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肩肘張らないオッサンの戯言

リアル異世界トリップ「年若き剣士の練兵場」

作者: 稲村皮革道具店本館

私はその建物に初めて足を踏み入れたのだが、そこは正に異世界そのものだった。



 ……その建物は小高い山の中腹に有った。


偶然の産物からその施設を視察することになった私は、初めて足を踏み入れた瞬間、言い知れぬ異臭に思わず我が身を疑ってしまう。


木陰に入れば涼やかな風が抜け、日向の暑さも忘れる立地条件にも関わらず、そこは人々の汗が染み込んだ防具の臭いが充満し、一瞬、以前訪れた闘犬場の光景を想像してしまう。



だが、そうは言ってもここの臭気は、人の発する馴染み深いものであり、闘犬場のようなまとわりつく刺激的な獣臭等とは比べ物にもならず、気付くとじきに慣れてしまっていた。


やや薄暗さを感じる施設内は、この暑さの中でも窓は閉められ、入り口以外の扉も閉め切られていたが、そこに居並ぶ数百人の男女は皆が同じ様な着衣と防具を身に付けて待機していた。


彼等の背丈は小柄な者も大柄な者も分け隔てなく、ただ年長かそうでないか、それだけが分類の差になっているだけのようだ。



偶然目に留まった一組の若者は、同じような背格好で細い体格であったが、その立ち居振舞いからは場馴れした者特有の、緩やかさの中にも機敏な所作が感じられ、興味を惹かれたので彼等を観戦することにした。


始まりの合図と共に、私の目の前で組になっていた二人は剣を構え、暫く緩やかに緩急をつけながら相対する切っ先を触れさせぬ距離を保っていたが、


唐突に片方が上段に振り上げた剣を振り下ろす。その軌道は美しく弧を描き振り上げた速さを上回る速度で相手の兜へと到達する。



だが、その一撃は認められない。


返しで胴鎧に鮮やかに打ち込まれる凪ぎ払い、しかしこれにも審判役の二人からは有効打の審判は下らない。



お互いに鍔迫り合いへと移りながら、離れる一瞬を狙った籠手への一閃、両者の打ち込みは浅く、距離を離した両者からは明らかに落胆の溜め息が出そうな雰囲気が有ったものの、まるで鏡写しのように烈迫の気合を籠め、雄叫びに似た声を挙げながら同時に踏み込み相手の兜を断ち割らんと剣をまた振り下ろした……。


幾度も繰り返すその打ち合いは短い限られた時間の中で、審判役に勝ちを認めさせる為、鮮やかに、そして速やかに打ち込み続けられた。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




初めての方は初めまして、それ以外の方には毎度お馴染みの稲村でございます。



私は今、「年若き剣士の練兵場」へと来ています。いや、居ました。


……とうとう頭がアレになったかって?気持ちだけ異世界へようこそ……かなって?




んな訳ないでしょう!!ここは日本、○○県!ちゃんと車も走ってます!(笑)

はい、剣道の試合の同伴役でやって来ました某市体育館!!


いつもは魔剣だ何だと書いてきましたが、ここ日本は古くから残る剣術の歴史を誇る世界!!武道としての剣術を子供の頃から習うことの出来る稀有な国だった!!しかも誰でも始められる!君も今日から魔剣士一年生!!




……初期費用が十万円以上かかるけどな!!(苦笑)


時々「親子オタ」にてそんな話は書いてきましたが、実際に剣道の試合を観る機会は初めてで、ほんの少しだけ楽しみにしてきました。ただ、うちのオタ娘には期待はしていなかった。なぜか?……それは、後程。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


さて、冒頭のように試合の始まった会場の体育館は正に「若者達の汗と防具の臭い」の坩堝るつぼ……まるで使い古したバイクのヘルメット状態!ツン!ときました!


でも、そこでは跳ね跳ぶ若者達が、日頃の練習の成果を生かす為、相手の隙を窺いながら竹刀を交わらせていました。



いつもなら「……互いの得物が触れ合う手前の距離を保ちながら、生奪必死の一撃を狙うべく、最後の一線を踏み出す瞬間を窺い続けていた……」とか書く状況が、眼下に何と三十組以上!!多いな、実に多いなぁ~!!死闘がごった返して芋洗い状態とか有り得ないだろ!!日常的に!!


でも昔の合戦ならきっとこんなだったかもしれませんな……戦国時代でも近所の農民が弁当持参で見物に行ったらしいし。



さて、足軽と言うローカル隠語があり、忘れ物で胴だけの姿で素振りをすることらしい。そんな古くからの光景を受け継ぐ歴史ある(?)部活の剣道。


流石に実力的に余り差の無い年齢だろうとたかを括って見物してみましたが……なかなかどうして!!


踏み込む前足よりも蹴り揚げる後ろ足こそが大切とか、往なし打ち込み払い除ける一連の動作とか、ほんの少しの予備知識しかなかった自分でも、観ていて結構面白い……いや、本当言えばやってみたい!!と、久々に思えました。


拳術や格闘技は、昔に必須科目で柔道を一年やっただけではありますが、嫌いではなかったし、何と言うか、血が騒ぐんですよ、こうね……男の子ですから。



……バァン!と弾けんばかりに鳴り響く竹刀の打撃音、踏み込みの音が連続し

外からは太鼓のように聞こえる騒音、そして打ち込みを告げるメン、ドウ、コテ、の発声……。


流石にいきなりやる!とは言いませんが、ワクワクしました。




さて、我が家のオタ娘。試合運びはどうだったか?


結論から言いますと、打ち込みが浅く、声は小さく動作は控え目、素人目からしても「勝ちを奪う」気迫は有りませんでした。結果は引き分け。


でもね?逆に強くなってくれたら楽しいかも?だって逆境からの転身って誰でも夢中になる状況じゃない?その手の話は大量にあるし……異世界物には、ね。



さて、今日は帰ったら、珍しいかもしれないけれど、オタ娘をやる気にさせる為にも知恵を絞って誉めることにします。材料に乏しいけどね……。


あと、いつかこれで短編書く気になりました。内容は秘密。でも、こんな話題で異世界系書こうとする人種は果たしてどの位居るのかな?検索してみよっと。




そろそろ帰りの時間が近付いて参りました。


それではまたいつか!


高速走って帰ります。

そんなお話でした。胴が決まる音、良い音なんですよ。

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