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ニートと愛と望遠鏡 (2)

 

 黒枠の円。


 その黒枠の円の中に、風景が見える。

 見えている風景は、この街の一番大きな入り口の門だ。

 沢山の人や馬車が、その門を通って街の中に入ってくる。

 いかにも行商人風の人や、旅人風の人や、冒険者風の人もいる。

 いや、人だけじゃない。二足歩行しているが、頭の上に耳のある、明らかに人と違う者や、どう見ても蜥蜴にしかみえない風貌の者も居る。


「うーん。見つからないなあ」


 門から少し離れた建物の屋上。

 敷いた布の上に寝っころがって、海賊映画にでてくるような筒状の小さな望遠鏡を片目で覗き込んでいる女性が、ため息まじりにそんな感想を口にする。

 それから、お皿の上に準備しておいたビスケットを手にとった。

 少しづつ口に含み、モソモソとビスケットを食べながらも、一時も門から視線を外そうとしない。

 その女性は、朝からただひたすらに望遠鏡を覗き続け、門を見続けていた。


 彼女の名は 島原千賀子

 もちろん『転移者』の1人だ。


 彼女は、元は都内の高校に通う、女子高生だった。

 『東京の女子高生』というイメージからは、かけ離れた地味な見た目をしている。

 目鼻立ちはそこそこ整っているのだが、黒い髪を後ろで無造作に結び、おでこにすこしだけニキビがあり、化粧はもちろんしておらず、リップの一つも塗っていない。

 勉強は出来たが、秀才と言うほどでは無い。運動は全然駄目。部活動にも参加していない。

 放課後は、図書館に篭って本を読むのが趣味。そんな女の子だった。

 

「うわ! あの人達、鳥に乗ってる。すごいチョコボみたい」

 覗きこむ望遠鏡の中に、鳥に乗った冒険者風の一団を見て、思わず声を上げる。


 さっすが異世界。

 ああいった人達見ると、ほんとに異世界に来たんだと、改めて実感するわ。 

 これで、他の『転移者』との、"殺し合い"が無ければ、結構、楽しいのになあ。

 あーあ。

 彼女は、そんな事を考えて小さくため息をつく。



 実際、この異世界に転移してから十日間程、彼女は、他の『転移者』との"殺し合い"を、そっちのけにして、じつに前向きに、この異世界を満喫していた。

 まずは、街の中を隅々まで歩き回った。

 それは、探索の意味合いもあったが、彼女にとってとても愉しく心踊ることで、半分以上は趣味のようなものであった。

 なにせ、本の中で読んで、想像していた世界が、そこに存在しているのだ。

 見上げる程立派な白亜のお城、中世の欧州のような町並み、道行く不思議な格好は人々。

 見るもの、総てが彼女の心を躍らせる。

 『転移者』は、体力が向上しているので、歩いても歩いてもさほど疲れない。

 最初の3日間などは、ただただひたすらに、石畳の道を、左右に首をキョロキョロさせながら歩きつづけたものだ。 


 ぞの向上した自分の体力を試したりもした。

 早く走れ、高く飛べ、強く戦える。普通の人間相手なら素手でも負けないだろう。

 運動が苦手だった彼女には、これはなにげに嬉しいことだった。

 意味も無く、高い建物の上に飛び乗り、忍者のように屋上づたいに走り回ったりもしてしまった。

 

 その後は、積極的に街の人に話しかけ、多くの情報を得る努力をした。

 この異世界の言葉は、日本語とまったく別の言語だが、なぜか理解することが出来て意思疎通(コミュニケーション)に問題はない。

 すでに何人かの顔見知りもできて、中には、かなり仲良くなっている人もいる。

 猫のような耳を頭の上につけた種族のアネスとは、その耳のモフモフ具合を堪能するまで触らせてもらえるくらいに、仲が良い。


 そして、この異世界で一番目を引いたのは、やはり『魔法』だ。

 元の世界では、存在しなかった魔法が、この異世界では普通に存在している。

 

 わたしも、ぜひ魔法をつかってみたい!

 純粋な好奇心から、そう思った彼女は魔法使いの所に訪ねたりもした。 

 だが、一番簡単なマッチのような火をつける魔法さえ、教えてもらっても習得することができなかった。


 その他にも、この異世界の小物や民芸品を見て回ったり、食べ物に挑戦してみたり。 

 ある意味で、彼女はこの異世界を堪能していた。

 この見知らぬ異世界を、満喫しまくっていた。


 でも、それも昨日までの話だ。

 終わりは、不意にやってきた。


  感じる。

  『転移者』だ。 

  私以外の『転移者』が、この街に近づいているのを感じる。

  とうとう、来てしまった。


 まるで、今まで、心のどこかで見ないようにしていた"厳しい現実"そのものが具現して近づきつつある。

 



 島原千賀子は、望遠鏡を覗き続けている。

 彼女は、本が読めるなら、どれだけでも時間がつぶすことが出来る。だが、流石に望遠鏡覗きながら、本読むのは無理だった。他のことも殆ど出来ない。

 何もすることができないので、頭の中で色々と思いを巡らせる。


 "他の『転移者』と最後の一人まで殺し合う"か。

 いくら、最後まで生き残ったら、どんね"願い"も叶うと言われたって、やっぱり人を殺すのって抵抗あるわね。

 でも、考えてみると……


 どうせ、私は一度(・・)死んでしまった身(・・・・・・・)

 どんな酷い条件でも、希望があるのは、良いことなのかもしれないわね。

 やっぱり、生きていたいし。

 取りあえず、できるだけの事は、やってみましょうか。

  

 今まで、確かに、私はちょっと現実から目を背けて、この異世界を堪能しすぎていたかもしれない。

 『転移者』が来なくても、どっちにしても三ヶ月後っていう期限があるんだから、それを考えると、時間を無駄にしすぎてしまった。

 それは反省。 

 でも、今までだって、まったく完全に目を背けていた訳じゃない。

 私は、私なりに色々と、考えてもいたんだから。


 まず、生き残る。それを前提に考えることにする。

 もちろん、その為には『転移者』との戦いに勝ち残らなきゃいけない。

 じゃあ、勝つためには、どうすればいい?

