ニートと愛と望遠鏡 (1)
解ってた。
解ってたんだよ。
いつか、こーゆー大逆転ホームランみたいな事が起こると、ずっと解ってたんだよ。
だってよ、この俺よ。
この、すっげーすごい俺様よ。
くっそつまらない社会の常識に縛られないこの俺様が、普通につまらなく人生を終わるなんてありねえよな。
学生時代の知り合いは、毎日毎日、満員電車に乗って、つまらない仕事をやりに会社に通ってやがる。
あいつらは、何も考えずに会社に縛られてる社畜どもだ。
しかも、子供とかできちゃって『おれ、こいつの為なら辛い事でも頑張れるんだ』とか、言っちゃって。
くっだらねえ。本当に、くっだらねえ。
あいつら、社畜、会社の奴隷で、何も考えてない豚だ。
豚だ、豚。ブヒーブヒーって鳴いてろってんだ。
それでいて、俺に対して、上から目線で説教してきやがる。
『ちゃんと働けよ』
『いいかげん大人になれ』
『もう30になるのに、いつまでブラブラしてるんだ』
『バイトも結局やめたんだって? 今何やってんの?』
『ニートとか、生きてて恥ずかしくないのかよ』
『お母さんが泣いてたぞ』
『くさいぞ、ちゃんと風呂はいってるのか』
『お前駄目だわ。もう駄目。まじで底辺だわ』
うるせーよ! しるか そんなこと!!
俺は、つまらないあいつらとは、違う。
根本的に違うんだよ。
元々、ちゃんとしたすごい計画だってあったんだぜ。
それは『ユーツーバー』になる計画だ。
パソコン使うのは結構得意だし、動画配信を始める準備も、けっこう進めてた。
俺が、配信さえ始めれば、あっと言う間に視聴者を集めて、人気者になって金持ちになって、リスナーの女の子と、エッチしまくりだったよ。
ただ、ちょっと色々とな。
そう、色々と、めんどくさくて、やり始めるのが遅れていたけど……。
いや、それに、それだけじゃない。
じつはもうひとつ、すごい計画があったんだよ。
それは、ラノベ作家にもなる計画だ。
もう、すでに頭の中には、すっげー面白いくてかっこよくて最高な物語が、あるんだ。
異世界で、かわいいキャラたちがイッパイ出てきて、すっごいかっこいいスキルとかでてきて。
しかも、十巻分くらいのストーリーがある。
書きさえすれば、大人気になって、すぐにアニメ化されて、声優と仲良くなれるはずだったんだ。
まあ、いいや。
そんな架空の物語を書かなくても、本当に異世界に、最強の特殊スキルをもって『転移者』として来れたんだ。
なんか、他にも100人くらいスキルを持った『転移者』がいるらしい。
そいつらと殺し合いしなきゃいけないとか、最初に説明された。
だが、もちろん、そいつらはモブだ。モブキャラ決定だ。
ニートだった俺が、英雄になって無双する。そうに決まってる。
ラノベの主人公達だって、そうだろう。
そうさ、この物語の主人公は、この俺。
山崎翼だ。間違いない!
これって何て言うコメディアンのネタだったけ?
はっははは、こんな時にもギャグとか言っちゃう俺って、逆にクールってやつ?
それに、さあ。
俺の"願い"も、もちろん決まってる。
"願い"は一つだけしか叶わないらしいけど、問題ないぜ。
なぜなら俺は『総てをくれ』とお願いしてやる予定だからだ。
頭いいだろう? すごい"願い"だろう?
世界の半分とかそんなの無しだ。総てだ、総てだぜ。
そしたら、もちろん、総てが俺の物になる。
すべての人も、俺に跪き、俺を敬い、俺を尊敬するんだ!
俺が、総てを手にいれた時。
今まで俺を馬鹿にしてきた、あいつらは、どんな顔をしてくれるだろう?
楽しみだ。楽しみで仕方ない。
山崎は、そんな事を考えながら、唇を歪めて、ニタニタとした笑いを浮かべる。
他人が見たら、嫌悪するような笑みを浮かべたまま、やや猫背の姿勢で、地面だけを見つめながら歩き続けていた。
やがて 山崎が歩く道の先に、大きな街が見えてくる。
周囲を高い城壁に囲まれた、城砦都市だ。
その街を見ながら、山崎は、またニタリと笑う。
解る。解るぞ。
あの街に『転移者』がいるのが解るぞ。
さあ、いくぜ。
山崎翼は、少しだけ歩く速度あげた。
俺の輝かしい最強無双英雄伝説が、この街から始まるんだ。
――――――
イヤ。
まじで、イヤ。
なんで、私が殺し合い? とか、しなくちゃいけないの?
信じらんない。マジ信じらんない。
私は、いつだって人気者だったんだから。
小学生の時は、勉強もそこそこ出来たし、お洒落も出来たし、体も大きかったし、クラスの中で一番くらいに目立ってた。
中学生になって、勉強はできなくなっちゃったけど、スカートを短くして、服の裾から、チラチラとお腹を見せたりするだけで、いつでも男子がチヤホヤしてくれた。
高校になってからも、ちゃんとお洒落して、頑張って、イケテルグループに入れてもらって、京子とかアンコとかは、わたしのこと、下にみてくるからムカつくけど、でも、ちゃんとイケテルグループにはいってるしぃ。
とにかく、私は、人気者で、かわいくって、SNSでも私の発言にみんながすぐに反応してくれる人気者で、私の会話が中心で、男のからもデートに誘われて、めっちゃお洒落だから人気者で、最新の話題は豊富で、いっつもクラスのイケテルグループにはいってて、だから人気者で、とにかく人気者だったの。
そんな、人気者の私が、なんで、殺し合いなんかしなきゃいけないの。
まじで、イヤ。
でも、なんか、生き残ったら、なんでも"願い"が叶うらしい。
それだけは、いいかも。
もし、本当に"願い"が叶うなら、やっぱり ユー君と結ばれたい。
ユー君、好き。めっちゃ好き。
もう、ユー君って、やばいくらいかっこいいんだから。
もうすっごいかっこよくて、いけてて、お洒落で、髪型もよくって、優しくって、爽やかで、女子に人気あって、いけてて、男子の友達もおおくて、優しくって、かっこよくて、とにかくめっちゃやばいくらいかっこいい男子。
ユー君と結ばれる為になら、ちょっと頑張ってもいいかも。
ほら、愛の為に戦う? ってやつ。
世界の中心で叫ぶ? ってやつ
それって、めっちゃ感動的ちゃう?
やばい。いいかも。
本当にいいかもしんない。
よし、決めた。
決めちゃった。
ユー君の為に、他の人、ぶっ殺しちゃう。
まじで、まじで。
すっごい。私。愛の為に戦っちゃう。
まじかんどー。
あのスキルっていうのがあれば、わたしでも、できそうだしぃ。
じゃあ
まずは、あの街だよね。
あそこに『転移者』だっけ?
とにかく 居るの、なんかよくわかないけど、なんとなく、わかる。
とりま、そいつ、ユー君の為に、殺しちゃおう。
平松絵里奈。
彼女は茶パツの髪を揺らしながら、道の先にある城砦都市に向けて、歩き始めた。
ユー君まっててね。
わたしユー君の愛の為に、全員、まじ殺しちゃうよ。




