92話 森に突入 -森には魔物が居ますよね-
邪魔されるのは有名人の宿命だと思うんですよ。
亮二たちが入った森は鬱蒼としており、視界が極端に悪い場所と不自然なほど整備されている広場のように視界の良い場所と交互になっており、その間を繋ぐ道に関しては馬車が一台何とか通れる程の高さしかなかった。普段は使われていない道なのは明白で、時間と共に森に飲まれて消え去る運命である街道との印象を亮二達一行に与えていた。
「これって本気で嫌がらせをされてるよな。むしろこんな道を通らせたってなったら外交問題になるんじゃないか?」
「そうですね。私達はユーハン伯から王への親書も持ってますからね。これで王都に無事に辿りつけなかった場合は『なぜそんな危険な道を通した?』とユーハン伯より詰問が有るでしょうし、無事に到着したとしても私達が『無理矢理、危険な道を通るように言われた』と報告しますからね。リョージ様があの文官から言質及び一筆を取れたのは大きいですね。貴族派の領主は今ごろ真っ青な顔をしているんじゃないですか?」
亮二の呟きにメルタが貴族派領主の対応に呆れた口調で説明しながらも、鬱蒼とした森の雰囲気に馴染めないようで、薄ら寒そうに肩をさすると森の奥に視線を向けるのだった。
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「前方から敵5体を確認。カレナリエンは魔物の名前を教えてくれ。メルタは魔物が見えた時点から弓で攻撃、その他の者たちは馬車から出ないように」
亮二は索敵モードで敵を確認すると広場になっている場所で馬車を止め敵を迎撃するための指示をそれぞれに出し、自らも「ミスリルの剣」を引き抜いて【雷】属性を剣に纏わせると最前線になりうる場所で敵が来るのを待ち受けた。
「リョージ様!魔物の種類は「魔ウサギ」になります。大きさは中くらいです」
カレナリエンの報告を聞いた亮二はインタフェースを起動すると「魔ウサギ」について検索を行った。
-魔ウサギ-
セーフィリアに広く生息する魔物である。見た目はウサギに似ている為に「魔ウサギ」との名称が付いたが全くの別種である。動きが素早いため防御を潜り抜けて攻撃される事が有るので注意が必要。肉は柔らかく食べ易いが、腐り易いために主に干し肉にされる。討伐対象ランクD
亮二は魔ウサギの情報を周りに伝え終わったのを待っていたかのように魔ウサギ達が広場に現れた。
「でかっ!え?ウサギってこんなに大きかった?」
亮二はカピパラ程の大きさの魔ウサギを見て驚くと思わず叫んでしまった。
「色々と知っておられたので、てっきり大きさについてもご存知かと思ってました!」
メルタが答えながら矢を射掛けたが、その大きさからは信じられないようなサイドステップで躱すと、その勢いのまま亮二に向かって突進してきた。
「一匹目!」
亮二は叫びながら中段に構えていた”ミスリルの剣”を手首を返してタイミング良く上段から鋭く振り降ろすと魔ウサギの頭部を真っ二つした。絶命したのを確認してストレージに収納すると、返す刀で突っ込んで来たもう1匹の頭部を斬り裂き、3匹目に対して攻撃を仕掛けている隙に2匹が馬車に向かって行ってしまった。
「当たれ!」
メルタは馬車の上から短弓で魔ウサギに対して連射を続けていたが、嘲笑うかのように全て躱され、徐々に馬車に近付かれていた。
「あぁ!馬が!」
メルタの攻撃を躱した魔ウサギは攻撃をしてこない馬に狙いを定めると、馬の横っ腹に頭からぶつかっていった。もろに攻撃を受けた馬は弱々しく嘶くとその場で痙攣を起こして倒れてしまった。魔ウサギはその勢いのまま馬車に体当たりをし始めた。
馬車は大きく揺れはするが、壊れること無く魔ウサギの攻撃を耐え切った。馬車の上からは死角になっておりメルタの単弓では攻撃が出来ずに魔ウサギに攻撃されるに任されていたが「任せて!」とカレナリエンが叫びながら何かを呟き始めた。
呟きが終わったカレナリエンの前に小さな渦が産まれると、螺旋状になりながら魔ウサギに向って飛んで行った。
螺旋状になった渦は吸い込まれるように魔ウサギに突き刺さると、身体を1度だけ大きく跳ねさせるとそのまま動かなくなった。
「あと1匹ですよ!油断しないようにし…」
4匹目を倒した段階で「油断しないように」と大声で注意喚起しようとしたカレナリエンは言葉に詰まった。最後の1匹の背中に矢のような物が刺さっているのである。
「あれは何ですか?」
「ゴメン!ちょっと練習で使っていた魔法を試してみたくて使っちゃった」
カレナリエンは亮二の言葉を受けて魔ウサギの背中に刺さっている矢のような物を確認した。通常の矢と違って羽根はなく、全てが金色に輝いており所々から火花が散っていた。
「リョージ様、これは?」
今まで見た事のない魔法に恐る恐る質問すると亮二から笑顔で答えが返ってきた。
「【雷】属性魔法で矢のように飛ばせないかなと試してみたら出来たんだよ」
「試してみたら出来た?」
馬車の上から呆然と呟いているメルタに「ひょっとして非常識だった?」と焦った亮二は慌てて言い訳を始めた。
「嘘だよ。試してできるわけないじゃん。え、えぇと、あれだよ。あれ!俺の国のニホン国で標準である”ライトニングショット”って魔法なんだよ!」
なんとか言い切ってカレナリエンとメルタの顔を見たが、どう見ても誤魔化せてはいないようで、2人の不審顔に対して亮二は「どうしようか」と真剣に悩むのだった。
もっと広範囲魔法を使ってみたいです。