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森の中の二人 (2)


 田中は、壁に身を隠すようにして、窓から少しだけ顔をだして外を窺い続ける。


 暗い森の中から、この小屋へと続く一本の道。

 その道に、人影が見えてきた。


 え?! 女の子?!

 人影を見て、田中は動揺する。


 森の中から現れたのは、小柄で可愛らしい女の子だった。

 ふわふわした茶色の髪に、少し垂れ目の可愛らしい。

 元の世界で見かけたら、普通にかわいい女子中学生と言った感じだ。

 だが、暗い森の中で、そのふわふわした茶色の髪や、ミニスカートから出ている白い素足は、ミスマッチで、異様に目立っている。


 間違いない。

 彼女は『転移者』だ。


 女の子は、何の躊躇もなく、まっすぐ此方に向かって近づいてきて、小屋の手前10m程の所で、止まった。

 そこで、腕を組んで、何かを考えこんでいる。


 何を、考え込んでいるんだ?

 田中は不思議に思って、じっと観察する。


 だが、少女は、すぐに考えるのを止めたらしい。


「先手必勝!!『火炎攻撃』!!!」


 そう、森の中に響くような大声で叫ぶと同時に、腰の剣を引き抜いた。

 その剣の刀身を、炎が覆っている。


 『転移者』者の特殊スキルは、声に出して、スキル名を言うと発動する。

 ちなみに、結構大きな声でハッキリと叫ばないと発動されない。

 田中も、もちろん試してみているが、小さな声で呟く程度だと、発動されないのだ。


 『火炎攻撃』あれが、あの少女の特殊スキルか。

 田中は、手元にあった"虐殺録"を開く。

 58番に、『火炎攻撃』という項目があった。その横には、まだ☆は無い。

 どうやら彼女も、初めての『転移者』との戦いのようだ。


 まあ、そうだろうな。

 そうじゃ無かったら、あんな風に、いきなり自分の特殊スキルがモロにバレルような事しないよな。

 田中は、窓から少女の行動を見ながら、少々呆れる。


 『転移者』同士の戦いで、一番やっかいなのは、"相手の特殊スキルが解らない事"だ。

 『火炎攻撃』と言うスキル名から単純に想像する内容とは違っているが、あの炎をまとう剣が、彼女の特殊スキルで間違いないだろう。


 いきなり、奥の手でもある、自分のスキルをばらしてしまうなんて、あの子、何を考えているんだ?

 いや……

 何も考えて無いのかな?



「くらえ! 『火炎攻撃!』『火炎攻撃!』『火炎攻撃!』」

 森中に響くような大声で叫びながら、少女が剣を振る。

 叫んで剣が振られるたびに、剣先から火の玉が飛び出してきた。


 飛んできた火の玉が、みすぼらしい小屋へと命中する。

 小屋を破壊するほどの破壊力はまったく無いが、木で出来た壁や天井に、その炎が燃え移っていく。


 あ、やばい。

 とりあえず、小屋から出ないと。

 田中は裏口から外へと飛び出し、森の中へと駆け出していく。


「あ、逃げた! こら、まて!」


 田中が、後ろを振り返ると、もちろん少女が森の中まで追いかけてきている。

 『転移者』となった田中が、森の中を走る速度はかなり速い。だが、追いかけてくる少女も『転移者』だ。

 可愛らしい見た目からは想像できない程のスピードで、森の中を疾走している。


 くそ! 

 どうやら『転移者』同士に、体力差は、ほぼ無いみたいだな。

 逃げきるのは無理か。

 田中は、走りながら苦悩する。


 できれば、戦いたくない。

 それに、戦うにしても、もう少し後が良かった(・・・・・)

 いや、いつまでも愚痴を言ってても仕方ないか。

 ()らなきゃ、()られるだけだ。


 田中は、決意する。

 森の中で立ち止まり、叫ぶ。


『森林支配!!!』


 森が、揺れた。

 周りを取り囲む、総ての木々が震え、数多の枝を揺れ、無数の葉が風に舞う。


「えええええ?! なにこれー?!」

 森の中を疾走する少女の行く手を、大量の枝と風に舞った葉が塞いでいく。

 慌てて、手にもっている炎を纏った剣を振り回し、薙ぎ払う。

 だが、薙ぎ払っても、薙ぎ払っても、周りにいくらでもある枝や葉は、尽きることなく少女の行く手を塞ぐ。


 田中は、ただ隠れるためだけに、この森の奥にいた訳ではない。

 予め、もし戦う事があるなら、自分の特殊スキルを最大限に発揮できる場所で戦えるように、準備していたのだ。 


 でも、まだまだ、全然、威力不足だよな。

 ずっとこの森で、特殊スキルのトレーニングして、やっと、ここまで動かせるようになったけど、今だに相手を倒せるような破壊力は無い。

 まあ、葉っぱ一枚を動かすのがやっとだった最初の状態から比べると、かなりマシになったか。

 

