逆転生 ~異世界から現代日本へ~
俺の名前は只野秋道。
現在高校一年生だ。
唐突だが、俺は気づいたら転生していた。
何を言っているか分からないと思うが、俺も分かってない。
元の世界はガリア。
そこでは当たり前のように誰でも魔法が使え、勿論俺も魔法が使えた。
魔獣や怪物達を討伐して日々を過ごしていた。
それら魔獣達を倒して素材にしたり食ったりとそれは忙しい毎日だった。
戦い戦い&戦いの日々。
それが気付いたら日本という国に生まれていた。
優秀な弟がいて嫉妬する俺。
兄より優れた弟はいない!
血肉湧き上がる戦いが……なんてことはなかった。
超平和な国、世界に生まれていたのだ。
因みに兄はいないが妹がいる。
いや、本当に人生ってよく分からない。
まあ別にいいや。
あの世界に未練もないし。
この新しい世界。
とにかく学ぶことが多くて楽しい。
知識を得るという事がこんなにも面白いことだったとは知らなかった。
向こうでは知識なんてゴミみたいなものだったしな。
そんなものよりいかに効率よく魔獣を倒すか、とにかく力が全ての世界。
毎日ヒャッハーし放題だった。
今でこそ当たり前に本を読んでいるが、幼稚園の時に読んだこの世界の本は特に衝撃的だった。
その本の名前を『桃ノ太郎』。
数人のお供を連れて鬼ヶ島へと突撃。
狂暴な鬼に挑む桃太郎。
ばったばった薙ぎ払い、お供達も大奮闘。
最後には鬼達が降参して、今まで奪ったお宝を桃ノ太郎が取り返してハッピーエンドというものだ。
イイハナシダナー。
いや、ちょっと待てと。
これおかしくないか?
ガリアでも鬼はいた。名を戦鬼といった。
肥大した筋肉は剣を通さず。
その腕を振り下ろすだけで地割れが起こる。
この本のように実際に狂暴な怪物だった。
たった数匹で国が壊滅するこの化け物。
ましてそれらを束ねる将軍鬼なんていう親玉は国の先鋭集めて多大な犠牲を払って討伐する敵だ。
それはもう狂暴で、数人で挑むだなんて行動は自殺行動だ。
ちょっと子供のころから力が強いってだけで勝てる相手じゃないんだよな。
身の丈が人間の二倍以上って、体格差考えても絶望ものだろう。
それに本当に討伐したいならもっと戦力を引き連れなきゃダメだろう!
こんなの引きちぎられるか、ミンチよりひどいことになるのは目に見えているじゃん!
それにお供が貧弱すぎる。
すぐに興味を持った俺は、動物図鑑という便利なもので早速調べたのだ。
なんだよ雉に犬に猿って。
うん。こりゃ無理だ。
どうあがいても勝てないだろう。
ドラゴンでも連れてきてから話をつけてくれ。その戦力じゃ話にならない。
それに黍団子とかいうドーピングアイテム。
作れる夫婦もスゴイが、傭兵雇って食わせた方がよっぽど現実的だ。
それで生き残った奴らと宝を分ければいいじゃない。
一人で行くんじゃなくて三匹を仲間にしたのは俺的にポイント高いが、仲間が貧弱すぎてそれを加えてもぶっちぎってマイナスだ。
もう少しいいお供がいただろうに。
何より桃ノ太郎を送り出した老夫婦。
もう歳過ぎて面倒を見きれないから送り出したんじゃないか?
