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妹たちと冒険

 また懲りずに転生系を書いている。それで、洞窟に乗り込む前にキャラを三人出そうと思うのだけど、まったく思いつかない。元々、俺の想像力が乏しいのは分かっている。

 

 数分悩んだ挙句、妹たちをモデルにすることにした。

 名前も同じにして、

「こんなところに使われてるなんて知ったら、どう思うかな――ッ」

 睡魔が俺を襲う。

 また、かよ。


「はッ!」

 ここは何処だ?

 爽やかな風が吹き抜ける。

 緑色の木々が静かに揺れた。

「は?」

 そうか。ここは洞窟の前か。

「え? ここ何処? お兄ちゃん?」

「は? 兄貴?」

「お兄?」

 後方を振り向くと、俺の妹たちが居た。


「なんでお前らが居るんだよ!」

「その前にここ何処か説明しなさいよ!」

 由美が腕を組んで、突っかかってきた。

 なんと説明すればいいやら。流石に自分の小説の中なんて恥ずかしいこと言えない。

「俺たちは戦争に行くんだよ」

「そんなどっかの漫画みたいな説明で納得するわけないでしょ?」

 ですよね。

「お兄。ここ何処なの?」

 若葉がしがみついて来た。

「いや、説明は難しいんだけど」

「説明が難しいってどういう意味?」

 今度は琴音が問うてきた。

「そのままの意味だよ」

 というか、説明したくない。

「なによそれ」

 由美が呆れた顔で俺を見る。

「兎に角、俺たちは洞窟の中の怪物を倒すまでは、元の世界に戻れないってことだよ」

 まず、洞窟の中に怪物が居るかどうか、すら分からないのだけど――少なくとも、俺はそういう展開にしようと思っていた。

「そんなん信じられると思う?」

「お前ら、自分の背中見ろよ」

 俺がそう言うと、皆、背に手を回す。

 若葉には剣。琴音には杖。由美には槍――因みに、俺は大剣である。

「これだけで十分だろ」

 

 妹たちは納得できていない様子で、俺が曖昧に言って、濁すからなんだろうけど。

「お兄ちゃん疲れたぁ」

「もうちょっと頑張ってくれよ」

 琴音の弱音を聴くのはこれで丁度、十回目である。

「だってこの杖、邪魔なんだもん」

「ふふ、戦闘の時、そんなことが言えるかな」

「え? 私たち戦うの?」

 琴音が驚いたような顔をした。

「武器は何のためにあると思う? 敵と戦うためだよ」

「なんで私たちが武器を持っていると思う? 分からないんだよ」

 後方から由美の嫌味ったらしい声が聞こえてきた。それと同時に、怪物の咆哮が聞こえた。


 半球型の空洞が広がっていた。しかし、ここで行き止まりらしい。

「ここで行き止まりっぽいけど」

 由美が訝しげな顔で、空洞を見渡す。

「さっきの大きな声は何処からしたの?」

 震えながら、琴音が尋ねてきた。

 瞬間、地が振動しかたと思うと、目の前の土の壁が弾けて――。

「ヴォォォォォォォ」

 巨大な怪物が出てきた。

 胴体は見当たらない。大きな顔が縦長に広がっているだけである。そしてその横からは無数の手が伸びている。

「何あれ、キモ」

 由美が顔を顰めた。

「いいか? これは夢のようなものだ。あいつと戦わなければここから出られない」

「そんな漫画みたいな――」

「ブォォォォォォン」

 刹那、高速で伸びた手が若葉を浚う。

「若葉ァ!」

「お兄! お兄!」

「兄貴」

「なんだ?」

「これ、本当に夢なんでしょうね」

「みたいなものだ。ほぼ一緒と考えてもいい」

「詳しいことは後できっちり訊くからね」

 何だか最初に来た俺のようなものを感じた。

「ああ」

 由美は背中に手を伸ばして、槍を手に持った。

「あああああああああ!」

 そして無造作に怪物に突っ込んで行く。

「いやあああ!」

 琴音の叫ぶ声。

「どうした?」

 琴音の怯えた目の先――指だ。人間の。人差し――。

「あああああああああああああああああああああ!」

 若葉の叫び声が聞こえた。

 まさか。

 まさか――。

「てめええええええええ!」

 俺は地面を蹴る。

 地面と体が乖離した。目の隅に止まる地面に倒れる由美の姿。

 俺のせいか? 俺が巻き込んだから。俺が妹をモデルにしたから。

 俺の――。

 数本の手が俺に襲い掛かる。大剣で薙ぎ払うと、容易に斬れて、四方に吹っ飛ぶ。

 もう少し若葉の居る所まで。

「若葉ぁあああああああぁぁっ!」

 ごめん。本当に――。

 大剣で若葉を持つ手を斬った。手は若葉を掴んだまま、地面へと落ちた。しかし、俺に襲い掛かる手はそれだけで終わりではない。下にも前にも居るのである。

「おりゃあぁ!」

 半円を描くように、大剣を振る。その界隈の手がいとも簡単に飛ぶ。しかし、手は途切れることはなかった。

 やばい。 

 俺は、怪物を蹴って、一先ず脱した。そこは丁度、若葉が落ちた場所だった。

「若葉!」

「お――(にい)

 弱弱しい声で若葉が言う。

「若葉! 若葉ぁ!」

 若葉を掴む指を無理矢理、引き剝がして、指を確認する。

 右手の人差し指が掛けている。真っ赤な肉が露になっている。

 血が。

「ああああああああ」

 俺は叫んでいた。涙が溢れた。曇る目の中。

 見えたのである。向こうに。

 琴音が杖を持って、怪物の前に立っている。

 震えて。 

 口が動いていて、何かぶつぶつ言っている。この位置では何も聞こえない。

「琴音ェ! 琴音ぇ!」

 情けない。自分が情けない。妹を巻き込んで。 

 動けない。動けない。足が言うことを――。

「やめろぉ!」

「お兄ちゃんの――!」

 そんな言葉が聞こえたかと思うと、怪物の手が琴音の首に迫って。

「あ」

 短い声が聞こえた。本当に短くて。短い。短い。

 短い。綺麗な首が

 琴音の首から上が無かった。

 ブチュ――厭な音が俺の耳に静かに響いた。

「ああっ」

 叫びたいけど。俺の喉は既に枯れている。

 胃液がこみ上げる――だって人の首が。妹の首が。

「おっ! あげっ! おえっ!」

 吐くことすらできない。

 倒さなければ。これは夢なんだ。小説だ。

 俺の書いた――。妹たちはそれで。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 俺は大剣を怪物の顔に向けて。

 思い切り。

 おもいきり。

 ふった。


「はっ」

 無機質に浮かび上がる『投稿しました』の文字。

 そんなことはどうでもいい。俺は急いで、下へ降りた。

 若葉! 琴音! 由美!

 居間に入る。

「お兄!」

 入ったと同時に若葉が飛びついてきた。

「怖い夢見たぁ。怖かった。怖かったぁ」

「え? 私――どうなった?」

 琴音は自分の頭部を触っていた。

「兄貴? あれ? さっきのは夢?」

 由美は不思議そうにきょろきょろと辺りを見渡した。

「ああっ」

 涙が溢れそうになる。

 俺は若葉を抱きしめた。

「怖かったろう。怖かったろう」

 やめよう。あんなことは――。

 いや、もうサイト自体をやめよう。妹を巻き込んでしまった罪は重い。

 退会だ。退会しよう。 

 もう。こんな思いはしたくない。

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