怖い話Ⅱ
黒々とした空は恐怖を引き立てる。普段は碧に染まっている木々も夜になると、忽ち、色を変えて、人を恐怖に陥れる。目の前に聳え立つのはボロい家だった。
まさかな。
「そんなことないよな」
冷たい風が吹いて、木々が不気味に揺れた。
蝉の泣く声が虚しく響いている。
遠く。遠く。とおくに。
あの一連の流れをまたやれと言うことだろうか。
それとも。
幽霊と戦えと言うことだろか。
どちらも厭だ。
前者はかなり厭だが、後者はもっと厭だ。
幽霊というのは既に死んだ者だろう。ならば、倒すもクソもない。
もう倒れているのだ。つまり、物語はここで終了だ。
しかし、現実――と呼んでいいものなのか、兎に角――それほど、甘いわけがない。
俺は渋々、廃家の戸に手を掛けた。
「はぁ」
ガララ、と音がして扉がすんなり開いた。
「はぁ」
そうだ。非道になろう。
居間を開ける。お茶が置いてある。
茶碗を地面に叩きつけて、割った。
机を挟んで向こう側にまた襖がある。
また同じ部屋が広がってるのだろう?
何十回も入ったお化け屋敷なんて怖くないんだぜ?
俺はずかずかと入って、後方から追いかけてくる幽霊を挑発しながら逃げた。
そして、躓く。
はい。終了。前は壁、後ろは襖。
そして襖を開けると、先程の廊下。
今度は見逃さないように、台所に入る。
はいはい。扉が壁に、出られない。
「うわー。怖い」
棒読みに言って、俺は風呂場に入った。
女性服が脱ぎ捨ててある。
はいはい。
浴槽に面する壁の側面には髪の毛が掛けてあって、濡れてるんでしょ?
不気味。不気味。
風呂から出ると、卓上の上にはご飯が並べられている。
「不味そう。ぺっ」
唾を吐き掛ける。
よっしゃ! 終わった!
なんか適当にやったら、恐怖感も薄れた。
「あれ? 終わらないぞ」
なんでだ?
扉があった。風呂場のちょっと間開けたところに。
あれ? さっきまで壁だったじゃないか。
まさか。
俺は恐る恐るドアノブに手を掛ける。
開いた!
先程と同じ、廊下が広がっている。
目の前には階段があった。
嘘でしょ?
ギシギシ――階段を上る度に厭な音を立てる。それは、俺が来たことを知らせるトラップのようだった。
暗い階段を上り終えて、俺は見渡す。
部屋が広がっている。
だった広い部屋。奥の方が暗い。柱が数本、所々に立っている。
階段を上がったすぐそこに部屋があるといのはおかしくないか?
不気味な雰囲気が漂っている。
母、姉、父ときて今度は何だ。ペットのジョンか?
足が震える。
そりゃ、新境地で、この暗闇の向こうどころか、手前にも未知が転がっている可能性があるからである。
調子に乗ってすみませんでした――と土下座しようと思ってしまった。しかし、それをしたろころで物語が終わらないことは分かっている。
ああ。怖いなぁ。
むぎゅ――何か踏んづけた。
恐る恐る、足元を見る。
「ぎゃあああああああああああああ」
思わず叫んでしまった、爪と歯が転がっていた。
ああ。もうこれで、終わりだろ。
十分、素晴らしい反応したはずだ。
カタカタカタカタカタ。
何処からとも無く、そんな音が聞こえた。
「あああああ」
こけしだ。
こけしが不気味な顔をしている。
刹那、目の前が真っ暗になった。