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後日談7 春は突然やってくる

今日は2月14日です。

バレンタインデーなので、なにか書こうと思ってたら4巻作業中に出てきたベッディさんが良い感じに記憶に残っていたので登場して貰いました。


ベッディ:ウチノ領北部のギルドで亮二に絡んでボコられた上に、ダンジョン攻略に付き合わされた人。

「ばれんたいんでーは誰に渡す?」

「私は彼に渡すかなー」

「私はお父さんに!」

「えー。そこは彼氏に渡そうよー」


 キャッキャとしながら話している女性を眺めながらベッティ達が歯ぎしりをしていた。リョージと一緒に深き迷宮をクリアして一躍有名人になりながらも、恋人も出来ずに全員が独り身であった。


「なあ。俺達って優良物件だよな?」

「ああ。悪くないはずだ。()()リョージ様と一緒にダンジョンをクリアしたんだぞ? それにダンジョンマスターへの魔力供給係もしてるじゃないか」

「だよな! じゃあ、モテないのはなぜだ?」

「飲まないとやってられないよな!」

「おい。ベッディは飲むなよ。リョージ様に厳禁されているだろ。連帯責任になるからお前は果実水でも飲んでろよ」


 酒場の片隅で外を歩いている女性を見ながら酒を飲んでくだを巻いている行動そのものが、一番の原因だとは気付かずにベッティ達は怨嗟の声を上げ続ける。その流れで酒を注文しようとしたベッディだったが、仲間から厳しく注意を受けてむくれながら果実水を一気にあおるのだった。



 翌日、深き迷宮への定期巡回をするためにダンジョンの入り口まで来ていたベッディ達は、昨日の事など忘れたかのように精力的に準備をしていた。この半年の間に全員が冒険者ランクを上げており、名実ともに亮二が治めるウチノ領北部の実力者としてギルドから認定されていた。


「よし。準備はいいか? ん? おい。そこの初心者。そうだよ。その装備で入る気か? なに? 1階だけだから大丈夫? 馬鹿野郎! そんな甘いもんじゃない!」


 目の前にいる若者4名は今日初めてダンジョンに潜るらしく、装備も貧弱で準備不足にしか見えなかった。


「これを持って行け。それとお前。その武器じゃ駄目だろ。これを貸してやる。か、勘違いするなよ! お前が怪我したらパーティーが崩壊するだろうが。戦士が遠慮するな。生きて帰って返せばいい」


 ベッディが予備として持っている長剣を、アイテムボックスから取り出して一人の若者に渡す。恐縮している若者の肩を叩きながらアドバイスまでしているベッディを見ながら、仲間達は小声で話していた。


「なあ。あれ天然だよな?」

「絶対に気付いてないぞ。あの子は女の子だよな?」

「女の子だけのパーティーは珍しいけど、女戦士も珍しいよな? それにあの目はベッディに惚れた目だろ? 輝かんばかりの顔になってるぞ。あいつに春がやってきたな」


 色々と話をしているベッディと初心者冒険者を見ていると、話しが終わったのかベッディが戻ってくる。


「あいつらは準備不足すぎるだろ。しっかりと注意したが、気を付けてやった方がいいな。少し距離を置いて見守ってやろう」

「なあ。気付いているか?」

「なにがだ?」


 心配そうにしているベッディの様子を見ながら、仲間の一人が問い掛ける。質問の意図が分からずに首を傾げているベッディに一同は苦笑しながら何でもないと伝え、先行して潜っていった後輩に続いていくのだった。


 ◇□◇□◇□


「先日はありがとうございました! ベッディさんのお陰で皆が死なずに済んだ! まさか1階で不意打ちを受けてしまうとは。本当にありがとう。それでこの借りてた剣だけど――」

「初心者冒険者が気にすんな! お前達が無事で良かったよ。それはお前にやるから、これからも生き残れよ。そして有名なったら俺に女の子を紹介してくれ! がっはっは!」


 翌日、ベッティ達が酒場で疲れを癒していると入り口付近で出会った初心者冒険者の一人がやってきた。剣を返却にきたとの事だが必要ないとベッディは断り、これからも使い続けるように告げる。有名になったら彼女を紹介しろとのレベルの低いベッディの台詞に、仲間達は苦笑をしていたが剣をもらった少女は真剣な顔で頷きながら確認する。


「なあ。ベッディさん。好みの女の子ってどんな感じだ?」


「ああ? なんだ本気にしたのか? 別に有名になってからで良いぞ? でも。そうだな。せっかくだから注文しておくか。可愛い子がいいな。お淑やかでスカートが似合う子を頼むわ。でも単に弱々しいのは駄目だぞ」


「なに贅沢を言ってるんだよ! お前に彼女を紹介してくれると言ってる有望株だぞ! おい。兄ちゃん。こいつに紹介するなら俺達にも頼むわ。俺達は贅沢は言わないぞ。若かったらな。はっはっは」


 ベッディの仲間達の言葉に、ベッディ本人も一緒に笑いながら好き勝手に話しだす。それを聞いていた少女は小さく頷くと礼を言って帰った。


 ◇□◇□◇□


 今日は亮二が普及を進めているバレンタインデーであり、商店街や宿屋。なぜかギルドでもチョコレート販売コーナーが出来上がっていた。今年も貰う予定のないベッディ達は悪態を吐きながら酒場にやって来た。


「はん! なんっだよ! あれは。俺達への当てつけかよ! ギルドの受付嬢達も今年はくれなかったよな?」


「ああ。去年は『可哀想ですから差し上げますが、義理チョコですよ』と言いながらもくれたよな? 今年は給料が少なかったのか?」


「あ、あの。ベッディさん。これ」


 いつものように酒場でベッディは果実水を、仲間達は酒を飲みながらチョコレートの販売コーナーを睨み付けていると、一人の少女がベッディにチョコレートを渡してきた。


「ん? え? お、俺にか? えええええええ! お、俺に! ちょこれーとくれるのか? 本当に?」


「うん」


 真っ赤な顔でチョコレートを受け取ったベッディは、飛び上がりながら歓喜の踊りを始める。


「みたか! ちょこれーとだぞ! 本物だぞ! 初めて見る子に貰えたぞ! どうだ……。痛ぇ! な、なにすんだよ!」


「馬鹿! 知らない!」


 突然の激痛に思わずしゃがみ込むベッディ。なにごとかと視線を向けると、そこには涙目になった少女が真っ赤な顔で睨み付けて走り去っていった。


「え? 俺何かしたか?」

「気付かなかったのか? あの子はこの前の戦士の子だぞ?」

「え? 女の子だったのか?」


 呆気に取られたベッディだが、仲間から追いかけなのかと聞かれると、慌てて立ち上がり全力で走り出した。後にギルドの受付嬢達から、少女がベッディにチョコレートを渡すために相談してきた事、衣装もベッディの好み合わせて買い直した事や化粧も教えた事などを、ベッディは正座をしながら2時間以上聞かされるのだった。

ハッピーバレンタインデー!

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