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彼岸まで  作者: 若松ユウ
二両目「憤怒と激情の国~A country of wrath~」
10/33

#009「猫屋敷」

@エドワード邸

夫人「一晩、アルコールを滲みこませたガーゼで応急処置したけど、何とか腫れは引いたようね」

小華「ごめんなさい。取り乱しました」

中狼「エドワードさんも」

エドワード「私は、すぐに避けたから平気さ。そもそも、カジノ行きと提案したのは、この私だからね」

夫人「そうね。それに、あたしも、ちょっとばかりミドルくんを調子に乗せすぎたわ」

小華「いいえ。勝手に調子付いた中中がいけないんです」

中狼「えぇえぇ、ツキに乗じましたとも。だからって、いきなり平手打ちすることは無いだろう、小小?」

エドワード「まぁ、まぁ。リトルちゃんは、ミドルくんがビギナーズラックに浮かれてるから、負けが嵩んで擦られないうちに目を覚まそうとしたんだ」

夫人「ちょうど良い社会勉強になったんではなくて?」

小華「はい。すごく勉強になりました」

中狼「手痛いオマケが付いてきたけどな」

エドワード「ハッハッハ。賭け事というのは、続けるほど胴元が勝つように細工されているというのが、身を以って理解できたようだね」

夫人「胴元が儲からなきゃ、あんな豪奢な施設は維持できないわ。そうそう。あの建物の中では、ちっとも疲れたり眠くなったりしなかったでしょう?」

小華「言われてみれば」

中狼「結構、長時間いたのに、全然そう感じなかった」

エドワード「それにも、れっきとしたカラクリがあってね」

夫人「建物全体が高濃度エーテルで満たされてるの」

小華「エエッ」

中狼「そんなことしてるのか」

エドワード「大事なことだから、繰り返すよ。いいかい? ズルイ大人にとって、何も知らない旅人は、絶好のピジョットなんだ。上辺の華やかさに騙されないようにしないと、底無しの闇に誘い込まれ、二度と光を見られなくなるんだ」

夫人「甘い言葉を囁く人には、気をつけなさいね」

小華「はい」

中狼「心得ます」

エドワード「よぉし。それでは、駅まで送ろう」

  *

@美国中央駅

小華「お世話になりました」

中狼「ありがとうございます」

エドワード「瓶を割らないように気をつけて。また遊びにいらっしゃい。歓迎するよ」

駅員「発車いたします。窓をお閉めください。お見送りのかたは、列車からお離れください」

  *

@エドワード邸

夫人「無事、見送れたみたいね」

エドワード「あぁ。それにしても、最後まで尻尾を出さなかったな、あの二人」

夫人「フフッ。それは、あたしたちも同じじゃありませんか。猫又さん」

エドワード「そうですね、化け猫さん」


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