現代版桃太郎の鬼退治
フィクションです。
久しぶりに桃太郎を読みましたので、書いて見ました。
1
むかしむかしはない平成日本。あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは、山へ仕事に。
おばあさんは、家の洗濯機が壊れたので、コインランドリーに洗濯をしに行きました。
おばあさんがコインランドリー「桃」に入ります。
(ここ20年きたことないからね~不安だよ)
内心はおばあさんはちょっと不安でした。
ランドリー内に入ると、
「うぎゃうぎゃ」
どこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。
音の方向を見ると、桃のシールが貼ってある洗濯機。
その中を覗くと、なんと赤ん坊がいたのでした。
(まぁ、なんてこと)
おばあさんは驚き、赤ん坊を取り出します。
とりあえず子供をあやします。
すると泣きやみました。
ですが困ったおばあさん。
待っていても誰も来ません。
誰かがついうっかり赤ん坊を置き忘れてしまったのかと思ったのですが、そうではないようです。
おばあさんは家で赤ん坊を育てながら様子を見ることにしました。
◇
「ばあさんや、その子は?」
おじいさんが山から帰ってくると、おばあさんに尋ねます。
「それがね・・・」
おばあさんは拾った経緯を話します。
――説明中――
「そうかい、でもばあさん、どうするんじゃ?」
「なにって、親が見つかるまで育てるつもりですよ。ちょうど手も空いていますし」
「そうじゃな、これで家の中も少しは明るくなるじゃろう」
「で、名前はなんというんじゃ?」
「そうですね~コインランドリーの名前が「桃」だったので、桃太郎でどうでしょうかね?」
「そうじゃな、いいんじゃないかのう」
そんなこんなで、桃太郎はおばあさんとおじいさんに育てられることになりました。
2
年月は経過し、桃太郎はすくすくと育ち、やがて強い男の子になりました。
そしてある日、桃太郎が言いました。「ぼく、都庁へ行って、わるい知事を退治してきます」
おばあさんにきび団子を作ってもらい、おじいさんから若い頃に乗っていたバイクを貰いました。
又、旅衣装という事で、甲冑を着こみ、家宝の日本刀を腰に身に着けました。
「これならどこ行っても大丈夫よね」
「そうじゃそうじゃ」
おばあさんもおじいさんも、とても満足そうでした。
桃太郎は、バイクに「●(←日の丸)日本一 桃太郎」という旗をつけ、都庁へ出かけました。
その後ろ姿を見かけ、ふとおばあさんはおじいさんを見ます。
「じいさんや、桃太郎って免許もっていましたっけ?」
「んなもん必要ないじゃろ。なんたって桃太郎じゃ。そんなものなくて立派じゃっよ」
「そうでしたね・・・ほほほ」
旅の途中で、桃太郎はイヌに出会いました。
違いました、正確にはいぬっぽい顔の人でした。
イヌは、どこか様子がおかしく、桃太郎を見て、ブルブルと震えていました。
この時、イヌは並々ならぬ衝撃を受けていました。
平成日本で、戦後のバイク、「ホンダ・ジュノオ」に乗った身の丈2m、体重130kgはあろうかという巨体の男。バイクの後ろにつけた意味深な旗。
そして、そんな男が戦国武将の様に甲冑を身に着け、腰には日本刀まで。
地元の暴走族を率いているイヌですが、格の違いに膝をガクガクと震わせていました。そんな彼は今、桃太郎に見つめられています。
この沈黙は耐えられません。
勇気を出して口を動かします。
「桃太郎さん?どこへ行くのですか?」「都庁へ、知事退治に行くんだ」
イヌは震えました。この桃太郎という御仁。
単身で日本の大都会、東京都の中心につっこむというのです。
その言葉には、一抹の不安も感じさせませんでした。
まるで、知事退治をできると信じているようです。
イヌは思いました。この人は本物だ。何としてもついていきたい。
イヌは必死に頭をめぐらせます。
そして、ふと、桃太郎さんの腰についているきび団子に目が行きます。
桃太郎という名前、そしてきび団子、もしや!