いくらなんでもこの老夫婦が金持ってるわけないじゃん。
桃ノ太郎こいつメチャクチャ食ってますやん。
此奴のせいでエンゲル係数爆上げじゃねえか。
よくお食べとか老夫婦は言っていたかもしれないがその裏側では、桃ノ太郎を食わせるのに精いっぱいで自分たちの食べる分がなかったんではないのか。
桃ノ太郎にお爺さんは力で勝てそうもないしな。
断れば暴力で無理やり奪うのだってあったかもしれない。
逆らえない老夫婦の金のやり繰りはさぞかし大変だったろう。
今でこそ日本には年金というものがあるが、昔にはなかったらしいし。
俺が受けた衝撃はこんなものではない。
まだまだ言えるがこんなところか。
まあ、とにかくこの世界は面白い。
学校もなかなかに楽しい。
ガリアにも似たような設備はあったがここまで統制されたものはない。
給食なんか出るわけがない、教科書なんてあるわけないの無い無い尽し。
それにしても無駄に拘束時間が長すぎる。
黒板に書いている内容と教科書の内容が同じって、授業の意味あんのかよ。
勝手に教科書読んでいれば十分じゃねえか。
本当に時間の無駄だよ。
こんな所でダラダラと過ごしていたら碌な人材が育つはずがないだろう。
ガリアでは子供は貴重な労働力だった。
しかし、ここ日本では子供が働けない。
子供が貴重な労働力だった時期もあったが、それはとっくに終わってしまった。
というより平和すぎて働く所がない。
子供が過保護に育てられているのも問題しかない。
一々親が出てくんなよ。
そんなに気になるなら四六時中一緒にいてやれよ、あんた親だろう。
平和ってスゲー!……と思っていた時期が俺にもありました。
これが平和の代償ってやつか。
さて話は変わるが、俺はガリアという世界で戦士として戦っていたからかこの世界ではかなりハイスペックな体で生まれた。
この世界の言葉を借りるならば、『チート』というやつだ。
とにかく頑丈な俺の体は怪我どころか病気一つしない。
幼稚園の時は他の人よりちょっと丈夫程度で考えていたがそれの認識が間違っていた。
小学生の時こっそり挑戦したら、ほぼ全ての世界記録を簡単に塗り替えたときは頭を悩ませた。
両親もよくもまあ、気味悪がることなく育ててくれたよね。
本当に感謝してる。
こんな力を隠さなきゃいけないのは面倒すぎた。
というより、この世界の住民が弱すぎた。
喧嘩なんかできるわけがない。
手加減しても相手を殺してしまう可能性の方が高い。
体育という授業では特に苦痛でしかなく、手加減の手加減でもまだ足りない。
この無駄に高スペックの体のおかげで俺が出た大会の個人戦は全て優勝。
無駄に連勝を重ね、いつの間にか天才と呼ばれるようになっていた。
元の世界では脳筋と呼ばれる部類に属していたこの俺がだ。
天才じゃなくてこのチートのおかげなんだよな。
いつの間にやら賞状やトロフィーなんか飾るところがなくなってしまった。
そのためそれ用の部屋を立てようという話も出た。
勿論止めた。
そんな無駄な物飾るより夕食をより豪華にしてくれって頼んだよ。
まあ、簡単に言うと注目を集めすぎた。
大会に出れば必ず優勝。
だってこの世界の人間と体の作りが違う。
勝手に期待されるし嫉妬される。
最初のうちは良かった。
両親は褒めてくれるし、妹も喜んでくれた。
兄ならば妹に一つや二つカッコイイ所を見せなければと思っていたからな。
その妹が応援してくれるから俺は頑張れた。
その妹が褒めてくれるから俺はまだ頑張れた。
だが次第に飽きた。
絶対に勝つと分かってて飽きない方がおかしい。
勝率百パー。
俺についたあだ名は絶対勝利。そのまんまだ。
東方不敗みたいな感じだ。
よく勝負の駆け引きとかいうが、したことないよそんなの。
ごり押しが普通に通用するし、大抵は相手が勝手に絶望していくだけなんだから。
上手く隠しているやつもいるが目が違うし大抵は雰囲気で察することができた。
俺にどうしろちゅうねん。
もっと勝てるように努力しろよ!
ふっ……超えて来いよ! その限界とやらを!
もっともっと熱くなれよ!
