87話 駐屯地での一コマ -息抜きは必要ですね-
頑張って領地を発展させます!
「私の調査した2週間の駐屯地での出来事について報告させて頂きます」
男は順番に読み上げられる内容を信じられない思いで最後まで聞くと胡散臭げな表情で報告者の顔を眺めた。
「もっとマシな報告は出来ないのか?そんな短期間で町が出来るわけがないだろ?そのリョージとやらは神の御使いなのか?」
「はっ!私としても実際目で見た内容を報告書に書いたのですが、書き終わった後に見直してもとても信じられませんでした。ですが、実際に昨日まで何も無かった場所に翌朝には家が建っているのです。駐屯地からドリュグルの街までの道が整備されて、1日3便の定期便が出来ており馬車自体も揺れもなく広々としており馬車内で食事が出来るほどだったのです。物流も止まること無く両方の街に物資が供給されており、住民の生活レベルも飛躍的に上がってきております。現在、駐屯地は人不足だそうで住民の募集が大々的に行われていますので今の内に誰かを潜り込ませた方がよろしいかと」
報告者の提案を吟味しながら差し出された報告書を再度眺めながらため息をついた。
「2週間で町を作り、ドリュグルの街との定期便を就航させて物流をおこし、”試練の洞窟”を解放して鉱山にして革新的な経営をするドリュグルの英雄か。異国の貴族なのにこちらでも騎士の叙勲を受けた。それに牛人4体の討伐実績を持ち、属性付与を二重にかけることも可能な人物か」
「見た目は子供なのに、牛人4体を倒した属性付与の二重掛けがどのくらいの威力があるのか知りたいですね」
報告者の内容にやっと納得し、労いの声を掛けて下がらせると男は今後の対応について物思いにふけるのだった。
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「リョージさん!どこですか!書類作業に飽きたからって逃げないでください!」
休憩にかこつけて執務室を抜け出した亮二はアウレリオの声を遠くに聞きながら屋敷を出ると町並みを眺めながら歩き始めた。亮二が駐屯地にやって来てから1ヶ月が経っていたが、街の活気は落ち着くどころかさらに熱量をあげており、この1ヶ月で駐屯地に移住してきた人数は500名を超えようとしていた。
当初は駐屯軍は再編成されて各地に散らす予定だったが、急激な人口増加で治安の悪化が懸念されるために、当面はそのままで治安維持と亮二から訓練を受ける日々を過ごすのだった。
「ずいぶんと活気付いてきたな、報告では来週くらいに50名来るらしいから区画の拡張が必要だな。鉱山も危なそうな所は埋めといた方がいいだろうし明日に両方やっとくか。そう言えば北の方に魔物が出てるって言ったな。駐屯軍の訓練も兼ねて6割新兵で威力偵察をさせておくか。鍛冶ギルドにも新しく考えた馬車の図面の説明もしないといけないな。それに…」
インタフェースを起動させて「やることリスト」を記入していた。自分で仕事を増やしていっている事に気づかず翌朝に仕事量の多さに目を回すことになるのだが、領地経営が楽しくなっている亮二は溢れてくるアイデアを楽しみながら商店街に到着した。
「おう、リョージ!楽しそうな顔してんな。そう言えば今日はアウレリオさんと一緒に執務に専念って言ってたんじゃなかったのか?」
「書類作業が面倒くさくて逃げてきた。だってアウレリオが持ってくる仕事量って半端無く多いんだよ。しかも『あと、この山が5つは有りますので』とか言うんだぜ?俺みたいに成人を迎えてない子供を酷使させちゃダメだろ」
話しかけてきた商人に「俺は悪くない」と言わんばかりに胸を張って説明する亮二に商人は呆れながら、必死に亮二を探しているであろう怒り顔のアウレリオが目に浮かぶようだった。
「逃げてきたんだったら後でちゃんと商売の種になりそうな物を見つけとけよ。手ぶらで帰ったらアウレリオ激怒するぞ」
「大丈夫!すでにアイデアは山のようにあるから。時間がなくて実現できないのが本気で悲しいよ。ちょっと一口乗らない?」
亮二からの提案に一瞬だけ考えたが、現時点で了承すると膨大な仕事を任される事が目に見えていた。商人は軽く笑いながら「これからドリュグルの街に用事があるから、次に会った時に話を教えてくれ!」とはぐらかすのだった。ちなみに、亮二の方ははぐらかされたままにするつもりは毛頭なく、目の前の商人に案件の1つを押し付けるため、検索機能で利用するマーキングを行って、何時でも見付けられるようにしておくのだった。
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「ただいま」
「お帰りなさいませ、リョージ様」
屋敷に帰ってきた亮二はカレナリエンの出迎えを受けて剣を手渡すと上着を脱ぎながら今日駐屯地で起こった事や気づいた事を話しながら居間に向かっていた。居間に入ろうとした瞬間にカレナリエンが背中から抱きついてきた。
「カ、カレナリエンさん?どうしたの?」
「リョージ様、正式に騎士になったら「さん」付けはダメですよ。あれ?ちょっと服が傷んでますね。じっとしておいて下さいね」
密着した状態で服を直し始めたカレナリエンの突然の行動に動きがとれなくなった亮二はカレナリエンの柔らかさを満喫しながら困った表情で窘めた。
「ちょっと、カレナリエン?幾らなんでも場所が場所なんで密着されると困るというか…」
「よし!完成!アウレリオ出て来ていいわよ」
「えっ?え?何でロープで縛ったの?」
亮二が状況に理解出来ずに硬直していると、居間から誰が見ても素晴らしい笑顔でアウレリオが居間から出て来た。アウレリオはカレナリエンとハイタッチをすると手元に持っていたロープをアウレリオに手渡した。
「え、え?カレナリエンさん?」
「ダメですよ、リョージ様。「さん」付は禁止です。でも、もっと禁止なのは仕事を途中で投げ出すことだと思いませんか?」
「カレナリエンさんの仰る通りですよ。リョージさんの為にお仕事をタップリと用意させてもらってますからね。今日はベッドで寝れるなんて思わないでくださいよ。ふざけるんじゃないですよ、もう逃げられると思うなよ!」
どう見ても笑顔のはずなのに全く笑っていない2人に迫られて逃げようとしたが、腰に括りつけられているロープのために逃げる事が出来ないことに気付いた亮二は、引き攣った笑顔をしながら覚悟を決めるのだった。
本当に徹夜なんだもんな……。




