表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼岸まで  作者: 若松ユウ
一両目「傲慢と高慢の国~A country of pride~」
3/33

#002「最悪の滑り出し」

@香澳島中央駅

中狼「一号線に停車してる福禄寿号に乗って、あの真っ赤な東橋を渡った先にあるのが、目的地の吉国。グリフォンが描かれた国章や、獅子、孔雀、蝙蝠が描かれた国旗が目印。そこのベゴナって場所で、トーマスって人を訪ねて、この箱いっぱいに紅茶の茶葉を貰ってくるのが、今回の使命。謙譲を重んじる国柄でって。オイ、聴いてるのか、小小」

小華「耳にタコ、イカ、もう一つオマケにクラーケン。わたしが普段、どこで仕事をしてると思ってるのよ、中中」

中狼「逓信局、観光案内係」

小華「そうよ。それが分かっていて、何でパンフレットの解説を聞かなきゃいけないわけ?」

売り子「豆菓子ひとつ、いかがっすかぁ」

小華「二袋ください」

小華、売り子に小銭を渡し、袋を受け取る。

売り子「毎度ありぃ」

中狼「無駄遣いするなよ、小小」

小華「あら。先は長いのよ、中中。きっと、途中で小腹が空くわ」

駅員「まもなく、一号線の列車が発車いたします。ご乗車のお客様は、お急ぎください」

中狼「口論は後回し。早く乗ろうぜ」

小華「言われなくても、そうするわよ」

  *

@吉国中央駅

中狼「フゥ。狭いコンパートメントから、ようやく解放されたぜ」

小華「広さだけじゃなくて、違う意味でも息が詰まりそうだったわ。一緒になったあのおばあさん。ご挨拶をしても、お天気の話をしても、体調がすぐれない様子だからと思って窓側の席を譲ってあげても、ムスッと顰め面をしたままだったじゃない」

中狼「しかも、挙句の果てに、逆上されてしまった。向こうから、意味の分からない小言を喰らったもんな」

小華「『あなたがたに、何の資格や免許がお有りなの?』『何の権限があって、あたくしに指図するの?』なんて言われて、不愉快極まりなかったわ」

中狼、通行人にぶつかる。

通行人「どこを見て歩いてるのかね?」

中狼「すみません」

小華「お怪我はありませんでしたか?」

通行人、二人を品定めするように見る。

通行人「ハハン。その奇妙な格好に、他人の怪我の心配をするところから察するに、さては香澳島の住民だな? 種族は、人狼と妖狐といったところか。ここに何しに来た? 我々、神聖な吸血鬼の国に、お前たちのような混血児に居場所は無い。とっとと失せろ」

通行人、中狼を杖で滅多打ちにする。

中狼「イテッ、イッテ。痛いっつってるだろうが」

小華「中中に何するのよ」

通行人「黙れ、小童共め。フン。瞬間治癒もできない劣悪種は、ご苦労様だな」

中狼「この野郎」

中狼、通行人に掴みかかろうとするが、杖で返り討ちに遭う。

小華「何とか二人を止めなきゃ」

小華、ポシェットを開け、中を探る。

小華「えぇっと。役に立ちそうなものは、と。そうだわ。これよ」

小華、袋の豆菓子をばらまく。通行人、杖を止め、足下の豆菓子を数える。

通行人「おや、豆菓子か。一つ、二つ、三つ」

中狼「隙あり」

中狼、通行人を捕まえるが、霧になって逃げられる。

通行人「フフッ、残念だったな。さらばだ」

中狼「あ、コラ。逃がすか。待ちやがれ」

小華、追いかけようとする中狼の腕を引いて止める。

小華「落ち着いて、中中」

中狼「えぇい。離せよ、小小」

小華「頭を冷やしなさいよ。わたしたちは、老師の御遣いで来たのよ? 通りすがりに売られた喧嘩を買ってる場合ではないわ」

中狼、抵抗をやめ、大人しくなる。

中狼「あぁ、そうだった。悪い。つい、血が上ってしまったな」

小華「まだ序盤なのに、嫌な思いをしてばっかりね。でも、いつまでも引き摺って、不貞腐れてる場合じゃないわ。さ。気持ちを切り替えて、あの駅員さんに目的地までの行きかたを訊いてみましょう」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