ライバルだと抜かしてたやつはどんどん止めていくし張り合いがない。
本当にわがままな連中だ。
唯一のライバルだった奴も俺が辞めちまったからその後どうなっているか分からない。
強すぎるのも問題だった。
だからこの世界は住みにくい。
住みにくいが、先人達の知識はやはり面白い。
なんで魔法がないこの世界で、これほど魔法の記述があるのか謎でしかない。
俺と同じように誰か転生者がいたと考えもしたが、それでも多岐に渡る魔法は謎だ。
ガリアの魔法も似たようなものがあったし、最初にこの世界で魔法を考えた人はきっと本当の天才だったに違いない。
この世界の人間は魔法なんか使えないし使える人間を見たことない。
魔法の代わりに超能力なんかがあるらしいが、いつか見てみたいものだ。
スプーン曲げならできるぞ、力技で。
まず学んだことはこの世界の人間は想像豊かすぎるということ。
本もゲームも漫画も、自分達の住む世界とは違う架空の世界を作り出す。
よくもまあ、この世界にないものを想像だけで引き出せるなと思う。
どこからその考えが生まれるのか、俺にぜひ説いてほしい。
なんだかんだ言って俺はこの世界が好きなんだ。
「なあ、秋道君」
「どした太郎?」
「全国模試で一位だったらしいね!
今度また勉強教えてよ!!」
それにテスト。
よくもまあ、こんな紙切れ一枚で人を測ることができるなあと俺は感じている。
今まで覚えていた知識を披露する場と言ってしまえばそれまでだが、どこで使うんだか。
この世界の知識が面白くていつの間にかかなり吸収しており、その紙切れで俺は全国一位だったらしい。
役に立つものだったり立たないものだったりとにかく膨大な知識を溜めている。
まあ、世の中何が起こるか分からないからね。
とにかく飽きが来るはずない。
特に過去の偉人の本。
戦略やら奥義書とかいうものまである。
後かなりどうでもいいが、あのテストの拘束時間長すぎて萎えるんだが。
「ああ、いいよ。
今度ね今度」
この春夏秋冬学園に入って俺は学校生活を多分満喫していた。
そこで俺は運命と遭遇した。
彼の名は田中太郎。
なんて親しみやすい名前なんだ!
いいよ田中! いいよ太郎!
こうどこか『絶対普遍』にも見える彼は何故か俺の中での友達株が爆上げ中だ。
そして、この学園に入ったのはたまたま家が近いから。
徒歩10分。
楽勝だね。
テスト?
なんか向こうが来てくれって頭下げてた。
それになんか評判がよかったらしい。
両親も先生も喜んでいたし、良しとしよう。
「おはよう田中君、秋道君」
「あっ、月下院さんおはよう」
「おう、おはよう」
挨拶してきた彼女は月下院咲耶。
先週だったかに俺と太郎でケバブを食いに行こうとしていたところ、ナンパされていた。
嫌がる彼女をそのナンパ男から助けたため知り合いになった。
というか、その時クラスメートだったという事を太郎に教えてもらう。
よく助けたなって?
俺もそう思う。
ガリアではナンパ男とナンパされる女がグルで助けようとしたら身ぐるみ剥がされることが多い。
よく考えると本当に物騒な世界だったな。
けど、この世界はそんなことはほとんどない。
その上(勝手に)親友(と思っている)の太郎も言ってたから助けた。
その後なんでもなかったかのように太郎とケバブ食べましたけど何か?
で、なんかよく分からないけど向こうから寄ってきた。
OK、OK。
俺は誰でもウェルカムですよ。
来るもの拒まず、去る者追わず。
俺の中じゃ、ケバブ食いに行こうとしてた時に出会ったからケバブ女と密かに心の中で呼んでいる。
「すごいね、秋道君!
全国模試一位だったんだ」
「……ん? なんで分かるんだ?
