後日談(ではない)8 恋は嵐の予感 -エレナが婚約者となる前の話ですね-
2017年11月10日に発売した3巻特典用没SSを発見したのでWeb用に修正してアップしました。
最近、諸々と作品の更新が滞っているからとか、最終刊の5巻発売決定して「最後だから応援よろしくね!」とか、七夕に間に合わなかったから没SSを見つけてからこれでいいじゃん! こかじゃないからね! か、勘違いしないですよね!(2018年7月7日 羽智遊紀より)
「新たなライバル登場の予感がするの!」
「な、なに? 急にどうしたの? 夕食の準備で忙しいのよ?」
「夕食よりも大事な話なのよ! 『急にどうしたの?』ですって? 決まってるでしょう! 恋のライバルの話よ!」
夕食の準備をしていたカレナリエンに、唐突に訪ねてきたエレナが鼻息荒く伝えてくる。あまりの剣幕に若干引きながら、肉を切る手を止めたカレナリエンが首を傾げる。
「恋のライバルってなによ? 誰の恋のライバルなの?」
「私のライバルに決まってるでしょ! リョージ様を狙う女性が現れたのよ!」
「リョージ様には私達がいるから大丈夫よ? 安心して。たとえ、サンドストレム王国の王位継承第八位のお姫様がリョージ様を狙っていても、私達が断固として阻止してみせるわ」
「そうなの? じゃあ、安し――。私の事じゃない! 邪魔しないでよ!」
「邪魔するに決まってるじゃない!」
「騒々しいわよ。カレナリエン。準備はできてるの? 全然進んでないじゃない! 今日はリョージ様のご学友が訪ねてこられるのよ。いつも以上に気合いを入れようと打ち合わせをしたでしょ!」
進み具合を確認にきたメルタが、準備が出来ていない状況を見てカレナリエンを叱責する。
「だって、エレナが邪魔するんだもん。メルタからも言ってよ。リョージ様に恋のライバルが登場するって言うのよ」
「えっ? こ、恋のライバル? また、リョージ様に悪い虫が近付いてきてるのね――。エレナ姫のように抹殺する方向で作戦を練らないと」
「ちょっっっっと待って! なに!? 抹殺されるの私!?」
小さくブツブツと呟き始めるメルタにエレナが悲鳴を上げる。
「大丈夫ですよ。まだ大丈夫です。あくまでも計画ですから。リョージ様に悪影響が出るようでしたら実行しますよ?」
「だ、だ、大丈夫よ。リョージ様に悪影響が出る訳ないでしょ。もし、リョージ様がこの国を出ると言ったら、継承権を放棄してでもついて行くわ!」
「そこまでの覚悟があるなら大丈夫ですね。分かりました。それで恋のライバルとの話しとは?」
微笑みながらも、目が全く笑っていないメルタに、エレナは青ざめつつ自分の気持ちを伝える。その真剣な様子にメルタはエレナから話を聞く事にした。
「よくぞ聞いてくれました! その名はソフィア! 彼女は相当に危険なのです!」
「「えっ? ソフィア?」」
エレナの拳をかざした力説にカレナリエンとメルタが首を傾げる。サンドストレム王国スイーツ研究所二代目所長に就任したソフィアだが、普段からスイーツの開発で研究所に籠もりきりになっており、恋のライバルになるとは考えられなかった。
「あの子は危険よ! だから、これから情報を収集していかな――」
「あら? 皆さん、台所で話し合いですか? さっき、ソフィアの話が出てましたけど、リョージ様と私の三人で明日遊ぶ約束をしていますよ?」
「シーヴ? それ本当!」
「は、はい。ソフィアが王都についてあまり知らないと聞いたリョージ様が『じゃあ、俺が案内してやるよ』と……」
厨房にやってきたシーヴが、貴重な情報を伝える。いつの間にかデートの約束をしている事に、三人が顔をつき合わせて相談を始める。
「本当に危険なのね。ソフィア恐ろしい子……」
「でしょ! だから早めに手を打たないとダメなのよ!」
「だったら見極めるためにも、今度のデートに私達もコッソリとついて行きましょう」
「「それだ!」」
