400話 大団円(後編) -ついに終わりですね-
やっぱりマルコは最強ですね。
「うぅ。マルコさんの怒りは和らぎましたよね?」
「ああ。だが、気を付けろ。油断すると一瞬で沸騰するぞ」
マルコをチラチラと見つつ、イオルスが痛みを我慢しながら確認する。亮二は真面目な顔で答えると、少し離れた場所でこちらを睨んでいるマルコに視線を向けた。
「やばい! 目を合わせるな!」
「早く始めた方がいいですよね? では、改めて式を行います。亮二さんと婚約者の皆さんは頭を垂れてください。はい。そんな感じで。ではいきますよ。『我は創造神にて原初なる者。幸福に満ち溢れし者。全ての者に幸福を分け与えし者。我、ここに使徒である彼の者に幸福の祝福を授ける。また、連れ添う者にも同じく加護を与えんとす』」
イオルスが厳かに祝福を紡ぐと、亮二を始めとする婚約者たちのの身体が淡く光り輝く。その様子を見ていた一同は恍惚とし表情で眺めていたが、光が収まると同時に割れんばかりの拍手と歓声で亮二達を祝福するのだった。
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「痛ぃ! なんだよ! 無事に終わったからいいじゃん!」
「最後はなんだよ! 一同が光り輝いて終わりで良かっただろ! 場合によったら死人が出てたぞ! お前さんの軽い発言で警備の者に怪我人が複数でたぞ!」
ハリセン攻撃を受けた亮二が頭を押さえながら抗議するが、マルコも負けじと言い返していた。イオルスの祝福の後に亮二はテンション高く群衆に向かって『今日は俺の奢りだ! 王都にある店は全て無料で食べ放題にしろ! 後で俺の屋敷に精算に来てくれ!』と高らかに宣言したのである。
料理人達は自分の料理が祝福で使われると大喜びしながら自らの店に戻り調理を始め、集まっていた者達は大歓声を上げながら店に向かって駆けだした。慌てたのは警備に集まっていた兵士達である。亮二の宣言で半分暴徒化した集団に対応するために、縦横無尽に一日中走り回らされたのである。
「えっ? まじで? ごめん。俺も勢いで言い過ぎた。後で警備の人達に謝罪と感謝の気持ちを込めた慰労会開催と見舞金を出すよ。負傷者には治療ができる者を派遣する。メルタとカレナリエンは対応をお願い」
「分かりました。警備の方達は各国から来られているので、帰国される前に開催しますね」
警備していた複数名が怪我したとの報告に、さすがの亮二も暗い顔をしながら謝罪をする。そんな様子をみたカレナリエン達は、亮二の気が少しでも休まるようにと早急に慰労会や人材派遣の準備を始めた。
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「怪我人は私が治療しました。皆さんから『気にしないでください』との言葉をもらっています。だから元気を出してください! 亮二さんらしくないですよ!」
明るい表情でイオルスが話しかけてきた。周りの者も心配そうにこちらを見ており、その視線に気付いた亮二は頭を振ると笑顔になった。
「そうだな。次からは気を付けるよ! それにしてもイオルスに治療してもらった警備の人達は喜んでただろ? あれ? どうした? なにかあったのか?」
暗い顔だった亮二だったが、気を取り直すとイオルスに話しかける。だが、何気ない一言にイオルスの目が死んだようになり、明後日を向いて乾いた笑いを浮かべ始めた。そんな様子に慌てた亮二が確認すると怒濤のごとくイオルスが喋りだした。
「ふっふっふ。皆さんを治療しましたが、『ソフィアちゃんが良かった』とか、『嬉しいですが、ケモ耳がないのはちょっと……』や! 『クロたんは? おばさんはいらない』とか! 『リョージ様を連れてこい』もありましたね! 本当に皆さん好き放題に言ってくれましたよ! 治療ついでに永眠させようかと思いました!」
