86話 駐屯地の発展 -【土】属性魔法全開ですね-
マルコと会うのも久しぶりです。
「そう言えばリョージ様ってニホン国の子爵様なんですよね。こっちで騎士になっても大丈夫なんですか?」
「ん?それは大丈夫。爵位を複数持っていても自分に子供が出来た時に渡す事が出来るからね。武者修行が終わってニホン国に帰れば伯爵になるから子爵と騎士の2つは渡せるし、爵位がこれから増えても喜ばしい事であって困ることはないよ。それが他国の爵位であってもね」
「へぇ、そうなんだ。貴族の世界は私には遠すぎて全く分からない…分かりませんでした」
シーヴから何気に聞かれた質問に亮二は平静な顔をしながら軽い感じで答えた。
-そっか、爵位持ちが他国で爵位をもらうって不思議に思うんだな。あの時はマルコの追及を逃れるために適当に答えを返しただけだから設定をすぐに忘れるんだよな。追及されたら武者修行中に滅んでたとか、実は過去からやって来たみたいとかでお茶を濁すか-
どう考えてもお茶を濁せない誤魔化し内容だが、亮二自身は問題ないように感じたので勢いで行こうと決めるのだった。
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亮二がユーハン伯から領地の経営を任されて2週間が経っていた。マルコが王都での諸手続きを終わらせてから駐屯地に向かう事を伝えると、ユーハン伯からは乾いた笑いで、冒険者ギルドに居たメルタからは誇らしげな笑顔で、亮二の屋敷を訪れた際にはシーヴから興奮した顔で「とにかく行って見て!」と一様に言われるのだった。三者三様に同じ台詞だったにもかかわらず同じに聞こえなかった事を不思議に思いながら馬を走らせている道中に違和感を覚えた。
「ん?何か道が綺麗になってるな」
街道が前回と比べものにならないほど綺麗に整備されており人の往来も多く、今までは獣道を人間が利用している感じだったのが馬車がすれ違えるほどの広さがあり、足に負担が掛からなくなった馬もストレス無く歩けたようで、これまでは半日掛かっていた行程が3時間程で現地に到着する事が出来た。
「な、何をやったらこんな事になるんだよ」
唖然としながら周りを見渡したマルコの目に入ってきたのは城壁や門は無いが、ドリュグルの街に負けないぐらいのい街並みだった。区画は綺麗に整備され碁盤の目状になっており、大通りは馬車が2台余裕ですれ違える広さがあり、真ん中に線が引かれて進む方向も決められているようであった。
小道に関しては逆に馬車は入れない細さになっているが光が差し込むようになっており、暗さは感じないようになっていた。また、あちこちで活気のある掛け声が上がっており、煙が上がっている鍛冶師達が集まる区画と推測される場所からは冒険者や駐屯兵達が出ている事が確認できた。そして食品が並ぶ場所や食事が出来る場所が一番充実しているように感じるのは区画を考えた人間の意向が強く出ているからであろう。
「この2週間で何があったんだ?間違いなくリョージが絡んで何かやらかしたんだろうが」
マルコはそう呟きながら亮二の為に用意されている屋敷建設予定地に到着した。予定ではここにテントや簡易小屋を立ててリョージ達が執務や周辺の魔物退治などを行うキャンプを兼ねている場所になっているはずだった。
「ここだよな?リョージの屋敷になる予定の場所は」
マルコが呆然としながら見上げた先にはすでに立派な屋敷が出来上がっていた。通常は屋敷を建てるまでには早くても1ヶ月は掛かり町並みを見るに市街地を優先させて建築したはずであり、どう計算してもこの大きさの屋敷が2週間で建てられるはずは無く、マルコの頭には疑問しか浮かんでこなかった。
「お、マルコじゃん。どうしたんだよ難しい顔をして。また何かツッコミを入れるために集中力を高めてたのか?」
「いや、今回ばかりは余りにも付いていけなくてな。本気で呆然としてたんだよ。ちょっと、この街の事を説明してもらえないか?」
屋敷の前で立ち尽くしていたマルコを見つけた亮二が話しかけると、マルコは夢から覚めたかのように頭を振って意識をはっきりさせると亮二に説明を求めるのだった。
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「じゃあ、1から説明するな「1.ユーハン伯から領地をもらいます」「2.領地に向かうまでの街道を【土】属性魔法で綺麗にしながら進んでいきます」意外にこれが大変だったよ。一泊野宿をしたからな。それで続きだが「3.1週間かけて【土】属性魔法で区画整理をしながら家も【土】属性魔法で作っていきます」「4.せっかくなんで馬車を改良してドリュグルの街との定期便を1日3往復させます」「5.住民を受け入れたら色々と要望が出るので片っ端から解決していきます」そして「6.やっと自分の屋敷が建てられそうだったので割り当てられた区画に趣味を存分に注ぎ込んで屋敷を建てました!」って感じだ。分かった?」
「いや、分かったが分からない事が余りにも多い。【土】属性魔法で道を整備したり、家を建てたり出来るのか?カレナリエンは側に居たんだよな?」
マルコに目線を向けられたカレナリエンは疲れた顔をして頭を振ると「無理に決まってるじゃない、聞いた事もないわよ」と返事を寄越した。
「大丈夫だってマルコ。ちゃんと崩れないように魔力を込めて作ったぞ」
「そんな話をしているんじゃねえよ!魔法で街道を舗装したり、家を建てるなんて聞いたことが無いんだよ!」
「そこはノリと勢いで」
亮二のいつもの口癖でノリと勢いと言われたマルコは盛大に溜息を吐いて頭を押さえると、ドリュグルの街を出る時の三者三様の表情で同じ台詞を吐いた意味を理解するのだった。
基本はノリと勢いです。




