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エンジェルズ  作者: ムーン
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訓練

唐突に始まる回想。

「ハジメ、これは武器の設計図かしら?」


「あぁ、研究長の原案から俺が改良を加えまくった。」


「ふぅん…?よく分かんないなー。」


ユリと同感だ。

先程ハジメに渡された紙には、僕にはよく分からない図とよく分からない文で、よく分からない武器の設計図らしき物が書かれていた。


「今日はこれを作るのだね。」


「今日は作らん、材料が無い。」




今日は訓練をする。

その発表に3人ともそのままの姿勢で固まる。

僕は能力を使わなくても時間は止めることが出来るのか、なんて呑気なことを考えていた。


「ヤダー!絶対ヤダー!訓練なんかつまんない!」


「ちょっとユリ、子どもみたいなこと言わないでよ。私は訓練好きよ?ハジメに褒めてもらえるもの!」


「ユリはともかく、僕には必要無いよ。」


そうだ、訓練など必要無い。

今まで被害なく敵を倒してきたではないか。


「サクラ、お前が一番訓練必要なんだぜ。」



……そんな馬鹿な!



「お前いっつもいっっつも倒れてるだろ。戦い方がヘタクソだからそうなんだよ。」


「ヘタクソって言われても…僕は時間を止めて敵を切ってるだけだよ。」


「それがダメだっつってんの。相手の時間を止めるとか、遅らせるとか、自分の時間を速めるとか、その辺でいいだろ?」


「まぁ、確かにそうだけどさ。」


世界全体の時間を操るより、局所的に操る方がずっと効率がいい。

ならなぜ今までやらなかったのか?

自分だけが自由に行動できる、それに酔っていた。

相手を圧倒することより気持ち良いことなんてない。


「僕以外が気づいていない間に死んでる、っての好きなんだよ。」


「お前、アホだ。」


一切の遠慮ない罵倒に心の折れる音がした気がする。

確かにそれで負けていたらカッコ悪いし、今度から改めよう、仕方ない。



「次にユリだが、お前も酷い。お前の能力は他の生物の特徴を取り入れ、自らの体を変質させること。」


「自分の能力くらい知ってるよー。」


「お前がすることといえば羽生やしたり、ヒレ生やしたり、爪伸ばしたり…ワンパターン過ぎる。」


「パターン多いよ、空でも海でも戦えるのはあたしだけだよ?」


「勉強不足なんだよ、ピット器官とか知らねぇだろ。毒も使わねぇ、見て分かる物しか再現してねぇ。」


「勉強嫌いだもん…。毒とか作るの難しいし…。」


「お前は今日一日勉強だな、虫、爬虫類中心だ。」


ユリが絶叫しながら膝から崩れ落ちた。同情するよ、ホントに。


「イヴとリコリスは練習でいいな、精度を上げるんだ。」


「はーい!」


リコリスも一拍遅れて頷く、あぁ可愛い。

リコリスにはあまり能力を使わせたくはないのだが、狼の時の件もある。僕には何も言えない。



イヴとリコリスは川の方で練習。

イヴが川に住む魚の声を聞き、リコリスが空間転移で魚を捕る。

慣れてきたら種類を限定する。

まぁいい練習方法だと思う。魚も捕れるし。


ユリは虫の標本の観察。

分かったことを1匹につき10個書き留める。

色、形は無しだが、何故そうなったかならOK。

動かないでいることを苦痛に感じるユリにはかなりの苦行と言えるだろう。


そして僕は…


「じゃあサクラ!今から俺が石を投げるから、全部真っ二つにしろ、いくぜ!」


飛んでくる石を切る。

自分の時間を速めて刀を振るうのだが、真っ二つにするのがかなり厳しい。


「最初は12個だ、そらよっ。」


……最初から多くないか!?

