表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼岸まで  作者: 若松ユウ
給水「香澳島その二~the Hong-ou island 2nd.~」
6/33

#005「諫言、耳に逆らう」

@香澳島中央駅

――久し振りじゃの、諸君。ん? 荷物はあれども、二人の姿が無いことに疑問を感じてるようじゃな。案ずることは無い。二人は、スカーレットくんのところで治療を受けておる。せっかくじゃから、自慢の千里眼でもって、ちょいと覗かせてやろう。どれ。ワシの髪か髭を掴みなさい。痛タタ。そんなに強く握らんでも、軽く触れるだけで充分じゃ。そうそう。それで、よろしい。

小華「これは何なの、紅さん?」

紅月「そんな、いぶかしみなさんな。眉間に皺が寄ってるわよ、小ちゃん? 愛らしい顔が台無し」

中狼「目薬を注した方がいいんじゃないか、紅さん。老眼が進んでるぜ?」

紅月「せめて霞み目だと言いなさい、中ちゃん」

小華「それで、これは何なのよ?」

紅月「材料は企業秘密だけど、あたし特製の疲労回復薬よ。食べやすいように一口大に濃縮したから、パクッといっちゃいなさい」

中狼「気を配る方向性を全面的に間違えてる気がするのは、俺だけか? 何だか、沼に生えてる藻か、岩に生してる苔みたいな見た目だな」

紅月「食欲を削ぐようなことを言わないの。お抹茶か何かだと思いなさい」

小華「お口に入れるのを躊躇うニオイがするんだけど、身体に悪影響はないの? 副作用があるなら、先に言ってほしいわ」

紅月「昔の偉い人は言いました。良薬は口に苦し。いいから、何も疑わずに食べなさい」

中狼「鼻を摘んどいてやろうか?」

紅月「中ちゃん、いい加減にしなさい。それとも、あたしがアーンしてあげましょうか?」

小華「いや、自分で食べられるわ。イタダキマス」

小華、特製薬を食べる。一瞬、目を見開き、口に手を当て、声にならない叫びを上げる。

中狼「オイ。しっかりしろよ、小小。何か言い残すことはあるか?」

小華「ケホ、ケホ。……一度でいいから、蒸饅頭を蒸籠で丸ごと一つ分、平らげたかった」

紅月「縁起でもないことを言うんじゃありません。ま、くだらない小芝居を演じられるだけの元気があれば、問題は無さそうね。胃腸に収まれば反応は治まるから、それまで我慢なさい。さて、お次は」

中狼「良かったな、小小。それじゃあ、俺は失礼して」

中狼、立ち上がり、何かを探す。

中狼「アレ? 俺の上着が無いぞ?」

紅月「こんなこともあろうかと、透明化魔法を掛けておいたの。治癒が終わったら術を解いてあげるから、観念してこっちへいらっしゃい。背中と足にダメージを負ったんでしょう?」

中狼「いやいや。たしかに、ちょっと乱暴な目には遭ったけど、治癒が必要な程ではないから」

中狼、軽く屈伸。

中狼「この通り、平気だって。だから、上着を」

小華「あら。杖で袋叩きにされたり、門扉に挟まれて押し付けられたりしてたじゃないの」

中狼「小小。余計なことを言うな」

小華「事実じゃないの。自分だけ逃げようったって、そうは問屋が卸さなくってよ」

紅月「中ちゃんの言う『ちょっと』は、当てにならないわね。それなら、なお一層のこと気合を入れて治癒してあげなくっちゃ」

紅月、指を弾いて鳴らす。中狼、その場に崩れる。

中狼「オ、オカシイな。身体ニ、チカラガ、入ラナイ」

紅月、中狼を両脇から抱え、仰向けに寝かせる。

紅月「ハイ、目を瞑って。全身の力を抜いて。……よし。それじゃあ、治癒魔法を掛けるわ」

紅月、人差し指を唇に当て、詠唱。反対の手を、中狼の胸の上に置く。

紅月「エルホールング」

中狼「ぎゃおわぁっ」

――ホッホッ。こんなもので良かろう。小一時間もすれば、ツヤツヤした顔で、ここにやってくるはずじゃ。さて。紅茶を入れる支度でもしようかの。湯を沸かして、陶器を温めねば。はて。茶菓子は、何か、あったかの? おぉ、そうじゃ。箪笥にドライフルーツがあったはずじゃ。それを出そう。

それにしても、アレじゃな。香澳島以外でワシの出番が無いのが、ちょいとばかり寂しいところじゃの。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