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彼岸まで  作者: 若松ユウ
五両目「強欲と貪欲の国~A country of avarice~」
21/33

#020「ゲートキーパー」

@ゼフェリン

青年「その心ない強欲な拝金主義者は、僕が開発していたサプリメントに目を付け、商品化を急かした。そして、僕が提供したデータから、自分にとって好都合な実験結果だけサンプリングして省庁に提出し、まんまと政財界のお墨付きを獲得せしめて、国内の至るところで宣伝販売を開始したんだ」

小華「そのサプリメントというのは?」

青年、ポケットから小瓶を出す。

青年「これだよ」

中狼「あぁ。これなら、俺も小小も車内広告で見たぜ」

青年「見た、だけかい? 実際に服用したことは?」

小華「ううん。一度も無いわ」

青年「良かった。それなら、是非、そのままで。――話を続けるよ。初回無料サービスを大々的に展開したこともあって、国内で爆発的に普及していったのだけど、それがいけなかったんだ」

中狼「何が駄目だったんだ?」

青年「そのサプリメントは、一時的に若返るけど、効果が切れたあとに猛烈な反動がくる代物だったんだ。しかも、それに気付いた彼は、定期購入の値段を吊り上げたんだ。虚脱感や絶望感から逃れたくて、高額な手続きに踏み込み、泥沼に沈むという寸法だね」

小華「どこかで止めることは出来なかったの?」

青年「はじめは、長期的に服用することで生じる副作用に気付かなかったんだ。そして、副作用が科学的に確からしいと証明された頃には、プロジェクトを中止できないところまで、僕が与り知らないうちに進んでしまっていたんだ。……いや。これは言い訳だね。止めようと思えば止められたのに、勇気が無くて黙ってたんだ。それに、失敗の責任を被りたくないっていうのもあった。しかも最近になって、サプリメント製造工場から出る排煙と廃液には、自然の浄化作用では元に戻らないほど、深刻な環境汚染を及ぼすことが発覚したんだ。彼は、儲けた金に物を言わせて、隠蔽工作に走って揉み消したけどね」

中狼「悪いことは重なるもんだな」

青年「こんなことに事前に気付かないなんて、研究者失格だ。そう思った僕は、さっきの行動に出たという訳。僕の話は以上だよ」

小華「さっきの言葉を返すようだけど、どうしようもないと思い込んで早まった行動に打って出ることは、それこそ、考えが浅くて短絡的じゃないかしら?」

青年「オヤ。これは一本取られてしまったね。――君たちは真っ直ぐで、強い。それが明るく正しいものかは、のちのちの人たちが決めることだけど、きっと綺麗な未来を掴めるよ。臆病で卑怯な僕が言えたことじゃないけど、僕みたいな失敗をしないようにね」

中狼「失敗じゃない。何度だってやり直せばいいんだ。そうすれば、いずれ成功するさ」

青年「ありがとう。もう罪悪感に苛まれて逃げる真似はしないよ。……そうだね。真っ向から勝負してみようかな。出来る範囲で、だけど」

小華「その調子です。ファイト、えぇ」

青年「フフッ。僕の名前は、ウィフだよ。――儚い制約があるからこそ、世界は美しく尊いものだと感じられるということを記憶しておくといいよ」

中狼「覚えておきます。ナイフをお返ししますね、ウィフさん」

青年、中狼からナイフを受け取り、懐にしまう。

小華「ところで、その拝金主義者の名前は?」

青年「ジェームズ・マードック。エゴイズムに凝り固まったナルシストだよ。この先を少し行ったところに建ってる、成金趣味丸出しの豪邸に住んでる」

小華、中狼と顔を見合わせる。

青年「どうかしたかい?」

中狼「その豪邸まで、案内してもらえますか?」

青年「構わないよ。でも、あまり長居しないことをオススメするね。用も無く周囲をウロウロしてると、不審者だと思われて警備員が飛んでくるからね。――こっちだよ」

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