「ああ、もう! 邪魔、邪魔、邪魔ーー!!」

 少女は、襲いかかる枝で体中に切り傷を負いながらも、無理矢理に振り切って、大きく飛び上がった。

 空中から、田中に狙いを定めて向かって剣を振るう。

「くらえ!『火炎攻撃』!」


 よし、いい場所だ!

 田中は、クイっと指を挙げる。

 その動きに合わせて、大きな木の枝に絡みついていた(ツタ)が、スルスルと動きだす。

 田中を狙う少女の、視界の外から、その細い手首に絡みついていった。


「え?! え?! え?! ちょっ 何?」

 いきなり視界の外から手首を捕まれた少女は、混乱する。

 絡みついた蔦が、手首を強く締め付け、握っていた剣を落としてしまった。

 しかも蔦は、その一本だけではない。

 四本の蔦が、それぞれ両手首、両足首に巻き付き、彼女の自由を奪う。


「何これ? ナンなの? これ、なんなのーーー?!」

 混乱して、暴れる彼女の両手首、両足首を縛り上げた蔦が、四方向へと引っ張る。

 そのまま、少女は、空中で『大の字』に固定されてしまった。


 空中で、身動き一つできない状態になってしまった少女が必死に叫ぶ。 

「待って! 待って! 殺さないで! 殺さないで! 

 お願い、……えっと、オッパイ!!」

 

「オッパ……、いきなり何を言ってるんだ、こいつ」


「オッパイはオッパイだよ! オッパイ!

 私のオッパイ! 揉ませてあげるから! 小さいけど形いいんだよ私のオッパイ!

 大サービスで、直接、生で揉んでいいから!!

 ほら、降ろして! 近く来て!! オッパイ揉んでいいよ!

 かもーん かもーん!」

「必死すぎるだろう。女の子が、オッパイオッパイ連呼するなよ」


 少女の声を無視して、蔦を操り、少女が肩に掛けていた革鞄を奪う。

 更に、蔦で彼女の体を、まさぐっていく。


「あ?! あああああん?! あふぅううん 駄目ぇ、そんなとこぉお!

 そんなところぉ まさっぐちゃぁ だめぇえん! こ、これは接触プレイ?! 接触プレイなのぉお?! 随分マニアックな趣味だーー!

 でも、でも、蔦で触っても気持ち良くないでしょう? 降ろしてー! そんで、こっちおいでー! オッパイ揉んでいいからー!」


 田中は彼女の言葉を無視し続ける。

 蔦で体を探ったのは、もちろん接触プレイなんかじゃない。

 何か他の武器を隠し持っていないか探っただけだ。

 彼女が何も持っていない事を確かめたら、すぐに止める。


「接触プレイ終わり? じゃあ、次こそオッパイだね オッパイ!

 駄目? 駄目なの? わたしのチッパイじゃ駄目なの? 巨乳好きなの?

 って 言うか! 今、気がついたけど、その場所から私のパンツ丸見えじゃない?

 すけべー! このエロ! 

 はっ!? あれか! 君は、オッパイよりパンツ派か!」


「パンツ派ってなんだよ、それ……」

 確かに、田中の位置からは、少女の水色のパンツが丸見えだ。

 だが正直、"だから何だ"と言う気分だ。


「うーん、エロじゃ釣れないかぁ。

 じゃあ、えっと、えっと……、そうそう、あの話知ってる? えっと、えっと、ほら、あれ! あれだよ あれ! あの話!」

「あれって、何だよ。あからさまな時間稼ぎすんな」


「いやいや、あの話! あの話だよ。えっとえっと……、あれだ!

 81番と82番の話だよ!」

「81番と82番?」

 興味をそそられて、思わず田中が聞き返してしまう。


「うんうん! 81番と82番。

 あの二人さー、元の世界で恋人同士だったらしいの。んで、この世界でも二人一緒に行動してるんだよ!