イヌは閃きました。
そして桃太郎さんに提案します。
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
桃太郎は快くその提案を受け入れます。イヌはきび団子をもらい、桃太郎のおともになりました。
「桃太郎さん、自分の仲間も読んでいいですか?数は多い方がいいと思いますぜ」
「うん、いいよ」
イヌは携帯で暴走族のメンバーに召集をかけます。
集まったのは70人。
これでもイヌは、人望熱い男だったのです。
「では、桃太郎さん、行きましょうぜ」
「そうだね」
桃太郎軍団、総勢72名のバイク軍団は、八王子から青梅街道を通って都庁新宿を目指します。
3
爆音を響かせながら、道一杯に広がり、ノロノロと進むバイク軍団。
原因は桃太郎でした。
「ホンダ・ジュノオ」という古いタイプのバイクに乗っているためか、中々スピードがでません。そのスピードに全員が合わせるため、後ろは大渋滞です。
ですが、誰も桃太郎を止めることはできません。
直ぐにパトカーが一台かけつけましたが、その数と桃太郎の異様ないでたちを見、すぐに引き返しました。あまりに慌てていたのか、なんどもガードレールにぶつかっていました。街道には、徐々に人が集まりだしていました。
そんな様子を見ても、桃太郎はとくに普段の様子とかわりません。
「桃太郎さん、桃太郎さん、すごいことになってますぜ」
「そうなのかい?ただバイクにのっているだけだけど」
「まぁ、桃太郎さんほどの傑物になれば、これが日常ですが、俺ら一般人には異常な光景ですよ」
「そうなんだ」
そんな軍団が日野市と国立市の間の多摩川に差し掛かった時、桃太郎の目に一人の男の姿が目に入ります。川で水浴びをしている青年。
何故か、桃太郎は彼に惹かれました。
「ちょっと行ってくる」
「え、桃太郎さん?」
そういうと、桃太郎はバイクから降り、川辺に移動します。
「お前ら止まれ、総長の命令だ」
イヌはすぐに号令をだし、バイク軍団は止まります。
桃太郎は川辺におり、全裸で水浴びしている青年に近づきます。
桃太郎同様に巨漢のその男。
身長は2m程、だが痩せており、体重は80kg程か。
しかし、その体は鍛えられており、しなやかな筋肉が見て取れます。
桃太郎が筋肉の鎧をまとったローマの剣闘士としたら、彼は中国の仙人でした。
「僕は桃太郎、君は?」
全裸の男は桃太郎を見ます。
濡れた長髪を垂らしながら、タオルで体を拭いている男。
「私の名前はサルー」
「そうなんだ。サルー、僕と一緒に知事退治にいかないか?」
「どうでしょう?私、こうみえても忙しい身なのですよ。料理の道を追及していまして。もし、私の舌をうならせる料理をもってこれたなら、考えてもよいでしょう」
桃太郎はきび団子を差し出します。
男はそれを受け取り、口に運びます。
きび団子を食べるサルー。
ぐはぁっと、目を開く男。
「この歯ごたえ、この味、この風味。これまで私が食べてきたどんな料理よりも美味しい。なんたること。なんたること。なんたる美味しさ」
男はバシャンと水の中に倒れ、川に浮かびます。
そして、空を見ながら呟きます。
「いいでしょう、ついていきます。でも、それの作り方、教えてくださいね」
「分かった。終わったらおばあちゃんに頼んでみる」
そうして、サルーが仲間になりました。
サルーは川からあがり、服を着ます。
料理人が着る白い服、コックコート姿です。
胸にはフランス国旗。
「桃太郎、仲間も呼んでいいかい。一緒に食の追及の旅をしているんだ」
「もんだいないよ」
「だそうだよ」
っと、サルーは腕の時計に呟きます。
すると、多摩川の中から屈強な男たちが続々と現れます。
