精神汚染電波発信!!
上記
いつもいつもそんな気がしていた。
いつも誰かが聞き耳を立ててる。
いつも誰かがずっとぼくを見つめてる。
この狭い4畳半の部屋でいつもぼくは頭がおかしくなりそうに毛を掻きむしっている。
そうだ、きっと誰かが電波を流してるんだ。
お前なんか狂ってしまえ、と。
ずっとずっと電波を。
いやだいやだいやだ。
奴らの思い通りににはさせないぞ。
奴らがその気ならこっちだって。
やっつけてやる。
ぼくに危害を加えるものなんて。
部屋を見渡す。
この部屋は窓はないから電波もきっとあまり入っては来れないはずだ。
電波を媒介するならこのラジオが怪しいな。
一か月ほど前から壊れていて気の滅入るような頭の中身をかき乱すような音しか鳴らない。
分解したいけど工具がないな。
こんなもの、地面や壁に叩きつけたら壊れるだろう。
思ったより重い。
じいさんに貰った旧型のタイプからだろうか。
ガツン、ガツン。
何度も何度も何度も何度も地面に叩きつける。
その度にがしゃん、がしゃん、と少しずつ壊れてく。
しかし中には盗聴器もカメラも見当たらない。
おかしいなおかしいな。
焦ったぼくはラジオの部品で指を切ってしまった。
すると指の傷から電波が入り込んできた。
彼は壊れたラジオのように訳の分からないことを喋りながら壊れたラジオを更に解体しています。あの日のすれ違った少女も、窓辺で頬杖をついていた少年も、夕日に溶けていった黒猫もみんなみんな笑っています。それに気付いていないのは彼一人だというのに。だから彼はいつまでもどこまでも笑われ続けるのです。
ああ、うるさい。黙れ黙れ黙れ。
指の傷を着ていたシャツの袖で抑える。
ああ、ダメだ。
一度入ってきた電波はもう出ていかないんだ。
頭がおかしくなる。
そうか、奴らはぼくが狂っていくのを笑ってるんだ。
なら奴らの裏をかけばいい。
奴らの嫌がらせの対象のぼく自身がいなくなればきっとぼくに流れている電波は奴らに逆流する。
これで電波から解放される。
天井に付けられていた監視カメラからその様子は中継されていた。
ベッドの傍に、座り込むように男が首を吊っている。
老人が呟くように言う。「どうかね?」白衣の男は曖昧にうなづく。「効果はあったようですね」
「なんという素晴らしい兵器だろう。この電波は電気機器を通して相手に伝わる。受けた側は精神に大きなダメージを受け自滅していくわけだ。電気機器のない先進国などあるかね?あとで土が汚染される心配もない。まさに画期的な兵器なのだ!」
「先生の言う通りです」
「ああっ!」老人が声をあげた。「なんてことだ!行き場をなくした電波が逆流してきた!実験は失敗だ!声が聞こえる...呟いている...」老人はよだれを流しながらその場に崩れ落ちた。
(こんな所に長年働いていたら医者もおかしくなるものなのか...)
白衣の男は老人が精神汚染電波発信機、と呼んでいた手元のボタンを押した。
精神病棟の明かりが一斉に消えた。