞳に影が差した。

「私は、エミュレートしたネアンの視覚でジブラルタルの地を見た。ネアンの目はその大地の下に今は亡き彼女の父母達の姿を、滅びた種の幻影を見た。その感情は、私達が亡き者を――死しても永遠に生きると信じる、人という存在を見る時のそれと同じだった。ネアンは死者に花を手向け得た。――勿論、エミュレートしたのはネアンの脳の生得的なニューラルネットワークの構造と、そこから推測されるいくつかの疑似的な成長性を付加しただけのもので、ヴァーチャルな私の推測と妄想の域を出ることはない」

 母の口調は次第に、今まで私が聞いたことのない印象を帯び出した。

「でも、もし、ネアンが本当に人であったのなら、私達ホモ・サピエンスは、彼等という存在が紡いできたあらゆる営みや想いを完全に忘却してきたのだと言わざるえなくなる。ネアンが花を手向けた時のその想いを、今日に至るまで、ホモ・サピエンスの誰が共感し得た? ネアンとしてのワタシが怒り、恨み、悲しみ、慈しむ様に眺めた欧州の大地に、彼女の父母達の死が数珠つなぎに積み重なった大地に、今日、誰がその亡霊を見るの? 誰もいない。人のうちホモ・サピエンスは完全に忘却してしまった。その重みも分からない。――そんな人なる存在にとっての悲劇が、今、あの雲への進化においても起こっているに違いないと思うの」

 私を見つめている母の目は、でも、どこかもっと遠くを見やる様な視点の定まらなさを有していた。そこに何故か私の母がいないことが感じられた。

「私はね、あの日以来、あなたの母ユリというホモ・サピエンスでありながら、既に滅びたネアンというホモ・ネアンデルターレンシスでもあるの」

 言葉が出ない。

「私は――あなたの母としての――ホモ・サピエンスとしての私は、亡霊として蘇ったネアンデルターレンシスとしてのワタシをデリートすることが遂に出来なかったの。既に、その時、その両方が私だったのだから。だから、今ここに居る私はユリの記憶とユリが推測的に創造したネアンの記憶と、両者の知性と感性――そういうものが複合した何かなの」

 母の、進化とは不可逆という言葉が脳裏をよぎる。

「――そして、あんな雲なんてネアンとしてのワタシから言わせれば人の敗北でしかない。人を人たらしめるのは、現実の否定なの。個体の命という有限性の中で、私達は永遠を夢見ていたはず。父母の身体が大地に還っても尚、そこに現実とは違う永遠性を見出そうとしてきたはず。見ることすら叶わないのに、父母の魂をそこに見出そうと醜いまでに固執してきた」

 母の口調はいつしか怒りを帯び、彼女が母ではないことだけが伝わった。

「ホモ・サピエンスは生命の自己組織化の力学に負けたのだ」

 そう言い捨てると母は完全なる自問自答を始めた。まるで文脈も分からず支離滅裂な一人芝居でも見ている様な気分だった。

「――でも、母としての私はイリスにあの雲としてでも生きていって欲しい」「いや、ネアンとしてのワタシはイリスにあの醜い雲などにはなって欲しくない」「この子が生きていくことまで否定するの?」「生存していくことだけが生ではない。終焉を迎えてでも失ってはならないものはある」「それは何?」「人であり続けること」「ヒューマニズムというやつ?」「そんなに簡単な話じゃない」「じゃあ何なの?」「少なくともワタシという個人の欲部などではない。種に実存があるとするのならそこからの要請、生存欲」「だから、それは何なの?」「生命が進化という自己組織化の力学の要請の上にしか成立し得ないという現実を受け入れないこと」「冗長過ぎてわからない」「現実ではない現実の中を生きること」「夢を見る子供の様に?」「大地の中に父母達の声を聞く様に」「いずれ終焉という現実に打ち砕かれるものだとしても……」

 そう言って、母は顔を上げ私に言った

「全てはあなた自身の意志で決定するの。それが、あなたの母としての私と、ネアンとしてのワタシに一致する唯一の妥協案。わたしがあなたにしてあげられるのはそれだけ」

 母は、胸元から小さな拳銃を取り出し、続けた。

「あなたは、あなた自身の選択が出来る。でも、私は、進化に失敗した。中途半端な個体性の拡大は重大なエラーを生む。このネアンという亡霊に魅入られてしまった。故に、皆には個体性が同時に融解される様に進化してもらった。それしか、ホモ・サピエンスを救う方法がなかったの。でも私は――」