「あ、あの? 一体なにがあったのですか?」
カレナリエンの呟きにエレナが激しく同意する。そしてメルタの提案に一致団結して拳を振り上げる。事情が分からないシーヴが恐る恐る問い掛けたが誰からも返事はなく、三人の普段とは違う様子を眺めるしかなかった。
◇□◇□◇□
「リョ、リョージ様! 申し訳ありません! お待たせてしまうとは」
「いいって。シーヴが俺のために服を選んでくれてたからだろ? よく似合ってるよ。それと今日は『リョージ君』で敬語はなしの約束だろ?」
「あうあう……。そ、そうでした。じゃなくて……。そうだね、リョージ君!」
「そうそう。元気なシーヴが一番可愛いからね」
「うー。またそんな事を言って……」
服を選ぶのに時間が掛かり、シーヴが待ち合わせ場所である噴水に着いたのは五分遅れてだった。謝罪をするシーヴに、亮二はキザな台詞とウインクで応える。
「さすがはリョージ様。シーヴが真っ赤な顔でモジモジしているわ」
「リョージ様は女性を喜ばせるコツを押さえていますね」
「あっ! ソフィアが来た! まあ! な、なに! あの格好は!」
二人の様子を柱の陰から頭だけを出した状態のカレナリエン、メルタにエレナ。どこから見ても怪しい集団であり、その様子を近くに居た子供が珍しそうに眺めていると、母親が慌てて引っ張って行くテンプレも発生していた。
「そこのお嬢さん達。なにをし――。え? エレナ様?」
「しー! 静かに! 私達は特命で動いています。この件については、なにも伝えませんし、答える事もしません」
「はっ! か、畏まりました! では、失礼します。おい! 解散だ!」
通報で駆けつけた隊長格の男性が小さい声で三人に尋問しようとしたが、その中の一人がエレナである事に驚愕する。そして機密事項と伝えられ、なにも出来ずに部下達に解散を命じて退散した。
「ふー。実に危なかった。なんとか誤魔化せたわ」
「それよりもソフィアの姿を見てよ!」
「侮れませんね。警戒レベルを引き上げないと」
冷や汗を拭う仕草をしているエレナに、カレナリエンが声を掛ける。メルタが無表情で目を細め見て警戒しているソフィアの姿は、麦わら帽子に白色のワンピースで清楚さを全面に出しており、普段はしない薄化粧を施し、髪を下ろして可愛さを引き立てていた。
そして、その姿を見て大喜びしている亮二の姿に三人が最大限に警戒していると、さらに爆弾発言が聞こえてくる。
「おぉ……。おお! 麦わら白ワンピ! 素晴らしい! 最高だよ! ソフィア可愛い! 超いいじゃん! 俺のために頑張ってくれたんだ! 髪の毛から良い匂いもする。俺が作ったシャンプーを使ってくれたんだ。ボディーソープも使ってくれてるの?」
「ふわぁぁぁぁ。あわわわわ! そ、そんなに近付かれたら、は、恥ずかしいでしゅ……。きゅう!」
「うぉ!」
「きゃあ!」
興奮した亮二が、大絶賛しながら距離感を無視したように近付く。亮二の賞賛にソフィアの心は躍ったが、髪の毛を触られ匂いまで嗅がれた上に、首筋に顔を近付けられた瞬間に限界を向かえて気絶する。慌ててソフィアを抱きしめようとした亮二だったが、近くにいたシーヴとぶつかり二人を巻き込みながら倒れてしまう。
「ああ!」
「ずるい!」
「羨ましい!」
遠目に見ていたメルタ、カレナリエンとエレナの三人は、仲良く倒れていく亮二達を見て羨ましそうな声を上げ、我慢できなくなったのか勢いよく駆け出すと、亮二の上に乗りかかった。
「え? なにごと? なんで三人が? なんのテンプレ? ちょ、ちょっと待って!」
「待ちません! リョージ様が悪いのです。ソフィアとシーヴだけずるいですよ!」
「「そうそう!」」
突然現れた三人に、状況が理解できずに混乱している亮二。楽しそうな表情のカレナリエンと、嬉しそうに微笑みながら亮二に身体を押しつけていくエレナとメルタだった。
「よく分からないけど、最高じゃね?」