「それはやめて差し上げろ。人の好みはそれぞれだ。今日は俺が側にいてやるから機嫌直せよ」
さきほどの治療した人々を思い出し頬を膨らませていたイオルスだったが、亮二の言葉で真っ赤になると俯きながら身もだえ始めた。
「お、おい。大丈夫か? どうした?」
「だって……」
さらに恥ずかしそうにしているイオルスに首を傾げていると、エレナが苦笑交じりの満面の笑みで近付いてきた。
「順番がありますが、今日はイオルスさんに譲ってもいいですよ。ねえ。皆さん」
「ええ。いいですよ。イオルスさん頑張ってましたから」
「私も問題ない」
「いいですよ」
「今回だけ譲る」
「私の新作スイーツ食べます?」
「構わん。魔族は順番など気にしない」
「私もいいよ」
エレナの言葉に婚約者達が一同に答える。嬉しそうにしているイオルスに亮二が首をひねっているとカレナリエンが耳元で呟く。
「結婚式も終わりましたし、リョージ様も成年ですよね? 大人ですよね? 夜も楽しめますよね?」
「あっ!」
カレナリエンが頬を染めながら話す内容を理解した亮二が珍しく顔を真っ赤にさせる。クネクネとしているイオルスの姿を部外者のように眺めていた亮二が、なにかを言おうとしたタイミングを見計らったかのように部屋の中央に莫大な魔力が集中しだした。
「な、なんだ? 全員、俺の後ろにこい! イオルスは俺と防御結界を……」
「待ってください! 私です! イオルスです!」
緊迫した一同が部屋の中央に魔力が渦巻いている状況に対応しようとすると、そこには三十センチメートルほどのイオルスが空中に浮かんでいる姿があった。
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「な、なに? ちっちゃいイオルス?」
「突然呼ぶなんてなにが……。なっ! 今度はなんだ?」
突然現れた小さいイオルスに、亮二が唖然としている横でイオルスが詰め寄って確認する。別の部屋にいたマルコも呼ばれたが、目の前にいる小さいイオルスに驚きの表情を浮かべていた。
「えっ? なぜ私が? ちょっと説明してください!」
「もちろん説明しますよ! 私が神界で口論になって、私がセーフィリアへ飛び出していったの! もちろん私も止めたよ! でも、『私の決意は変わらない』と言って止めきれなかったの! それで、慌てて私が止めようと結界を張ったけど、中途半端にしか私を拘束できなくて……。痛ぃ! マルコさん酷い! まだ話の途中なのに!」
「うるせえ! 『私』『私』と言っても誰が誰か分からねえ! 一から順番に分かりやすく説明しろ! ちびオス」
「ちびオスって略しすぎじゃ……。痛ぃ!」
一所懸命に身振り手振りで説明しているちびイオルスの話を聞いていた一同だったが、話が進む度に眉に皺が寄り始め、しびれを切らしたマルコがミニサイズのミスリルのハリセンを取り出してツッコんだ。
「おぉ。ミニハリセンまで使いこなすとは……。痛ぃ! なんだよ! いまの流れだったら『さすがマルコさん!』な、流れだろ! ……。痛ぃ!」
「そんな流れはねえ! こいつが小さいからサイズを合わしただけだ。もっと俺らにも分かるように説明しろ!」
亮二がうずくまりながら抗議するのを再度ハリセンで黙らせると、ちびオスに説明を促すのだった。
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「つまりは分裂したイオルス神の一体? 一柱? どっちでもいいがセーフィリアに降りてきた?」
「そうです! さっきからそう言ってますよね! 人の話はちゃんと聞かないとダメですよ! マルコさ……。いや。なんでもないです。お願いですからハリセンは仕舞ってください」
マルコの呟きに、ちびオスがどや顔をしながら胸を張ろうとしたが、一同の視線とハリセンに気付いて身を縮める。そんな様子を見て苦笑していた亮二だったが、顔面蒼白のイオルスに気付くと心配そうに話しかけた。