 そう告げる終わると母は銃の引き金を引き最後の言葉を伝えた。

「イリス、私は、あなたのお母さんユリは、あなたのことを愛していたわ。それだけは間違いではないの」

 自らの頭部を打ち抜いた。



  8


 あれからもう三時間が経過した。

 私はその間、ただこの丘に上に座り続けていた。

 あれは母の最期だったのだろうか? そもそも母だったのだろうか? 人格も何も支離滅裂だった彼女の言葉の何が事実だったのだろうか? 何故今まで隠していたのだろうか? ネアンとしての復讐を果たすためなのだろうか? 種として最後の一人になることの絶望をホモ・サピエンスである私に再現させたかったのだろうか? いや、そんなに簡単な話ではない――のだろうか? でも、母は私をホモサピエンスの最後の一人に仕立て上げつつ、一方で、あの雲に進化する選択肢も残していった。

 母はネアンの魂を宿して以降、一つの意識の中に二つの知能や人格を宿すことの超越性或いは危険性、そして不可逆性について感知していたのだ。それでも、人が人でなくなる寸前で踏みとどまり、遂には自己の終焉を選んだ。しかし、億単位の人間が人格や思いを共有出来るあの雲の世界では条件は違うのだろうか? でも、母が言っていた様に、雲の中では少なくとも私の考える人という存在はいなくなっているのだろうか? 思いや共有という概念すら成立するのかわからない。他人や世界も、言葉も、想いも、顔も、体も、文化も、歴史も、景色も、自然も超越にとっては不要なものになっているのかもしれない。

 あの超越の雲に、死者はあるのだろうか?

 虚脱した心であの雲についての想像を繰り広げるが、酷く抽象的な問答の他には、何一つ現実的な手触りは起きない。――超越について想像するとはそういうことなのだろうか?

 もう答えなんてどうでもいい。今日、私は、この世界で最後のホモ・サピエンスになってしまったのだ。何をどうしようと、今後、私以外のホモ・サピエンスがこの大地に戻って来ることはない。父と母がそうした様に、愛し合い子を新たに生むことも出来ない。パートナーを作ることすら出来ない。もう誰もいない。誰も。

 凍てついていく世界。種の最後の一人。この先もずっと。この宇宙が終わるまで。誰かが思い出すこともないのだろうか? 私にはどんな父母がいて、どんなふうに愛され、どんなふうに人を愛したのかを誰も語り得ないのだろうか?。――愛した人すらもういない。愛した人。彼の名前は……。

 ――アラン。

 その言葉と共に、数億年とも思える程昔に会った誰かと再び邂逅する様な懐かしさが胸に芽生えた。彼は私が最後に愛した人間ということになってしまった。

 アランは、あの雲の中にいるのだろうか?

 私は、もう一度、今度は声に出して愛おしむ様に彼の名を唱えた。

「……アラン」

 次の瞬間、空で渦巻いていたホモ・フォグレットが私の身体を包み始めた。私は反応する間もなかった。意識を失う中、アランが私の名を呼ぶのを聴いた気がした。



  9


 あの日――父を天国へ見送った日。

 私は何故、花を手向けたのだろう。

「母がそうする様に言ったから」「皆がそうしていたから」「お父さんが天国で幸せであれるように願ったから」

 そもそも、天国とは何だろう?

 あの日、母も私も皆も、父が天国に旅立つのだと合意してた。――いや、そう考えたかったのだ。

 父は若くして――四〇代で、交通事故のため亡くなった。

 その理由は誰もわからなかった――いや、わかっていた。わかる必要もない程に自明だった。凍結した路面――摩擦係数が予期せぬ値に低減したアスファルト、慣性の法則に則った自動車の軌道、ホモ・サピエンスという生物の軟さ。いくらでも説明可能だった。

 ただ、それが、何故、アマノタダユキ四二歳――私のお父さんなのかということは誰にもわからなかった。

 でも、私達はホモ・サピエンスだった。

 ホモ・サピエンスとは「賢い人」を意味する。私達がホモ・サピエンスである以上、何故それがそうかを賢明に考え続けなければならない。

 だから考えた。

 私だけじゃない。皆考えて来た。ホモ・サピエンスは皆考えて来たのだ。

 故に、父が死んだ理由は私達の有限の知恵では分からないことだと――例えば、天国という無限の叡智――などをもってしなければ分かることではないと考えた。そしてそれが真実であるのだと頷くことにした。ホモ・サピエンスとは嘘をこそ考え続けてきたのだ。

 ――苦しいことだね。

「アランの声……そこにいるの?」

 ――あぁ、いるよ。

「アラン。……そう。苦しい言い訳だった。苦しかった。強烈なプレッシャーだった。それが偽であると知りつつ真だと頷く時の緊張感。息が詰まる。それでも、終焉を迎えないために、見て見ぬふりをして今日まで、ここまで歩いてきた」

 ――全部、嘘だ。

「そうね」

 ――やめてしまいなよ。

「だめ」

 ――どうして?

