後日談2 領地発展物語 -序章ですよね?-
ここはリョージ・ウチノ大公の居城がある領都である。サンドストレム王国において爵位を授かっている貴族の中で突出した発展を遂げている領地でもある。以前のレーム伯爵領時代は腐敗の代名詞と言われており、領民は次々と他領に逃げていた。逃げる力のない者は徐々に力尽きるしかなかった。急激に増えている人口を不思議に思っていたエレナに、領都を預かるニコラスが報告する。
「今まで逃げていた領民が戻ってきているようですな」
「それは問題ないのですか? 今まで逃げていたのでしょう?」
軽い感じで説明するニコラスにエレナが疑問を感じて質問をする。当然の疑問であり、ニコラスは大きく頷きながら笑顔で答えた。
「本来ならそうでしょう。ですが、彼らはレーム元伯爵時代に逃げ出した領民です。それを快く迎え入れる事でリョージ様の懐の深さをアピール出来るのです」
「なるほどね。でも、住居はどうするの? 逃げ出したのならなにもないでしょ? さすがにすぐには家を用意出来ないわ。食料なら大量に輸入が出来ているから問題ないけど……」
ニコラスの説明に頷いたエレナだったが新たな疑問が出てくる。首を傾げているエレナを見て、同じ質問をした自分を思い出す。
「ふふっ。私も似たような質問をリョージ様にしましたな。『住居がなく、テントでは冬を越す事は出来ませんぞ! 可哀想だからと言って全員を救う事は出来ません!』と。するとリョージ様は『カセツジュウタクを作れば良いじゃないか!』とおっしゃったのです」
「でしょ! でも、リョージ様は解決されたのよね? ニコラスが戻ってくる領民を無制限で受け入れてるのだから。そのカセツジュウタク? それで、領民が救われたのね?」
「ええ、その通りです。では、エレナ様にも私と同じように驚いてもらいましょうかな。今から出かける! 南の街まで転移するので、あちらに馬車の用意を!」
ニコラスは笑顔でエレナを建築現場へと案内する為に配下の文官に指示を出す。リョージとライナルトによって開発された転移魔法陣は二人はウチノ領の重要な拠点にも設置されており、亮二の他にニコラスなどの幹部クラスも利用が許可されていた。
やって来たのは南の街から馬車で三〇分の場所にあり、護衛のアラちゃん騎士団を含めた二〇名程が到着すると責任者が慌てて駆けつけてきた。
「これは! ニコラス様! 急なご視察ですか?」
「ああ。今日はエレナ様に来てもらった。リョージ様の奥方であるから無礼のないようにな」
「ええっ! エレナ姫がこちらに!」
「もう、姫ではありませんよ。エレナ・ウチノですよ。姫としての公務はしておりませんから。それよりもリョージ様が考えられたカセツジュウタクを教えて下さいな」
「こ、これは失礼しました!」
慌てて頭を下げる責任者にエレナは鷹揚に頷きながら謝罪を受け取ると、そわそわした様子で確認する。待ちきれない様子を見た責任者は、アイテムボックスから鉄兜のような物と動きやすい服をエレナに手渡す。
「これは?」
「リョージ様が開発されたへるめっとと、つなぎと呼ばれる作業服になります。作業をする際に頭を守り防具になっており、鉄兜よりも軽く頑丈になっております。つなぎも防御力が高く怪我を防げる服になっております」
「これは作業する者が全員着ているのですか?」
全員が着ているとの回答に、用意されたであろう数を想像してエレナは驚愕した表情を浮かべながら、着替えるために更衣室に案内された。
「おぉ! さすがはエレナ様ですな。なにを着ても似合いますな」
「ありがとう。ニコラスも似合ってますよ」
作業着にヘルメット、髪は後ろで縛った姿で現れたエレナはまさに王族が視察に訪れたような佇まいであり、ニコラスはアフリカのサファリパークを訪れた教授のような姿であった。
「では、案内させてもらいます。まずはこちらは……」
責任者の説明を聞きながらエレナは感心していた。仮設住宅は部品ごとに分けられており、組み立てる順に番号が振られていた。これは現地で組み立てる際は番号順に組み立てればよく、今までと違って親方と呼ばれる熟練の大工が一から指示を出す必要はなく、少しの経験を積んだ者でも建築が出来るようになっていた。
「この方法なら熟練の技術者でなくても、経験を少し積むだけで現地で作業が出来ます」
「運搬はどうするのです?」
運搬については部品を馬車として組み立て、現地で解体して利用することで解決させていた。亮二が事前に手を打っていた街道整備事業のお陰で移動もスムーズに出来ていた。
「それにしても上手く出来ていますね。気になっていたのですが、あちらの住宅にはどなたが住んでいるのですか?」
「ああ。あれは仮設住宅を作っている者達が住んでいます。こちらで仮設住宅の部品を作って、出来た者達から出発していきます。そして、現地で組み立てた後は割り当てられた畑を耕したり、鉱山開発に従事します」
「そして、ある程度の規模となったら仮設住宅から正式な村にする為に熟練の大工が現地で家を建てると説明をしております。その他にも自分達が住む仮設住宅が出来るまでは衣食住を保障をしております。さらに、住んだ先では初年度の税は免除しておりますし、食糧支援も行っております。食糧支援も一年限定です」
責任者の説明の後にニコラスが補足する。エレナは生き生きとした表情で作業をしている者達を見ながら、さらなる発展をするであろうウチノ領が目に浮かぶのであった。