防弾チョッキを着こみ、体中に武器を携帯しています。
白人、黒人、アジア人、一目で様々な国籍であることが分かります。
「私は、フランス外国人部隊の小隊長なんだ。ちょっと今は訓練中でね」
そうして彼らは服を着、どこからか軍用車「ハマー」を持ってきて、バイク軍団の中に混じりました。
桃太郎軍団(総長:桃太郎 八王子の暴走族:71名 フランス外国人部隊:31名)
4
バイクの爆音と、陽気な海外の曲を鳴り響かせながら青海街道を驀進する桃太郎軍団。
頭上にはヘリコプターが飛び、街道には多くの市民。TVレポーターの姿も見かけます。
警察はそんな市民の誘導を行っています。
と、目の前にパトカーのバリケード。
完全に道を封鎖しています。
一人の男がスピーカーを持ち、
「止まりなさい、この道は完全に封鎖した。すぐに停車しなさい」
「止まりなさい、この道は完全に封鎖した。すぐに停車しなさい」
男はそのセリフを連呼します。
「桃太郎さん、どうします。俺らがつっこみましょうか?」
イヌが暴走族を見ながら提案します。
「私らでもいいですよ。あの程度でしたらすぐです」
サルーがどうとでもないように呟く。
だが、桃太郎は決断はそのどちらでもありません。
「僕がいきます」
「え!総長自ら」
「別に桃太郎がいかなくとも・・・」
「大丈夫です。ちょっと話をして来るだけです」
そういうと、桃太郎はバイクから降り、スピーカーの男に近づきます。
2mの巨体の男が近づき、震えながら後退するその男。
「な、なんだ・・・投降する気になったのか?」
「僕は桃太郎」
「そ、そうか、自己紹介か。若者にしては礼儀正しい。私はこの地域の警備を任されている木地川だ」
「僕と一緒に知事退治にいきませんか?」
「な、なに・・・・・・」
男の脳裏によみがえる数々の記憶。
木地川は、都政が腐っていることを知っていた。
だが、都の治安を守る警察官という立場のため、表だって動くことはできなかった。
だが、これまで地道に証拠を集めてきた。
木地川は桃太郎を見る。
あふれ出るオーラ。人としての格、大きさが違う。
そして背後に惹かれる暴走族と国際特殊部隊?の姿。
彼は警備のため、今日の桃太郎の動きを調べていた。
桃太郎はどこぞからバイクで現れ、またたくまに仲間を増やしていった。
その人望は計り知れない。
今なら、今なら、これまでの成果を携え、都政を回復させることができるかもしれない。
木地川は悩む。家には妻と小さい子供がいる。
だが、木地川は曲がったことが大嫌いだった。そのために警察官になったのだ。
心は決した。
「分かった、仲間になろう」
「そう。ならこれあげる」
木地川は桃太郎からきび団子を受け取りました。
これが信頼の証か・・・。木地川はそれを大事そうにポケットにしまいました。
「桃太郎、俺の仲間もいいか。警察も腐った奴ばかりじゃない。良い奴らもいるんだ」
「かまわないよ」
木地川は、無線で連絡をします。
すると、続々と彼の元に警察官が集まってきました。
が、それに反対する者も。
「おい、木地川、お前何をする気だ」
中年の男が木地川を見ます。この地区の警察署長です。
木地川は所長を見、一言呟きます。
「なに、世直しですよ」
そういって、木地川は仲間と共に桃太郎軍団に加わりました。
桃太郎軍団(総長:桃太郎 八王子の暴走族:71名 フランス外国人部隊:31名 警察関係者:41名)
5
それからは、簡単でした。
今までは不良と危険な外国人の集まりだった世紀末集団でしたが、警察官が加わったことにより、徐々に街道の市民も桃太郎軍団に加わっていきました。
その数は刻々と増えていきます。桃太郎のバイクのスピードが遅い事が功を奏したのです。
