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エンジェルズ  作者: ムーン
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昔の話

ユリの過去回想です。

何年前なのかはちゃんと覚えてないけれど、アレはあたしがまだ街にいた時の事だから、きっとあたしはまだ十歳になったかならないか、くらいだと思うの。

あたしは上級市民区域の端っこの方の家で生まれた、名家ってわけでもないけど、それなりにいい生活をしていた。



「確かさ、上級とかって街に来た順だったよね?」


「なにさ急に。確か…はじめに本部が出来て、それからドンドン人が増えたから管理しきれなくなった。だから階級制度を作った、とかいう話だよ。それより話の続きは?」


「なんだかんだ言ってさー、結局聞きたいんじゃん?」



どこまで話したっけー?だとか言いながら、ユリはヒラヒラと手を揺らす。

暇潰し。

それ以外の理由などないけれど、話の続きは人並みには気になるものだ。




名家って程でもないけど、上級市民な以上はそれなりの教養は必要。

文字の読み書きは勿論、テーブルマナーやらファッションまで。

兎にも角にも上品な良い娘を作ることに必死だった。

計算よりも立ち居振る舞いが重要だった。

多分もっと上の家に嫁がせようとしてたんだと思う。

あたしはそんなのが嫌で、しょっちゅう抜け出しては遊び回ってた。

川に飛び込んだり、木に登ったり、上級市民なら男の子でもしないようなちょっと危ない遊びを好んでしていた。



「親御さんの思いは見事に砕け散ったって訳だ。」


「う、まぁそんな事言わずに。」



その日もあたしはいつものように抜け出して遊び回っていた。

そしたら、隣の家の窓から人の影が見えたの。

なぜだか凄く気になって、庭に植えてあった木をつたってその窓まで行った、そしたら……



「その時はまだ能力を持ってはいなかったのだろう?よく出来たね。」


「もー、ここからがいいとこなんだからぁ、口挟まないの!」


「…ハイハイ。」



そしたらね、窓がいきなり開いたの。

いきなりって言っても乱暴に開けたとかじゃなくてさぁ、どこか品のあるっていうの?そんな感じ。

窓を開けたのは私よりも年上の女の子だったの。

黒くてながーい髪に、焦げ茶色の瞳。それらのよく映える白い肌は、少し不健康そうにも思えたかな。

とにかくそのお姉さんはとても綺麗な人で、あたしを見て笑ったの。

嘲る感じじゃなくって、あらあら元気ねぇ、とかそんな風な優しい微笑み。

花が綻ぶよう、はこういう事を言うんだなってその時は思ったの。


そしたらそのお姉さんが、ゆっくりと手招きしたの。こっちへおいでって。

あたしはその窓の縁に飛び移って、お姉さんの目の前に行った。

お姉さんはあたしが飛んで来たことに驚いたみたいだったけど、すぐにあの優しい微笑みが戻ってきた。


「ごきげんよう。隣の子ね?随分と元気だこと。」


イメージどおりのとっても綺麗な声をしていた。

お姉さんはあたしの頭を撫でながら、あんな危ない真似はしちゃダメよ。と窘めたの。


「うふふ、可愛い子ね。アナタのお名前は?」


お姉さんはあたしを部屋に入れると、お茶を淹れてくれたの。それにクッキーも。

あたしはその日から毎日お姉さんの部屋に遊びに行くようになった。

家の人にバレたらきっと怒られちゃうから、誰にも見られないようにコッソリと窓から入っていたな。


「ねぇレイカちゃん、アナタは私といて楽しい?」


お姉さんはよくそんな事を聞いてきた、あたしは決まって


「うん!とっても楽しいよ、一番楽しい!」


って答えてた。

そう言ったらお姉さんはとても嬉しそうにするから、あたしまで嬉しくなっちゃった。



「ふぅん…?そのお姉さんの名前、何?」


「いきなり何ぃ?いいとこなのに。」


「別に。で、何?」


「リリィよ、リリィ・チョコレート。あたしはリリィお姉ちゃんとかって呼んでたかな。」


「リリィ・チョコレート……?」


「何なの、さっきから。」


「………………別に。」



ユリは少し不満げにしながらも話を再開する。


お姉さんと過ごす時間はとても楽しかった、時間を忘れるほどに。


「あらあら、もうこんな時間。レイカちゃんはもう帰らないと、皆心配するわ。」


「えー…まだ帰んない!誰もあたしの事なんて気にしないよー、帰んない帰んない帰んないー!」


「困ったわねぇ。」


あたしはお姉さんを困らせたくは無かったけど、その日は母親と喧嘩したこともあって、いつもに増して帰りたくなかったの。

でもお姉さんが困っちゃう、でも帰りたくない。でも、でも、って泣きそうになった。


「レイカちゃん?……泣かないで、また明日おいで?ね?」


お姉さんはあたしの顔を覗きこみながら、優しく頭を撫でて慰めてくれた。

赤茶色の瞳には、確かにあたしだけが写っていたの。



「……赤茶色?」


「どうかした?」


「………別に。」



でも、次の日にお姉さんの部屋に行ったら窓は固く閉ざされていた。

何回叩いても反応が無いからその日は諦めた、でもその次の日もその次の日も窓は開かなかった。

我慢出来なくなって、あたしは玄関に回ってベルを鳴らしたの。

暫く待っていたら使用人って人が来て、リリィお嬢様は今は誰にも会えませんなんて言うの。

じゃあいつ会えるのって聞いても、分からないとか答えられないとか、あたしはなんだか腹が立って何日かはお姉さんの家に近づかなかった。


でもやっぱりお姉さんに会いたくて、窓を叩いた。

今度はお姉さんが窓際に立っていたの、でも入れてって言っても入れてくれない。

帰れって言われる。

もう来ないでって、もう会えないってそう言ったの。

嘘をついているようには聞こえなくて、あたしは泣きながら帰った。

それ以来お姉さんには一度も会えていない。



「なんで会えなくなっちゃったかなー。大好きだったのに、リリィお姉ちゃん。」


「…………リリィ、か。」


「何か心当たりでもあんの?」


「心当たりって程でもないよ、気にしないで。」


「えー、そういう事言われると余計にきにな…


ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!


……うぇ!?何今の声!?」


「叫び声かな、成人男性だね。」


「んな冷静に言ってる場合!?早く行かなきゃ!」


僕達の話を中断するように劈く悲鳴。

その主は案外と簡単に見つかった。

死体として。


「うっわぁ……どうなってるのこれぇ。骨ないしぃ…怖ぁ。」


死体には骨が無かった、いやそれよりも大きな特徴がある。

ひっくり返っていた。

内蔵が外側に、皮膚が内側に。

一見すると人なのかさえ分からない肉塊。

骨を乱暴に引き剥がされた様な跡と骨の欠片がある、コレをやった奴は骨を狙ったのか?

叫び声が聞こえてから何分と経たずしてこの惨状を作り出せるモノは……間違い無い。


「『ネクスト』だ。」

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