「どうしたんだよ? 顔面蒼白だぞ? 大丈夫か?」
「え、ええ。ちょっと不味いことになってるなと」
「なにが不味いんだ?」
亮二の問い掛けにイオルスがポツポツと話し始める。セーフィリアの世界を支えているのはイオルスの力である事。今回の魔王騒動で八つの分身体となり、その一体が下界に降りている事。七体でなんとかセーフィリアの世界を保っていたのだが、六体だと支えきれずに世界の崩壊が始まる事を伝えた。
「つまりは、この世界のどこかにいるイオルスBを捕まえないと危ないって事だろ?」
「イ、イオルスBって……。ま、まあそうですが。もうちょっと言い方が……」
身も蓋もない亮二に言い方に、ちびオスがひきつった顔で抗議をしたが抗議は軽く流され、マルコやエレナを中心として緊急会議が始まろうとしていた。そんな様子を眺めていた亮二が勢いよく手を挙げる。
「マルコ! 良い案があるんだ!」
「なんだ? 案があるなら早く言え……。ま、まさかお前……」
「さすがマルコ! 俺との付き合いが長いだけある!」
座っていたソファーから立ち上がった亮二は、バルコニーに向かうと爽やかな笑顔で言い放った。
「こんなテンプレだったら、俺が直接探しに行くしかないだろ! 安心しろ! 転移魔方陣があるから定期的に戻ってくる! 留守はメルタに任せた」
「かしこまりました。シーヴと一緒に領地経営と屋敷の運営はしますので安心してください。週に一度は戻ってくださいよ?」
「私がついて行きます!」
バルコニーから身を乗り出す瞬間にちびオスが肩に乗る。亮二が苦笑しながら軽く片手で落ちないように支える。ちびオスの行動にイオルスが頬を膨らませながら抗議してきた。
「あー! ちびオスずるい! 私がついて行こうと思ったのに!」
「ちびオスって言うな! あなたは魔力が枯渇しているでしょ! マナポーションを飲んでも第一段階しか回復してないじゃない! しっかり休憩して早く復活しなさい」
ちびオスとイオルスがいがみ合っていると、婚約者達が近付いてくる。そして一同を代表する形でカレナリエンが一歩前に出てきた。
「リョージ様。お気を付けて」
「ああ。俺だから大丈夫だ! さっさと片付けるから安心して待っててくれよ」
「当然です。早くお世継ぎが欲しいですからね。次に帰ってくるまでに順番を決めますから安心してください」
「オテヤワラカニオネガイシマス」
直球なカレナリエンの言葉に亮二が挙動不審になっていると、苦笑しながらマルコが激励をしてきた。
「頼むぞ! お前に世界の運命が掛かってるんだからな!」
「任せとけ! この世界はテンプレに満ち溢れているからな! こんなテンプレは順調に消化してやるよ!」
亮二は嬉しそうに言い放つと王都の夜空へ飛び立っていくのだった。
最終話まで読んでくださった皆さま!
本当にありがとうございました。偶然にも400話で完結です。
詳細は活動報告に書く予定ですが、最終話更新が遅くなった理由は今年の秋に3巻が出るためです(๑•̀ㅂ•́)و✧あれほど削らないとダメだとは……思った以上に時間が掛かりました_:(´ཀ`」∠):_
そんな話は置いといて、本作品は約2年半の400話で終了になりました。ここまでこれたのは読者の皆様のおかげです。本当に感謝感謝です。亮二君の物語は一旦完了となりますが、後日談を希望されたら書く予定です。
あと、初めてここに書きますが、作品の感想を大募集です! 次作に反映させるためにも皆さんの感想をぜひお聞かせください。それと、本作品についての評価をしていただけると大変励みになります。
途中でおねだりをするのは厚かましい気がしていましたが、最終回を迎えたらいいかなと……。
次回は本作品の後日談か閑話集、もしくは新作でお会いしましょう(๑•̀ㅂ•́)و✧
妖怪ブクマ外しが現れないことを願って。2017/07/14 羽智遊紀