91話 王都へ出発 -トラブルは付き物ですね-
王都に向けて出発です!
「よし!じゃあ王都に向けて出発!」
メルタの準備と荷物の積み込みが終わったのを確認した亮二の掛け声に御者が馬に鞭を入れるとゆっくりと馬車が動き始めた。マルコ、シーヴ、コージモに住民の中で亮二と仲の良かった住人達が見送りに駆けつけており亮二たちに対して手を振っていた。
「リョージ!向こうで絶対に無茶をやらかすなよ!」
「リョージ様、お手紙下さいねー」
「剣の量産についてはお任せ下さい」
「たまには帰ってきて宴会しようぜ!」
亮二は見送りに駆けつけて来てくれた人達に「ありがとう!行ってくる!」と叫ぶとマルコに向かって叫んだ。
「マルコ!もし、何か手紙が来たら諦めてくれ!事後処理は頼んだ!」
「だから無茶するなって言ってるだろ!」
マルコの叫び声を亮二は嬉しそうに聞くと「任せとけ!」と叫んでドリュグルの街を後にするのだった。
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「馬車って需要あるのかな?」
馬車に揺られて2日目の亮二の発言がキッカケだった。初日は特に何もトラブルは起こらずユーハン伯の領地にある街に到着し、そこを治めている代官から歓待を受け特に何事も無く翌日には出発をしていた。
亮二達が乗っている馬車は通常のとは違い、自身が作った箱馬車と呼ばれるものであった。天蓋つきの車両であり【土】属性魔法で形を整えると両側には窓とドアを付け、サスペンションで振動を抑える構造にしており、内装に関しても亮二のスキル”デザイン 5”で椅子から壁に装飾を施し、外回りも誰が見ても惹き付けられるようなデザインになっており、亮二は気付いていなかったが、この国の王族や大貴族でも持ち得ないような逸品になっていた。
亮二が乗った馬車は行く先々で「誰が乗っているのか?」と噂を振りまいていたのである。亮二がその事に気付いたのは5日目に訪れた都市でユーハンが任命している代官からの一言であった。
「リョージ殿、この馬車は王家に進呈されるのですか?」
「え?いえ、私の馬車として利用する予定ですが?」
亮二の答えに驚きの顔をした代官に対してメルタが質問を行った。
「ひょっとして、この馬車が豪華すぎるからですか?」
「ええ、生まれてこの方、これほど立派な馬車を見た事が無いので。てっきり王都まで試運転で乗られて、到着後に王家に進呈されるものだとばかり思っておりました」
- ひょっとして、またやり過ぎた?どうしようかな、外装については【土】属性魔法で作っているから簡単に変えることは出来るけど、内装に関しては手作り部分が殆どだからな。馬車作りは今後の駐屯地での産業の1つで考えているから王家に進呈するか -
そう考えた亮二が代官に試乗してもらったところ、サスペンションが組み込まれている箱馬車が全く揺れない事に感動し、自分用の馬車をその場で亮二に注文するのだった。この代官は周りから「幸運者」と言われるようになる。亮二特製の馬車を購入した1番目の人間であり、王家に進呈した馬車の素晴らしさに気付いた王家を含む貴族たちからの注文が殺到したからである。
王家より先に納品が決まった事について、辞退しようとした代官に「貴方の一言が無ければ王家に進呈をしていなかった。これはその恩返しです」と亮二が言ったエピソードが王都にも広がり、身分関係なく先着順で受注する亮二の姿勢に対して周囲の好感度が上がったのは全くの副産物であった。
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王都までの道程が半分の箇所でトラブルが起こった。ユーハン伯を目の敵にする貴族派の一領主が亮二達が街を抜けるのを妨害してきたからである。その領主は遠巻きに「ユーハン伯の息の掛かった者に対して街を通らせない」と伝えてきて森を抜けて王都に向かう様に通達してきた。
通達自体も文官が持ってきており、異議を唱えても「私では分かりかねます。上司に連絡するので1週間以上はこの場でお待ちください」と常識はずれの返事以外は返ってこなかった。通常ならユーハンに連絡を取って通すように交渉をしてもらうのだが、メルタ曰く、ユーハンが動くまでの日程も早馬を出しても1週間以上かかるとの事だったので一行は街を抜ける事を諦め、森を抜ける事を選択するのだった。
「森を抜けて行きますので、ご領主にはそうお伝えください」
「畏まりました、我が主にはそのように伝えておきます」
「この森はどのくらいで抜けられますかね?」
「さあ、ご自分で確認されては?」
亮二の質問に全く答えていない回答にカレナリエンやメルタが抗議したが「たかだか騎士程度の分際で調子に乗らないようにした方がいいのでは?」とニヤニヤ笑いながら答えてくる文官に対して亮二は無表情になると「カレナリエン、メルタ。もう良い、森を抜けていく」と伝えると森に向けて馬車を進むように指示を出した。
亮二の態度が気に食わなかった文官は「この森は危険な魔物が出る事が有りますのでお気をつけ下さい」と大きな声で全員に聞こえるように伝えるのだった。
「ご忠告どうも。魔物が襲ってきたら討伐しても問題有りませんか」
「もちろんです。討伐出来るのならね」
「有難うございます。これで思う存分、討伐が出来ます」
自分の質問にバカにしたように答えた文官の名前を聞き、討伐して問題ない事を文書でもらうと、今までの無表情を消して笑顔で答えると森の中に入っていくのだった。
あの文官に言質を取られた事の大変さを教えます。