僕のほうに飛んでくる小石、大きさは3cmくらいか、軌道はバラバラだ。


まぁとりあえず、能力発動っと。

全ての小石がゆっくりと近づいてくる。

刀を振るう、小さすぎるのか手応えが全くない。

全部切れたかな、よし解除。


能力を解除すると小石の破片が落ちていくのが見える、が。


「痛っ、うわ痛い。」


結構残っていたらしい、思っていたよりも小石が痛い。

おかしいな、全部切った筈なのに。


「最初っからアウトだな、何個当たった?」


「にー、さん、しー、…6個。」


「半分かよ、てかお前切った小石も粉々じゃねぇか。真っ二つにしろっつっただろ。」


「粉々になるのは仕方ないと思うよ、鉄の塊で叩いてる訳だからさ。」


「叩くぅ?能力の使い方より先に、刀の練習した方が良さそうだなぁ、サクラ?」



刀の練習、ねぇ。

この刀は今から5年前、ハジメと散歩している時に見つけた物だ。

美しく輝く銀色の刀身。

刀を見つめるうちに僕の心は過去に浸っていってしまった。







「サクラー、サクラー?どこいったんだー?おーい、サクラリッジー。」


ハジメが僕を呼ぶ声が聞こえる。

でも僕はそんなの気にしないで、穴を掘っていた。

一見何もないような場所でも、掘り返してみると旧世界の遺物が見つかる時がある。

僕は旧世界の遺物を見つける瞬間が好きで、幼い頃はよく穴を掘っていた。


「サクラリッジ!ここにいたのか、ったく。呼ばれたらちゃんと返事しなさい!」


ハジメに襟を掴まれて、僕の体が宙に浮かぶ。

ハジメが僕を探している。それは僕にとって隠れんぼをしているみたいに思えて、同じ年頃の子どもと遊んだことのない僕は何だかとても嬉しかったのだ。

浮遊感も手伝って、笑いだした僕をハジメは呆れたようにため息をつきながら見つめていた。

あ、まずい。怒られるな。


「ったく、俺がどれだけ心配したと思ってんだよ。」


予想に反してハジメは僕をぎゅーっと抱き締めた。

暖かい。


「どこにも行かないでくれよ、俺を1人にしないでくれ。サクラ、頼むよ。お前だけは、ずっと。」


抱き締められているうちに、何だか僕はとっても悪いことをした気がした、取り返しがつかないことをしてしまったのではないかって。

そう思って、そのうち僕は泣き出してしまった。


「ごめんなさいっ…ハジメ。」


「いいよ、ちゃんと謝れるいい子だな。サクラは、いい子だ。」


目を離した俺も悪いしな、と頭をクシャクシャ撫でられる。

時間を止めて逃げ出すような子どもは、見失っても仕方ないと思うのだが。


「サクラはいい子、とってもいい子。可愛い可愛い俺のサクラ。」


そろそろ髪がボサボサになってきた。

加減を覚えて欲しいな。

僕は何だかくすぐったい気分になって逃げてしまった。




「また穴掘りか?好きだな。」


さっきまで掘っていた場所にハジメを連れていく。自分の成果を見せて、褒めて貰いたかったから。


「…ん?これは…建物跡、か?」


明らかに人の手が加わっている。

僕は遺跡を発見していたのだ。


「へーぇ、物置ってとこか?いやこれは…飾ってあった、のか。」


ハジメは今にも崩れそうな洞穴に入っていく。

これは…まさか…!

ダメだ!止めなければ、そして僕を褒めてもらうのだ!


「ハジメ!待ってよぉ、こんな所入ったら危ないよ。」


「これは人形かな、っとこれが説明板か?それにこれは…本か!っしゃ読める!読めるぞ!」


「ハジメってばぁ。」


興奮したハジメはどんどん奥に入っていく、太陽の光も届かない真っ暗な場所で、僕はハジメを見失った。

心細くて、置いていかれた気がして、また泣き出した。

ここで泣いていても仕方がない、ハジメを探さなければならない。


泣きながら壁伝いに歩くと、開けた場所に出る。

ここは、どこ。ハジメは?どこにいるの?


崩れた岩につまづいて転ぶ。

膝が、痛い。触ると何だかぬるぬるして、少し熱く感じた。

血が出てる。

認識した途端に痛みを感じだす。


僕は大声をあげて泣いた。


痛い、痛い!ハジメ、何処なの!迎えに来てよ!僕、ケガしちゃったんだよ!


ふと、手に何かがあたる。

他のものより一段冷たく、それは長い棒みたいなものだった。


なんだろう?


