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彼岸まで  作者: 若松ユウ
給水「香澳島その三~the Hong-ou island 3rd.~」
11/33

#010「歯を食いしばる」

@香澳島中央駅

――久し振りじゃの、諸君。ワシじゃよ。白龍じゃ。真核生物、動物界、脊索動物門、条鰭綱、有鱗目、龍亜人科、龍神属のドラゴンにして、逓信局の局長じゃ。

ことのついでじゃから、他の面々の分類も紹介しておこうかの。え? ツマラナイ講釈は結構だから、さっさと千里眼を披露しろじゃと? まぁ、そう先を急ぐでない。せっかくワシの出番が回ってきたんじゃ。ちいと、年寄りの長話に付き合うてくれ。

リトルくんとミドルくんは、よく似ておる。門まではワシと同じで、哺乳鋼、猫魔目、犬亜人科、と進み、妖狐属と人狼属に分かれる。余談じゃが、エドワード夫妻は門まで同じで、猫亜人科、化猫属に分類されておる。もっとも、二人は夫妻の正体を知らないまま帰って来たようじゃがな。

それから、スカーレットくん。正体を知らんので、彼か彼女か悩ましいところじゃが、普段の姿から、ひとまず彼女としておく。彼女は、諸君らに非常に近しい存在じゃと思う。鋼までリトルくんたちと同じで、霊長目、ヒト科、後天魔人亜科、魔女属に該当する。これも余談になるが、トーマスくんを含め、吉国の住民の多くは、先天魔人亜科、吸血鬼属になる。

まぁ、分けたところで、訳が分からんかもしれんな。分かったつもりには、なるんじゃが。

さて。荷物はあれども姿が無い二人が、スカーレットくんのところで治療を受けておる様子を、自慢の千里眼でもって、ちょいと覗かせてやろうかの。前回同様じゃが、ワシの髪か髭を掴みなさい。痛い痛い。そんなに強く握らんでも、軽く触れるだけで充分じゃ。学習せん奴じゃのぉ。毛根に大ダメージじゃ。そうそう。そうやってソフトに、な。

中狼「腫れは引いたから、平気だって」

小華「そうよ。もう、痛くないもの。だから、これを外して」

小華、右手を挙げ、中狼の左手と繋がれてる手錠を示す。

紅月「その手は桑名の焼き蛤よ。膏薬を塗ってあげるから、二人とも我慢しないで、こっちへいらっしゃい」

中狼「ウッ。この距離でも、ものすんごいニオイがするんだけど」

小華「材料は何なの?」

紅月「鼻が利くわね。材料は、例によって禁則事項だから教えられないけど、あたしの愛情がタップリ詰まってることに、間違いないわ」

中狼「参ったな。愛情が重すぎる」

小華「本当。参っちゃうわ」

紅月「それじゃあ、塗っていくわね。目を瞑って」

中狼「あれ? ちょっとスーっとするくらいで」

小華「拍子抜けね。もっと、こう」

中狼・小華「「アァーッ」」

紅月「うっかりしてた。この薬は、じわじわ効くタイプなの。言い忘れてたわ」

中狼「絶対、ワザとだ」

小華「ズルイ大人が、ここに居たわね」

紅月「懲りたら、怪我しないようにすることね」

――ホホッ。こんなもので良かろうて。小一時間もすれば、ツヤツヤした顔で、ここにやってくるはずじゃ。さて。コーラは冷えたかの。井戸水じゃから、凍り付くこともなく、手頃な冷たさになったじゃろう。はてさて、コーラに合う菓子は、何かあったかの? おぉ、そうじゃ。戸棚に塩煎餅があったはずじゃ。あれを出そう。

それにしても、スカーレットくんにマイルドという概念は無いのかの。ワイルドが売りじゃから、チャイルドにも容赦しないといったところじゃろうか? 近頃、とみに膝が傷むんじゃが、おいそれと相談できんぞ、これは。


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