「ホモ・サピエンスだから」

 ――意味がわからない。

「意味がわからないのは考え続けていないからよ。あなたが、ホモ・フォグレットだから。ホモ・サピエンスとして、考え続けることのみが、その意味を解き明かす唯一の茨の道」

 ――茨の道に、意味不明なのに、わざわざ行くのか?

「そう」

 ――それは進化という道なのかい? それとも、退化という道?

「進化という道」

 ――わかった。進化しているのはいいとして、それは、結局、正しいことかい?

「わからない。今はまだわからない。だから考え続け、進化していくしかないと言っているの」

 ――じゃあ、ホモ・フォグレットに進化するべきだ。

「わからない。わからない。わからない……。」

 ――さっきまでの勢いがないじゃないか。――今、イリスの半身は我々ホモ・フォグレットに取り込まれ、半身はホモ・サピエンスの状態を保っている。気が付いているだろうが、半身であれ、ホモ・フォグレットであることを体験している今の君の思考は、各段にクロックアップされ冴え渡っている。君の知性は今、アマノイリス一八歳のそれとはかけ離れ始めている。だからもう気が付いているはずだろ? 茨の道を行った結果、ホモ・サピエンスは遂に新たな認知、知性、存在へ辿り着いた。超人への進化に――ホモ・フォグレットに辿り着いた。例えば、君の父が天国へ旅立った日に感じたあの苦しさ。どうしようもない死の無意味さの前で、皆で暗がりに寄り集まり、談合し、妥協し、そうやって描かれた天国への旅立ちという嘘。そして、それが真であると頷き、花を手向ける瞬間、胸の奥にせり上がる際どい苦しさ。そんな、「優しい嘘の運用」というホモ・サピエンスの限界を、今、一発で解決出来るんだぞ? それが、ホモ・フォグレットへ進化するということだ。人が人で在り続けることは酷く難しいことなのだ。

「……あの日、父に花を手向けた時、確かに苦しかった。母と皆の余りに歪な嘘に、私も合意し、花を手向けた。私だけじゃない。皆、人は皆、ネアンを含む皆、人は人という有限性の中で耐えていた。その嘘の重圧に耐え、重くて重くて、今にも崩れ落ちそうな右手を、それでも優しく、それがさも自然である様に差し出し、遂に、父の、死者の亡骸に花を手向けた」

 ――だから、その苦しみには答えがあったということだ。そうやって延々と苦しさに耐え紡いできた努力が、遂にホモ・フォグレットとして達成されたんだ。

「そう。稚拙な嘘も、花を手向ける苦しさも、もう不要となるのかもしれない……」

 ――そうだ。

「でも……」

 ――でも?

「でも……お父さんはどこに行ったの?」

 ――だから、超人への架け橋として活きたと解釈すべきだと言っている。

「違う。いや、違わない。そういうことじゃない。それがそうだとしても、架け橋としての目的を果たしたとしても、架け橋は架け橋である必要はあったとしても、架け橋にとって架け橋である意味はあったの? 私のお父さんが、お母さんが架け橋である意味はあったの? 架け橋は何だったの?」

 ――錯乱に逃げるな。さっきから解答は出しているじゃないか。“ホモ・フォグレットなんていう馬鹿でも分かる簡潔な解”を今君の目の前に提出しているじゃないか。つまり、君は、有限の個体性を生きるために、死の無限性を覆い隠す必要があったのだ。天国という嘘をでっち上げ、花を手向けるという本来は何の生産性もない行為までして嘘を嘘たらしめようとしたのだ。だが人は賢い。だから、お前は心の奥でその嘘の重さに苦しんできた訳だが、遂にその解答を得るに至るこの瞬間、立ちすくんでいるのだな。

「そう。立ちすくんでいる」

 ――だから、なぜ?

「見えるから」

 ――何が?

「……父と母が」

 ――は?