月下院に俺言ってないよな」
俺は太郎に目を配る。
太郎はまたかよって目を俺に返す。
「だって玄関前の掲示板にこうデーンって貼ってあったよ
みんな秋道君の噂してるよ」
「あーそうなんか」
「あんまり自分の順位とかに興味ないんだね秋道君って」
クスっと月下院が小さく笑う。
謎は解けた。
真実はいつも一つってか?
どうでもいいから気付かなかったわ。
てか、勝手に人の成績公開しないでくれよ。
プライバシーの侵害だ。
後で先生に凸っておきますね。
なんやかんや話してたらいつの間に担任の先生が来てSHRがあって一時間目の授業が始まった。
そして四限。体育で柔道だった。
「おら田中!
ささっと勝て!
勝たんと次の奴が何時までもやれんぞ!」
体育教師が踏ん反りかえっていた。
勝ち抜き戦だとよ。
負けた人が勝つまで続くってやつ。
対象は俺の(勝手に)親友(と思っている)太郎君だ。
すでに息切れの太郎は誰だってもう限界が近いことは分かる。
それでも止めるものはいない。
相手が絶対だから。
こういうのを見ると職権乱用だよなって思う。
見かねた俺は次のやつに替わってもらう。
さて、一芝居打ちますかね。
「太郎。俺を倒してみろ!」
「あ、秋道君……」
すでに太郎は限界だ。
すぐに、組み付いて太郎に当たりに行く。
そこで太郎に呟く。
「いいか、三数えたら何でもいいから投げろ」
「えっ……?」
俺の目論見通りに、太郎は俺を投げ、それを俺があたかも太郎に投げ飛ばされたように偽装する。
「やればできるじゃんか太郎!」
「あ、ありがとう秋道君」
いいってことよ。
「先生!」
「なんだ只野」
「先生はそこで見ているだけなんですか~?
生徒の相手してくれないんですか~?」
そしてこの調子に乗っている教師に挑発する。
どうせ、生徒をいたぶることしか考えていない無能教師だ。
「分かった。今相手してやろう只野」
体育教師がニタリと笑ったのが見えた。
簡単に俺の言葉に乗る。
どうせ俺もいたぶろうって魂胆だろう。
そうはさせない。
さんざん太郎を虐めてくれてこっちは腸煮えくり返ってるんだよ!
「よし! こい只野。
先手は譲ってやる」
「ありがとうございます」
かかったな、アホが!
何が先手を譲ってやるだこの野郎。
調子に乗るなよ。
俺はお返しにすぐに組み付いて投げる。
勿論大の大人でも俺の力に勝てないので、この教師も例外に当てはまることなく。
バシンっと畳を叩く。
「先生~しっかりしてくださいよ」
「あ、ああ。悪い、足が滑った。
もう一本やろう」
「はい」
何が足が滑った、だ。
滑ってねえだろうがこのカス教師。
誰が見てもきれいに一本決まってるだろうが。
もう手加減しねえぞ。
悔い改めるがいい。
「うおおおおッツ!!」
すぐに教師が俺に組み付いてくる。
見えるッ! 鈍いぞ、体育教師!
バシンっと畳に叩いて終了。
「さて。まだまだ時間はたっぷりありますからね。
せ ん せ い」
どうだい、ブルっちまうだろう…?
ふふ…怖いか?
バシン、バシン、バシンっと体育教師が畳を叩く。
「も、もういい……
止めるんだ只野!!」
「先生。
これは先生が勝つまで続くんですよ。
そうしたのは先生じゃないですか。
俺たちはその言葉を守ったのに先生が守らないのは可笑しいですよね。
ほら、まだ時間が残ってますよ!」
何が起こっているか理解して絶望する体育教師。
俺は逃げようとした体育教師を何度も畳に叩く。
「結局一度も俺に勝てませんでしたね せ ん せ い。
止めたらどうですこの仕事。
向いてないですよどう見ても、ほら」
そう呟いた俺は教師に止めを刺すように畳に叩きつける。
体育教師は畳の上で大の字に伸びる。
疲れ切った教師は、俺の顔を見て顔を歪める。
本来指導するものが、指導されてはいけないのだ。
それがましてや、体育教師ならば尚更だった。
「さっ、もう時間になりますし止めましょうか先生。
おーいさっさと整列しようぜ!