軍団の進行スピードは、歩いていでもついて行ける早さです。
夜にはキャンプを張り、ご飯はサルーの外国人部隊が作りました。三つ星シェフの軍団だけ有り、それは好評でした。ご飯目当てに軍団に入る者もいました。
そうして2日後。
桃太郎軍団は3万人になっていました。
桃太郎軍団(総長:桃太郎 八王子の暴走族:71名 フランス外国人部隊:31名 警察関係者:41名 市民3万)
6
都庁は既に目の前。
警察の対応は中途半端でした。
木地川の協力者が手を回し、ろくに機能していませんでした。
そしてついに都庁を包囲しました。
桃太郎軍団は建物内に入ります。
勿論、都庁内には警備員や警察官もいますが、3万人の前では意味をなしません。
彼らは抵抗するポーズだけするものも、すぐに退散しました。
桃太郎他、主要メンバーのイヌ、サルー、木地川は都知事室に乗り込みました。
そこには、一人の男。
東京都知事がいました。
「な、何をする気だお前たち。こんなことゆるされると思ってるのか!」
桃太郎軍団を一括する男。ですが、完全に腰が引けていました。
桃太郎は近づく、日本刀を抜きます。
「僕は桃太郎、知事退治にきました」
「ひいいいい、止めてくれ。話せば分かる」
桃太郎は刀を頭上に掲げ、振り下ろします。
ズサッという空気が切れる音とともに真空波がまき起こり、部屋の壁が壊れます。
その壁の向こうには、部屋・・・
入口が見当たらない部屋。都知事の隠し部屋でした。
「噂には聞いていたが、ここにあったのか」
木地川が呟きます。
そうして中に入っていく木地川、サルー、イヌ。
「ば、ばか。やめろ、その部屋は」
都知事は抵抗しようとしますが、腰が動きません。
「へぇ~裏帳簿。結構まめなんですね。ある国の大統領を思い出しますよ」
サルーが黒い本のページをぺらぺらをめくります。
「おぉ、これ、本物か!」
金の小判も見るイヌ。
都知事は腰を突き、諦めた表情になります。
「分かった、分かった、頼む。金はやる。だから見逃してくれ。頼む。君たちも金が必要だろ。協力しよう。儂はコネも金もある。君たちには市民の力だ。いい関係が気づけると思う。どうだ、悪い話じゃないだろ」
都知事は桃太郎を見ます。
桃太郎は木地川、サルー、イヌを見ます。
彼らは何も言いません。
桃太郎に全て任せるという目でした。
それ受け、桃太郎は決意します。
刀を振り上げ知事に向けて振り下ろしました。
7
あの後、桃太郎の斬撃は知事には当たらませんでした。
外したという方が正確です。
しかし、知事はその斬撃で気絶しました。
その後、木地川が中心となり、都知事の不正の証拠揃え、都知事は退職、そして刑務所いきになりました。都知事は悪い人だったのです。
その成果のためか、知事選に立候補した木地川は、次の東京都知事になりました。
イヌはこの運動に何かしら思う事があったのか、暴走族を解散し、警備会社を起業しました。暴走族のメンバーを従業員として雇い、業績は好調のようです。
サルーは、桃太郎のおばあさんにきび団子の作り方を教わると、ふらりといなくなりました。食の追及の旅を続けるのでした。
そして、中心人物、桃太郎と言えば・・・・
誰もその消息を知りませんでした。
ある日ふらりと消え、そのまま家に戻りませんでした。
しかし、おばあさんとおじいんさんはどこか落ち着いていました。
家の縁側でおばあさんとお爺さんは話します。
「あの子の事だからね、どこかで上手くやっとるかね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
<終わり>
という話でした。
めでたし、めでたし。