森の中の二人 (1)
田中一郎は、羊皮紙で出来た本を開く。
本の表紙には、この世界の言葉で、"虐殺録"と書かれている。
最初の説明の時にもらった、"魔法の本"だ。
本の内容も、この世界の文字なのだが、なぜか田中には理解できる。
田中は、その本の中にざっと目を通し、昨日と比べて変化のあった箇所を見つけた。
38番 『身体伸縮』
73番 『従獣召還』
その二箇所に上から射線が引かれ、消されていた。
本の中の1から、100まである番号のうち、今日の二つを加えて、33箇所に射線が引かれている。
それは、100人の転生者のうち、今日死亡したと思われる2人を加えて、すでに33人が死亡している事を意味していた。
また射線を引かれた2箇所とは別途、書き加えられている箇所もある。
いままで、番号とスキル名しか書かれていなかった41番の横に、星のマークが書き込まれている。
41番 『保護色』 ☆☆
41番の保護色の特殊スキルをもつ転移者が、36番と、73番を殺したのだろう。
他の転移者を殺すと、こうやって『☆』を獲得できるのだった。
この異世界に、100人の『転移者』が来てから、10日間。
たった10日間で、33人が亡くなった。
いや違う。
33人が、殺されたんだ。
すでに3分の1の人が、殺されたんだ。
田中一郎は、やり切れない思いで本を閉じた。
暗い暗い森の奥。
ポツンと一軒だけ建っている、みすぼらしい小屋。
田中一郎は、この異世界に来てからの10日間、この小屋にずっと居る。
残り一人まで殺しあうこの手の"デスゲーム"では、本来なら隠れ続けるのも一つの有効な手段であるはずだ。
だが、この殺戮において、その手段は使えない。
なぜならば、三ヶ月後に星を一個も獲得していない者は、死んでしまう呪いが掛かっているからだ。
それだけでは無い。
さらに、その一週間後。生き残っている者の中で、一番獲得した星が少ない者が、死んでしまう。
そして、次の一週間後には、また、生き残っている者の中で、一番獲得した星が少ない者が、死んでしまう。
そうやって、一週間ごとに、次々と獲得した星が少ない順に死んでいくことになっている。
他の"デスゲーム"と違って、純粋に殺戮に明け暮れて、星を多く獲得した者が勝つ可能性が高い仕組みなのだ。
しかも、今は近づくとお互いが『転移者』の存在が解る程度だが、三ヵ月後からは、すべての『転移者』のだいたいの居所さえ解るようになると言う。
隠れる続けることなど、まったく意味がない。
なのに、彼は、ずっとここに居続けている。
色々な理由があった。
いくつかある理由の中でも、一番の理由は、"人を殺したくない"だった。
田中一郎にも、もちろん叶えたい"願い"がある。それは誰にも譲ることが出来ないものだ。
だが、それと同じくらい、人を殺すことに抵抗があった。
彼の持つ特殊スキルの御蔭で、食べていく事には困らない。
いや、『転移者』は、もともと特殊スキル以外にも、体力や反射神経等が並みの人間以上に成っている。
食べる為に、動物を捕らえることぐらいは、簡単にできる。
だから、生きていくうえに、困る事はない。
でも、
このまま、ここにいても、三ヵ月後には、呪いで死んでしまう。
「俺は、どうすればいいんだ。
殺しあうなんて、どう考えたってオカシイだろう。
なんとか……
なんとか、良い方法は無いのか……?」
くそ!!
ガンと、勢いよく壁をなぐる。
心の中から湧いてきた、やり場の無い怒りに身を任せ、おもわず壁をなぐってしまった。
結構痛い。
壁を殴った拳に目をやると、皮膚が赤く腫れている。
あー、くそ。
馬鹿なことしちまった。取りあえず水で冷やすかな。
田中は、そう考えて、奥の水瓶に向かって歩き出した。
だが、部屋の真ん中あたりに来た所で、その足を止める。
!!!?!
突然、首筋の当たりが、ヒヤリと冷たくなっている。
本能が、すぐに理解した。
『転移者』が、いる!
近くに『転移者』がいるのが嫌でも解ってしまう。
田中一郎はあわてて身を低くする。ドアの横の窓から、少しだけ顔を出して外を見た。
窓の外には、いつもと変わらない森の風景が広がっていた。
『転移者』の姿は、見えない。
偶然、ここを通りかかった。って、事はありえないよな。
やっぱり
俺を殺しに来たのか?
――――――
道に迷ちゃった。
だって、看板も何も無いんだもん。
駅もないしさ。
誰もいないしさ。
そりゃ、迷っちゃうって。
林琴美は、天を仰ぐ
爽やかな風に揺らる森の木々の間から、蒼い空が見える。
白い雲が、ゆっくりと流れていく。
お天気いいなー。すっごいピクニック日和。
あ、しまった。お弁当でも持ってくれば良かったな。
どうせ食べ物は現地調達すれば良い、なーんて思って手を抜くんじゃなかった。
それにしても、歩けど、歩けど、森ばっかり。
って、言うか、森に入ってから、もう3日間ぐらい?
本当に、ずっとずっとずっと、森。
本当に木しか、ないんですけどー。
何にも無いんですけどーー。
もうかなり、嫌になってきてるんですけどーーーーー。
本当に、こんな所に、居るの?
私と同じ 『転移者』さん
琴美は、小さく可愛らしいため息をついた。
ふわふわの茶色の髪。ちょっと垂れた目が、可愛らしい。
上は白いシャツに、下はミニスカートと、シンプルだが森の中には似つかわしく無い格好をしている。
小さな革製の鞄を肩に掛け、腰には片手剣をぶら提げているが、それ以外には荷物らしい荷物は、無い。
ちなみに革製の鞄の中身は"虐殺録"と書かれた魔法の本と、着替えの服だけが入っている。
他には、ろくな荷物を持っていないのに、着替えだけはちゃんと準備している所は、ある意味で女の子らしいと言えるかも知れない。
あー、もう。
けっこう高いお金はらって、街の占い師にみてもらったのに。
元の世界のインチキ占いと違って、こっちの世界の占い師って、本当に魔法とか使って占ってるから、けっこう当たると思ったのにいーー。
うーん。
やっぱり、騙された?
諦めて街に帰ろうっかな。
どうしようっかなぁーー。
???!
あれ?
あれれれれ?!
なになに?!
なんか、急に首筋の辺りがムズムズするぅ。
琴美は、慌てて周りを見回すが、暗い森の木々以外、何も見えない。
少し考えてから、近くにある一番大きな木に向かって、飛びついた。
そのまま、スルスルと木を登っていく。
琴美は、ミニスカートを履いているので、下からは色々丸見えだが、そんな事はまったく気にしない。
木の一番上へと登りきる。
そこで、キョロキョロと周りを見渡す。
「みーつけたっ!!」
満面の笑みを浮かべる琴美の視線の先には……
ポツンと一軒だけ建っている、みすぼらしい小屋があった。
不定期連載となります。