どうやら先生はお疲れのようだ」
人というのは、成功や勝利よりも失敗から学ぶ事が多いんですよ先生。
こうして無事に体育の時間を終了する。
「あっ先生。
次の体育の時間も楽しみにしてますよ 柔 道」
無理矢理はいい事がない。
自分からさー、変わらなきゃ……そー思うわけ。
他人から認められたいなら、自分を変える。
そうだろ先生?
なーんてな。
俺はその言葉を聞いた体育教師の顔をしばらく忘れないだろう。
「おいスゲーな只野!」
「ああ! 俺もスカッとしたぜ!」
「田中悪いな……あの先生怖くてな」
「ああ、ホントすまん」
太郎に謝ってくる生徒はかなりいた。
流石に、太郎が辛いということは分かっていたか。
まあ普通は教師に逆らえんだろうな。
「あ、ああ。うん。
分かってたけど、秋道君が解決しちゃったから」
「そうだよ秋道!
お前そんなに強かったのかよ! びっくりしたぜ!」
「ああ、まるで鬼みたい何度もアイツを叩きつけて見てるこっちが気の毒に思っちまったよ!」
「秋道君ありがとう」
「おうよ!」
まあ無事太郎も助けたしいいんじゃない。
その後あの体育教師は辞職した。
メンタル豆腐かよ。
ちょっと揺さぶっただけで崩れちまったってか。
焼き豆腐になって出直して来いよ。
本当に体育教師に向いてなかったんじゃねえの?
で、昼休み。
「おう太郎。飯食いに学食行こうや!」
四限が体育だったし、腹が減って仕方ねえよ。
人間だもの。
「うん。いいよ」
「秋道君。私も行っていい?」
「勿論」
てか、なんで俺に許可取る必要があるんですかね。
着いて来たきゃ勝手に来ればいいじゃん。
断るわけないじゃん。
月下院の友達も来る?
来ない。そうですか。
「今日は麻婆カレーにするわ。
太郎は何頼む?」
食券機から出た食券を取り出してオバちゃんに渡す。
「うーん。
僕は天ぷらうどんとライスのセット頼むよ」
「私は今日のおすすめ定食にするよ」
「そーか。
じゃあ俺のが先に来たから席とって待ってるわ」
「うん分かった」
「よろしくね秋道君」
俺は適当に空いてる席を確保する。
麻婆カレーのいい匂いが食欲を刺激する。
ガリアの食生活はこの世界と比べるとそれはそれは酷いものでして。
食べることがこんなにも楽しいなんて初めての経験だったよ。
赤ちゃんの時の離乳食なんかスゴイ出来だった。
涙出て、両親に心配されたっけか……いい思い出だ。
調味料も豊富なおかげいろんな食品が溢れすぎてるんだこの世界。
しかもここ日本はいろんな国の料理が食べられる。
考えられるか?
わざわざその国に行かなくても食材があって食べれるって?
その国の人間でなくとも同じ料理が作れるって?
単純にスゴイと感じる。
まだ来ねえのかよ。
早く食いてーな、おい。
「秋道!」
「……ん?」
振り返るとB定食セットを持った剣道部の部長がいた。
「掬納先輩」
「ご一緒していいだろうか?」
「どうぞどうぞ。
いっぱい席は空いてますんで」
彼女の名前は掬納春姫。
三年の先輩だ。
まあ、一年二年の僅かな差で上下関係が決まるなんておかしいけどな。
年齢差なんて誤差だよ誤差!
有能な奴はとっとと先に行っちまうし、無能はやはり無能だ。
掬納先輩の特徴は、長い黒髪をポニーテールにしてることと剣道部の部長という所だろうか。
「そ、そうか!
それじゃあ、隣失礼する!」
嬉しそうに俺の隣に座る。
掬納先輩の友達も一緒にどうです?
