#030「吊り橋理論」
@エゼナビ
中狼「揺れる舟は平気なくせに、揺れる橋は駄目なんだな」
小華「揺れる舟は駄目なのに、揺れる橋は平気なのね」
中狼「ホラ。通行の妨げになるから、しっかり立てよ」
小華「待って。まだ、心の準備が。――ヒャッ」
中狼、小華を抱っこ。
中狼「アァア、届ける荷物が増えてしまったな」
小華「降ろしてよ、中中」
中狼「俺が、どれだけ待たされたと思ってるんだよ、小小。もう、我慢できない。ただでさえ、遠回りをしてるんだ。これ以上足止めを食らったら、汽車の出発に間に合わなくなるぞ」
小華「歩くのが早いわ。キャア」
中狼「怖いなら、目を瞑ってシッカリ掴まっとけ、小小。俺は平気だから」
小華「中中。ありがとう。(役に立たないときもあるけど、ここ一番では頼りになるわね。男の子だわ)」
中狼「どういたしまして。(こんなに怯える小小を見るのは、初めてだな。生意気な憎まれ口を叩いてても、やっぱり女の子なんだな)」
*
@法国中央駅
小華「空いてて良かったわね」
中狼「あぁ。これなら、何とか夕飯に間に合いそうだな」
小華「あのね」中狼「あのさ」
中狼「小小から言えよ」
小華「わたしは良いの。中中から、どうぞ」
中狼「そうか。……なぁ、小小。俺から小小に、大事な話があるんだ。帰ったら、時間をくれないか?」
小華「奇遇ね。わたしも、中中に伝えたいことがあるの。帰ったら言うわ」
中狼「そっか。――それじゃあ、ひと休みさせてもらおうかな。弱虫な誰かさんのせいで、肩と腕がパンパンだからな」
小華「もぅ。駅に着いても起こしてあげないわよ? (お疲れさま、中中)」
中狼「そこまで熟睡するかよ。(何で、こういうことを言ってしまうかな、俺って奴は)」
*
@香澳島中央駅
駅員「長旅、お疲れさまでございました。終点、香澳島中央駅、到着でございます」
売り子「月餅ひとつ、いかがっすかぁ」
小華「アッ」
中狼「ビックリした。急に大きな声を出して、どうした?」
小華「ソルティーさんの息子さんが誰か分かったのよ」
中狼「ソルティーさん?」
小華「そっか。中中は寝てたわね。舟乗りのおじさんのことよ」
中狼「ホォ。あのオジサン、子供が居たんだな。それで、誰なんだ?」
小華「あの駅員さんと、向こうの売り子さんよ」
中狼「ウゥン。全然、似てることが無さそうだけど」
小華「見た目じゃないの。構内アナウンスと呼び込みの声に、よく耳を澄ませて」
駅員「車掌が検札した乗車券と手荷物は、めいめいにお持ちください」
売り子「肉饅頭もありますよぉ」
中狼「本当だ。どことなく、あの歌声に似てる」
小華「わたし、ソルティーさんからの言付かってることがあるの。二人に伝えてなくっちゃ」
中狼「待てよ、小小。俺も連れて行け」