 私、二対一で、殺されそうになって、命からがら逃げてきたんだよー。それって、なんか、ずるくない?」

「二人で一緒に行動? でも、最後に生き残れるのは、一人だけだろう? 最後、恋人同士で殺しあうのかよ?」


「そんな事、私が知るはずないじゃん! とにかく二人で協力して戦うって、ずるいよね。

 ん? ……んんん?

 あ、そうだ!! 良い事考えた」

 少女はニッコリと笑う。


「ねえねえ、私達もコンビ組もうよ。一人より二人のほうが絶対有利だってー。

 裏切らないから。絶対裏切らないから! お願い。お願いします!!」


 二人で一緒に行動?

 そんな事、考えても見なかった。


 田中は、腕組みして、思案する。

 確かに、二人の方が、圧倒的に有利だ。生き残れる確立は上がるだろう。

 でも、最後の最後に、生き残れるのは、一人だけだ。

 それに、途中で裏切られて、寝首をかかれる可能性も高い。


「ね、お願い。お願いだからー。

 ほら、私を仲間にしたら、毎日オッパイ揉めるよ! これは、凄い特典だよー!

 あ、オッパイよりパンツが、好きなんだっけ? いいよ パンツ!

 毎日パンツみせてあげるから! ほら、降ろして! こっちおいで!

 すぐ近くでパンツ見ていいよー!」


「何で、いつの間にか、俺がパンツ好きになってるんだよ」 

 まあ、いいや。とりあえず、オッパイやお尻は置いといて……

 確かに、二人で一緒に行動ってのは、一考の余地が有るかもしれない。

 どっちにしても、彼女を殺す勇気は、"今の俺には、無い"


 今、彼女を見逃しても、結局それは、問題の先送りでしかない。

 そういう思いも、自覚している。

 それでも、俺は……


 田中は、とりあえず彼女を空中から地面へと降ろす。

 流石に、まだ両手両足を解きはしない。

 その状態で、ゆっくりと、少女に近づいていく。


 彼女のすぐ目の前まで行き、友好的な笑顔を浮かべて言った。


「君を殺すのは止めておくよ。

 どうするか、まだ決めれないけど、

 とりあえず今は、殺すのは止めておく」

 

 そんな田中に対して、少女もニッコリと最高の笑顔を浮かべて、言った。



     「バーーーカ」



 少女が叫ぶ。

 『全身針化!!』

 彼女の全身から、動物のヤマアラシのように針が伸びる。


 な?!!

 無数の針が、田中の体をつらぬいた。


 なぜ?! なぜだ?!

 彼女の特殊スキルは『火炎攻撃』じゃないのか?!

 絶望の中で田中が叫ぶ。

「なんで、特殊スキルが二つもあるんだぁああああぁぁあああああ?!!!」


「無い 無い。二つも無いよ。特殊スキルはひとつだけえー。

 『火炎攻撃』なんて 嘘、嘘、嘘ぴょーん。

 あの剣、街中の魔法具屋さんで買った、魔法剣だよ。高い割には、ちょっと火の玉が出せるだけの、ぜーんぜん使えない魔法剣。少しでも動揺させれば儲けものって思ってわざと派手に使っただけなのに、まーさか、こんなに簡単に引っかかってくれるとは思わなかったよ。

 あんな魔法剣、街にいけば、けっこう普通に売ってるのにさー。

 あれ? ひょっとしてして……


  君、街に出た事なかったの?」


 その問いに、田中は、答えない。

 いや、正確には答えれなかった。


 田中一郎。

 7番 『森林支配』の使い手の転移者。

 彼は、全身を針に貫かれ、すでに亡くなっていた。


 林琴美(ことみ)

 彼女の細い体を拘束していた蔦が緩んでいく。

 足元に転がる田中の死を確認してから、近くに落ちていた自分の革鞄を拾い、着替えの服を取り出した。


「私の特殊スキルって近づかないといけないし、そのうえ、使うたびに服が穴だらけになっちゃうのが難点なんだよねえ」

 

 確かに彼女の着ていた服はすべて、下着まで余すことなく、彼女自身の体から出た針で、穴だらけになってしまっていた。取り出した服に、いそいそと、着替える。

 次に、革鞄の中から"虐殺録"を取り出して開く。

 

 07番 『森林支配』の部分に、射線が引かれ、

 96番 『全身針化』の横に、三つ目(・・・)の☆が追加されていた。


「いぇーーい。星 みっつめ げっとー!

 この調子で、『転移者』全員、皆殺しにしちゃうよー!」



※題名変更しました。


不定期連載となります。宜しくお願いいたします。

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