俺は誰でもウェルカムですよ。
来ない。そうですか。
先輩そのB定食セット美味しそうっすね。
掬納先輩と知り合いになったのは最近のことだ。
なんでか知らないがこれも先週ぐらいに掬納先輩がクラスに来て、俺を剣道部まで引っ張っていった。
よく分からないうちに勝負を仕掛けられて、なんか知らないうちに勝っていた。
剣道部に誘致されたという認識であっているだろうか。
要は何が起こっていたのか分からないという事だ。
終わったことは気にしない。
それ以来よく学食とかで一緒になることが多い。
なんだかんだで一緒にいることが多いし、後輩の面倒見がいい先輩だと感じている。
因みにこのポニーテールから尻尾先輩と心の中で呼ばせてもらっている。
「あっ……。
掬納先輩こんにちは!」
「ああ……。
月下院も元気そうで何よりだ!」
そしてなんか始まった。
どうでもいいけど、麻婆カレーうめえぇ!!
最初こそカレーに麻婆豆腐合わせるとか正気の沙汰じゃないと思っていたんだ。
カレーにはカレーのスパイスが麻婆豆腐には麻婆豆腐の決まったスパイスがある。
完全な黄金比があった。
カレーはカレー、麻婆豆腐は麻婆豆腐でそれぞれ単品で食べた方が美味しいに決まっている思っていた。
考えた奴は馬鹿じゃないのかと考えていた。
だが、その固定観念が悪かった。
美味いものに美味いもの足せばもっと美味くなる理論を俺は知らなかった。
その一口は簡単に俺の世界を変えやがった。
これが何故だか合う!
舌で弾けるこの美味さ!
偶然の合致!
調和&調和!
味の超融合!
いや、奇跡そのもの!
美味いッツ! 一切の説明なしッツ!
考えた人はやはり天才じゃったか。
おそらく最初は奇怪な人だと思われただろう。
それでも、それでもよくこの奇跡を生み出してくれた!
これら天才が新たな道を切り開いていくのだ!
感謝ッツ! 圧倒的感謝ッツ!
「太郎も早く座れよ」
「ああ、うん」
せっかくのうどんが伸びちまうだろうが。
伸びたうどんも悪くないが、やはり伸びる前のうどんの方が美味いに決まってる。
ちゃんと七味かけとけよ、うどんが数倍美味しくなるから。
「あっーー!!
秋道君みーつけた!」
なんかまた来た。
「芸能科の月ちゃんだよね秋道?」
「そうなんじゃね?」
「ひどいよもう秋道君。
久しぶりにあったのに私に挨拶もなしかい?」
「久しぶりっていても一週間ぐらい前に一度偶然会っただけですが」
「そういう所、女の子にモテないよ~」
彼女は八姫乃桜歌。
芸名はたしか八重桜月だったか。
なんか名前入り混じってるなって感じた。
一週間ぐらい前に、なんか変装してるんだかしてないんだかよく分からない八姫乃がこれまたナンパ男に絡まれてたのを助けていた。
あれだ、芸能人オーラというやつでも出てたんじゃないのか?
そいで、助けたらなんとまた同じ学園の人だったというわけだ。
つけたあだ名はおっぱいちゃん。
でかい! 説明不要ッツ!ってね。
なんだ? この学園の女子はナンパされるのが一般的なのか?
それよりも俺の周りにはナンパ男に絡まれる女しか寄ってこないのか?
「それじゃあ、私もここでいいかな秋道君?」
「はあ~今度は芸能科の八姫乃か秋道」
「ど、どういう事なんですか秋道君!?」
「お前ら少しは落ち着けよ。
飯ってのは落ち着いて、邪魔されず食べるもんだ」
まあ、賑やかでいい。
新しく転生したこの世界。
戸惑うことも多いがまあ楽しくやってます。
ヒロインの名前の由来分かりますか?
分かった人にはジュースを奢ってやろう。