「父と母が見える」

 ――それは、幻覚と言う。エラーだ。そんなものにいちいち目を向けるな。

「……幻覚と言うより、これは亡霊と言う方が的確かもしれない」

 ――亡霊? もう、そういう形而上学的な、煮るも焼くも出来ないただのエラーに目を向けてはならない。リアルを――現実を生きて行かなければならない。

「でも、どうしても、父と母の姿が、おじいちゃんが、おばあちゃんが、その先に続く皆が、超越に至らず朽ちていったホモ・サピエンスが、人が、その姿が見える。皆が見える。見える!」

 ――エラーだ! 早く断ち切れ。現実を見よ。太陽の光は消え、また、生命も消えようとしている。にも関わらず、我々は進化を通してこの難局を超越したのだ。これは奇跡だ。ビッグバン以降、エントロピー増大則に従い混沌に向かう宇宙の中で、偶然、いや、運命的な刹那のゆらぎが相補し合い、生命という自己組織化の、進化の力学が発現した。生命とは奇跡だ。この奇跡を消してはいけない。この奇跡の炎を我々は広げていくべきだ。だから、イリスも来い。ホモ・サピエンスからホモ・フォグレットになるんだ。それは裏切りではない。引き継ぐことだ。意味あることだ。だから、来い!

「……だめだ。私の身体にはまだ、父と母の血が流れていて、この地球という地に足を付けている。そしてまだ人としての愚かな知を保っている。――だから、行って。私をここに置いて、あなた達は行って。進化の力学に誘われた生命であり続けて。――私は、最後の人としてこの地に残る」

 ――なんでそうなるんだ!? はやくこっちに来い! とにかくこっちに来い! そもそもお前、ここに残ってどうするんだ? 何がしたいんだ?

「……手向けたい」

 ――え?

「……花を、手向けたい」

 ――それだけのために、お前はここに残るのか?

「そう。だって……」

 ――だって?

「ここには花がない。この雲の中には見えるものが、色が――私が美しいと感じていた世界が既になくなっている」

 ――そんなものは進化さえしてしまえば不要だったと気が付くはずだ。

「そうなのかもしれない。――でも、アラン。そうなれば、いつかあなたが約束してくれた花束も、もう私の両手に抱かれることはないのでしょ?」

 ――そういうことになる。

「やっぱり、私はこの地に残るわ」

 ――そうか。その行いに意味があるとかないとかは言わないが、本当にいいんだね?

「ええ」

 ――わかった。と、言うより、わかっていた。……あなたはエラーだから。ホモ・フォグレットである我々から見れば、あなたはエラー。エラーとコミュニケートしてみたかった。そして、元よりこの対話はアランという元ホモ・サピエンスが雲の世界に来た初期に残した自発動プログラムだ。既に個体性を失ったアランなる人格を模し、お前に助力を与えるために設定されていたバグだ。既にアランなる個は存在しない。

「そうなのね……。進化したホモ・フォグレットから見れば、ホモ・サピエンスで在り続けることはエラー。花を手向けるという、この何の生産性も効果もない行動を選択する、人という存在は確かにエラー以外の何者でもない」

 ――我々は、今後、あなたを迎えに来ることはない。直に地球がダークマター雲と最接近を果たす。今回の太陽の急激な低活性化及び全球凍結という終焉を誘発した根本原因については我々の知性を以てしても未だに不可解な点が多い。全ての原因となった、太陽系軌道上への超高密度ダークマター雲の突然の出現については未だに説明が難しい。故に我々ホモ・フォグレットはダークマター雲にコンタクトすることを計画している。ホモ・フォグレットの観測力をもってすれば、ホモ・サピエンスには読解不可能であったダークマター雲に、何かしら意味を見つけられるかもしれない。もしかしたら、我々より進んだ知性が、ダークマター雲として、この銀河の中を浮遊しているのかもしれない。彼等は地球生命の進化を促すために意図的にこのタイミングで現れたのかもしれない。彼等なら宇宙の熱的死という終焉すら超越し得る叡智を有しているかもしれない。我々は今までになく知的関心が高まっている。それ故、ダークマター雲の軌道に――開かれた銀河への軌道に航路をとるつもりだ。地球から宇宙の果てへ、そして、その先の超越に旅立つのだ。だから、恐らく、あなたを迎えに来ることはもうない。

「それでいいわ。私は、この星で、超越へのただの架け橋として、人として地に還っていった亡霊達に花を手向けたい」

 ――了解。

 

 身体から、ホモ・フォグレットが離れていく――ーというより、ホモフォグレットの側からパージされたと言う方が正しいだろう。

 私は、吹き付ける北風の冷たさの中に人としての身体の確からしさを、足元にひっそりと咲いた青い花々に世界の確からしさを確認する。

 綺麗だ。

 私はその青い花を摘むと、一度右の掌に乗せ、ゆっくりと、さも自然に、そして優しく、母の胸の上に手向けた。


                                      了

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