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彼岸まで  作者: 若松ユウ
新線開通「香澳島その八~the Hong-ou island 8th.~」
33/33

#032「白紙に」

@香澳島中央駅

中狼「零号線に停車してる吉祥天号に乗って、あの七色に変化する艮橋を渡った先にあるのが、目的地の加国」

小華「そこのハロルドさんから、メイプルシロップをいただくのが、今回の使命なんでしょう? ちゃんと聴いてたわよ、中中。――汽車が到着したところみたい」

駅員「長旅、お疲れさまでございました。終点、香澳島中央駅、到着でございます」

――風水を時代遅れの迷信だと馬鹿にした前首長が引責辞任し、代替わりした新首長が前首長の発言を撤回して陳謝したので、ワシは、もう北東の新橋建設の邪魔をしないことにした。そう。鬼門の天変地異による事故は、十中八九ワシが引き起こしたものだったんじゃ。驕り高ぶる為政者に対する諌めと、ちょっとした腹癒せじゃよ。悪く思わんでくれ。

さて。いまや北東方面には、時間帯によって赤く見えたり青く見えたりする新しい真っ白な橋が架けられ、橋の上には、昼に夜に、汽車が往来しておる。せっかく新線が開通して加国に行きやすくなったのだからということで、二人には少し長めの暇を与え、旅行に行かせることにした。長らく船便しかなかったことで、他の国とは一風変わった独自の文化や、街に溢れる異国情緒を満喫してもらうためじゃ。

ただ、好事魔多しという諺もあるからのぉ。蜜月の新婚旅行中には、大なり小なり、トラブルが起こるかもしれん。旅人は、後腐れないこともあって、地元民から頼みを任され易いからのぉ。

トーマス「そこの新婚さん」

中狼「ワッ。トーマスさん」

小華「出歩いて、大丈夫なんですか? まだ日が高いですよ」

トーマス「クフフ。黒目を覆うように、強い光を遮るレンズを装着してるのだよ。吸血鬼が灰になるトリガーは、瞳に強い光線刺激が加わることだと判明したんでね。それさえ防げば、問題無い」

中狼「そう言われてみれば、目の色が焦げ茶っぽいですね」

小華「たしか、ルビーかガーネットみたいに、鮮やかな赤でしたよね」

トーマス「青天白日の下に出られるようになって、何だか気分も晴れ晴れしている。昼間の空気が、こんなに清々しいとは、百五十年以上生きてて、初めて知ったよ。いやぁ、ウィフくんは優秀な研究者だね」

中狼「ウィフさんの発明なんですね」

小華「いま、ウィフさんは?」

トーマス「あれから、ウィフくんを養子に迎えてね。一緒に暮らしてるよ。でも、敷地の離れに研究小屋を建ててからは、ウィフくんは、そこに篭って実験に没頭してばかりだけどね。時々、家令とも熱い議論を交わしている。波長が合うのは結構だけど、主人のことを等閑にしないでほしいところだ」

駅員「車掌が検札した乗車券と手荷物は、めいめいにお持ちください」

エドワード「そこにいるのは、リトルくんとミドルくんかな? そちらの吉国紳士は知らないけど」

中狼「お久しぶりです、エドワードさん」

小華「こんにちは、エドワードさん。こちらのかたは」

トーマス「ダグラス・モンダギュー・ドナルド=トーマス。美国人に紅茶を海に投げ捨てられた、吉国はベゴナの者です」

エドワード「ガブルーン在住のアーサー・エドワード。新聞やカードにまで税金を掛けられた美国の者だ」

中狼「二人とも」

小華「仲良くしてくださいよ」

トーマス「軽いエスプリだよ。エスニックジョークさ。――どんな有難い話でも、猫に小判かもしれないけどね」

エドワード「ウィットやユーモアが理解できないほど、田舎者ではないよ。でも、二人が心配するから、くだらない鞘当てや鍔迫り合いは、この辺でやめておこう」

駅員「まもなく、零号線の列車が発車いたします。ご乗車のお客様は、お急ぎください」

――将来への高まる期待と希望が託されれた、虹色の架け橋。渡った先では、まだまだ冒険が待ち構えておることじゃろうて。二人の旅は始まったばかり。何もかも、これから築き上げなければならぬ。そのうち、子宝だって授かるじゃろう。そうなれば、子育ての喜びと難しさを実感するじゃろうて。ワシや、スカーレットくんが味わったようにのぉ。すべては、順繰り順繰り、巡り巡っていくものじゃ。それでは諸君、また会い見えようぞ。さらばじゃ。

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