 勝敗を決める要因はなに?

 

 まず、体力。

 普通は"殺し合い"なんて言うと、まず体力がある人が勝ち残る確立が高い。

 でも、これは、どうやら問題にならないと思う。

 全員殆ど差が無いレベルまで、強化されているらしい。

 運動オンチだったわたしですら、この建物の屋上にくるときに、梯子など使わず、飛び上がって乗ったくらいだもんね。

 

 思ったんだけど、体力に差が無いと、結構生き残るのは女の人の方が、多いんじゃないかしら。

 生存本能は女性の方が強いって言うし。なんていうか、"自分が生き残る為"とか、"自分の望みの為"にとか、女の人のほうがすっぱり割り切って人を殺せそう。

 男の人って、正義とか人類愛とか、なんか変に拘って自滅する人が多そう。

 実際に、男の人が、女の人と面と向かって殺し合いになったら躊躇したり油断したりも、しそう。


 ちょっと話がずれちゃった。

 とにかく体力は、大きな差がない。

 だから、この世界にも剣や弓の武器があるけど、よほど相手の隙を突くでもしない限り、それだけで相手を殺すことは難しい気がする。


 と、なると、やっぱり勝負を決める大きな要因は、『転移者』が1人1つだけ持つ『特殊スキル』よね。


 特殊スキルって、ようするに魔法みたいな物。

 もし、この特殊スキルや、それに近い魔法なんかが、いくつも使えたらそれだけ有利になる。

 私も実際に魔法を覚えてみようとしたことあったけど、でも、無理だった。私達『転移者』には、この世界の魔法は使えないみたい。


 結局、この"殺し合い"は、純粋に『特殊スキル』で相手を倒すのが前提のルールなんだと思う。

 いや、違うわ。

 『特殊スキル』以外に、もうひとつ。勝負を決める大きな要因がある。

 

 それは、やっぱり知恵よ。知恵。

 あまり強いとは言えない人間が、世界を制する事ができたのも知恵のおかげ。

 人間は考える葦である。うん、単純だけど、これ、真理。名言ですね。 


 だから、私は、この街を色々調べた。

 そう、決して遊んでただけじゃないのよ。色々調べて、色々考えたんだから。

 それで、私は、罠をはることにした。罠っていうと、小細工するみたいで、なんかズルく聞こえるけど、気にしない。

 これだって、ちゃんとした戦略よ、戦略。それに、けっこう、私、こおゆうの得意な気がするし。

 すでに街の中にはわたしに力を貸してくれる協力者もいる。

 色々なパターンも想定して、数種類の罠もしっかり準備した。

 後は、『転移者』を罠に嵌めるだけ。

 だけど、その罠にはめるためには……


  敵を、先に発見する必要があるのよね。


 ふう。

 島原千賀子は、ちょっと一息ついて、皮の水筒から水を飲む。

 もちろん、水を飲む間も、門から、目を離さない。


 そう、敵を、先に発見する必要がある。

 だから、こそ、こうやって街に入ってくる人を、ずっと監視している訳だ。


 でも、

 実際に監視しながら、こんな事言うのも、なんですけど……

 やっぱり、この見張り方で、先に相手を見つけるのは、ちょっと無理があったかも。


 この街は、周りを城壁でぐるりと囲まれてるから、出入りするときに、必ず門を通らなくちゃならない。だから、この正面門を見張ってるんだけども。

 実はここ以外にも、門が有るのよね。

 今、見張ってる正面門が一番大きくて、人通りも多くて、街を出入りする人の八割くらいは、この門を通る。

 だけど、残りの二割は、別の門を通って街に入って来てしまう。


 それだけじゃない。

 望遠鏡で遠くから相手を見て『転移者』と解るかどうか、実際の所やってみないとわからない。

 遠くから姿をみるだけじゃ、どの人が『転移者』なのか見分けられない可能性だって高い。


 実際に『転移者』が、この門を通る可能性は八割。

 しかも、もし通っても、相手が『転移者』だと解らないかもしれない。

 実際、自分でもかなり分の悪い賭けだと思うわ。


 そんな事を考えて、彼女はやや表情を曇らせる。

 それでも、僅かな望みにかけて、少しも休まず望遠鏡を覗き続ける。

 

「やった!」

 

 突然、彼女は歓喜の声をあげた。

 

 やったわ!

 どうやら、私は!

 分の悪い賭けに、勝ったみたい!


 彼女が覗き続けていた望遠鏡の中に、1人(・・)の人物が門を潜りぬけ街に入ってくる風景が、見えている。

 その人物を見た瞬間。彼女は、本能で理解できた。


 解るわ。

 間違いない。


  あの人(・・・)が 『転移者』の1人(・・)で間違いない!



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