しゃくりあげながら僕は、その「棒」を手に取った。

重い。

大きさに合わない重量のそれは、僕の小さな手のひらでは片手で握ることも出来なかった。



「サクラ!サクラ、ここか!?」


ハジメが来た。

ハジメの声がする、足音がする。

僕を迎えに来てくれた。

安心感と同時に、膝の痛みがぶり返してきて、僕はまた大声で泣いた。




「…悪かった。ごめんな、痛かったな。」


洞穴から出てすぐにハジメは僕のケガを手当してくれた。

ぐるぐると大袈裟に巻かれていく包帯と反対に、こんなケガ大したことないや、と思い始めていた。


「痛くないか?他に怪我はないか?怖かったよな?」


「大丈夫だよ。それよりハジメ、これなぁに?」


ハジメは結構心配症で過保護なところがある、それでいてさっきみたいに突っ走る事がある。

子どもの僕も、何だか放って置いては行けない人だ、って思えてくる。


「なんだこれ、重っ。石や土じゃねぇな、鉄…金属だな。」


ハジメにさっき拾った「棒」を渡す。

ハジメにも重たかったみたいだ。

旧世界の遺物を見ているハジメの目は、子どもっぽくて見ていて面白い。それも僕が穴掘りが好きな理由の1つでもある。


「ここを握るのか?なんかこう、振る?とか。しっかしボロいな、これじゃ何が何だか。サクラ、説明板とかなかったか?ああいうとこじゃ大体近くにあるんだがな。」


転んでそれどころではなかった、見つけた物はそれだけだ。

ボロくて分からないの?古いから?それなら。


「ハジメ、貸して。」


「ん、気をつけろよ。」


僕は受け取った「棒」に能力を使う。

ハジメは僕が能力を使うなどと夢にも思わなかったのだろう。

もう1回見てくる、と今度は松明を持って行った。

丁度いいや、びっくりさせてやろう。


「棒」の時間を戻すのにはかなり苦労した。

思っていたより古いものらしい。

だが、確実に色が鮮やかになってきた。

そろそろかな。

一度能力を解除し、「棒」の持ち手らしき方を握ってみると、僕は違和感を感じた。

これ、入れ物にはいってるのかな。

反対側を引っ張ってみると、思った通りだ。

中身が姿を現した。

銀色のそれは、太陽の光を受けて輝いていた。


「綺麗…!」


すぐに全部引っ張り出し、入れ物を足元に捨てる。

そして僕はその綺麗な銀色に触れてみた。


「へ?」


恐る恐る触れた指の先が、切れた。

僕は驚いて「棒」を落とす。


「えっ…?なん…で。」


僕はとっさに、元に戻そうと、戻れと願った。





僕は「棒」の持ち手を握って、抜こうとしていた。


時間を、戻した?


無意識に能力を使って、抜く前に戻したのだ。

能力を連続で使ったせいで、頭がズキズキと痛む。

僕は今度はもう「棒」に触らなかった。




「サクラー、戻ったぞー。」


ハジメが板みたいなものを持って戻ってきた。

あれが説明板とやらだろうか。


「ハジメ…おかえり。」


「あれ、元気ないな、どうした?」


「なんでもない。」


時間の巻き戻りを認識できるのは僕だけだ。

いきなり指が切れて驚いたから時間を戻しました。なんて言えるわけがない。


「そうか?それよりサクラ!凄い事が分かったぞ!」


ハジメによると、この「棒」は「刀」と呼ぶらしい、刃物の一種なんだと。

かなりの切れ味を誇るらしく、少し触れただけでも危険、と。

どうりでさっきスパッといった訳だ。


「ん…!おいこれボロくないぞ。」


「戻してみた、どぉ?」


「すっごいじゃないか!さぁっすが俺のサクラだ!」


僕を抱き上げて、ハジメはクルクル回る。

草原に倒れこんで、僕を抱き締め、また頭をぐしゃぐしゃにされる。


やっと褒めてもらえた。





「はっ!?」


「なにボーッとしてんだ?あぁ?」


「ハジメ。」


「俺の話聞いてたか?」


話…?

しまった、昔の思い出に浸りすぎた。

どれくらいぼうっとしていたのだろう。

ハジメは呆れたようにため息をついて僕を見つめていた。

あ、まずい。怒られるな。


「ったく、このアホは。」


予想に反してハジメは僕の頭をクシャクシャ撫でる。

何故だろう、意味もなく泣きたくなる。


「ちゃんと話聞きなさい。」


「ハジメ。」


「今度は大きめのヤツを1個ずついくから、能力を使わずに真っ二つにしろっつったんだぜ。」


「ねぇ、ハジメ。」


「……なんだよ、また聞いてなかったのか?」


「ちゃんと出来たらさ、頭撫でて褒めてくれる?」


「はぁ!?ったく、ガキだな。……出来たら、な。」




しばらくは訓練も楽しくなりそうだ。


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