397話 それぞれの想い -次で終わりですね-
イオルスはなにを聞かれているのだろう?
亮二や婚約者達、オルランドに枢機卿達が謁見の間でくつろいでいると、満足した表情でマルコに、崇拝した眼差しのエリーザベト。一週間ほど断食したように見えるイオルスが戻ってきた。
「おう。事情はイオルス様から確認できた。今後の予定についての調整は終わってるだろうな?」
「当然。マルコがツッコミを楽しんでいる間に……。痛ぃ! なにすんだよ! 特にツッコまれるような事は言ってないぞ!」
「はっきり言っておく! 俺がツッコミを楽しむわけないだろ!」
「「「えっ?」」」
マルコの叫びに一同が心底驚いた顔をする。その反応にマルコが、こめかみを押さえながら絞り出すような声を出した。
「おい。お前ら……。いい根性をしているじゃないか」
「じょ、冗談だろ! そんなに怒るなよマルコ。ちょっと、こっちに来て一緒に飲もうぜ。俺も成人を迎えたから酒に付き合えるぞ!」
マルコの様子を見てさすがに不味いと感じた亮二が、ストレージからウイスキーを取り出してグラスに注ぐと慌てて手渡す。琥珀色の飲み物から漂う芳醇な香りにマルコの意識はグラスに釘付けになる。
「おっ! 良い匂いだな。ういすきー? お前さんの国の酒だと? 味はどうだ? うまい! なんだこれ! 美味いじゃないか!」
「だろ! 今は量産できないけど、近い内に量産体制を整えるから楽しみに待っててくれよ! まずは飲もうぜ!」
嬉しそうな顔を見て亮二は売れ筋商品になると感じた。そして機嫌を直してウイスキーを楽しんでいるマルコに、次々とストレージからつまみを取り出してご機嫌を取るのだった。
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「では、宴会が終ったら、リョージ様を元に戻しましょうね」
「えっ? 俺は元に戻れるの?」
カレナリエンの言葉に亮二が不思議そうな顔をする。婚約者達のお願いで始まったお姫様抱っこ大会だったが、元に戻れると聞くと嬉しそうな顔になった。
「ええ。大人なリョージ様も素敵で格好いいのですが、やっぱり少年のリョージ様との時間を楽しみたいので」
「そうですよね。貴重な時間を一気に飛ばしたイオルスさんは十分に反省してくださったので、後は元に戻して頂ければ全てが許されます」
お姫様抱っこ大会は、生暖かい表情で周囲から見守れつつ終了し休憩となっていた。ソファに腰掛けた亮二の両脇にはカレナリエンとメルタが、横に着けなかったエレナは背後から抱き付き、他の婚約者達は三人に特等席をとられた事を歯噛みしながら悔しがっていた。
「もうすぐ元に戻るとはいえ、この状態を少しでも満喫したいですよね」
「分かる! メルタもそう思った? 数年経ったら会えるけど、ちょっとズルしてるのが背徳感があっていいよね」
メルタの呟きにカレナリエンが嬉しそうに同意する。亮二の身体は婚約者達の身長を追い抜いており、しなだれかかっている二人と、もたれかかっているエレナを苦もなく受け止めていた。抱き付くのに飽きたエレナも亮二の髪をいじりながら頷いていた。
そして、亮二を満喫している三人の様子を見ていたシーヴとクロが我慢の限界とばかりに三人に詰め寄りながら抗議をする。
「ずるいです! 私もリョージ様に抱き付きたい! 交代してください!」
「同感。いつまでもくっついるのは卑怯」
「ふふふ。描きますよ! 描かずにいられません!」
「あっ! これ美味しい。ねぇ、ソフィア。……。あ、後でいいから調理方法を教えて」
二人の抗議に我関せずと言わんばかりにスケッチを続けているソフィアと、出されている料理に興味津々で作り方をソフィアに確認しようとして断念したライラ。
「そうですね! 私は子供は三人は………。えっ! そ、そんな恥ずかしい……」
「今後の魔国と君達との関係だが、まずは小さな経済交流から始めようか?」
亮二との新婚生活における妄想に入り込み身悶えしているマデリーネ。オルランド達と今後の関係について話し合っている魔王フランソワーズ。そんな混沌とした状況でイオルスが周囲の注目を集めるように話し始める。
「はい! はい! はい! 亮二さんを元に戻そうと思います! そろそろ、神であるイオルスさんにも出番をください!」
両手を上げて自己主張している神に一同が残念な視線を投げると、一瞬ひるんだ表情になるイオルス。だが、なんとか踏みとどまると説明を始める。
「いいですか! このままだと亮二さんを元に戻せなくなります。あと三十分経ったら始めますからね! それまで存分に楽しんでください。あと、私もお姫様抱っこを希望します!」
イオルスの宣言に一同は成長した亮二の残り時間を楽しむため、再び群がり始めるのだった。
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「では。皆さん。思い残すことはありませんね? 亮二さんを元に戻しますよ」
先ほどの残念神の面影はなくなり、厳かな顔になったイオルスが確認する。寂しそうにしながら頷いた一同をみて、柔らかく微笑むと詠唱を始める。
「我、世界を創りし者。根源にして無垢なる者。全ての母にして父なる者。我、ここに想いを託さん。我、ここに思いを伝えん。この者にあるべき姿を与える。迷いし姿に道を与え、困惑の根源を拒絶する!」
「いつも、思うけどさ。イオルスの詠唱って毎回違うのは趣味……。うぉ!」
イオルスの詠唱に亮二が苦笑しながら問い掛けようとすると、突然身体が輝きだす。あまりの眩しさに一同が目を閉じていると脳天気な声が一同の耳に聞こえてきた。
「おっ? 声が元に戻ってる? どう? 俺の姿は元に戻った?」
「ああ。間違いなく戻っているな。お前さんと一緒に酒を飲めるのが数年後だと思うと、少し寂しい感じがするが……」
「心配ありませんよ! マルコさん!」
輝きが収まり元の姿になった亮二がマルコに自分の姿がどうなったかを確認する。問題ないとの返事をしながら、酒が一緒に飲めないと呟くマルコの声を聞きつけたイオルスが嬉しそうに話す。
「どういう事だ?」
「亮二さん。ステータスを確認してください」
「ん? ステータスオープン」
名前:リョージ・ウチノ
年齢:十八歳 見た目は子供でも大人ですね!
職業:使徒(イオルス神)
レベル:七十
ランク:S 神託をギルドに出したので公式にSランクです♪
「な、なんじゃこりゃ! なぜ年齢だけ元に戻ってないの?」
「それは『困惑の根源』じゃないからです! 年齢さえクリアすれば亮二さんは結婚できますからね!」
満面の笑みを浮かべて話すイオルスを婚約者たちが取り囲む。
「イオルスさん」
「ひっ! だ、駄目でしたか?」
代表するようにカレナリエンが肩を叩く。怯えるように身体を竦ませたイオルスを見ながら、花が咲くような笑顔で親指を立てた。
「素敵! 貴方の功績はまさに神の御技よ! 奇跡はここにあったのね! イオルスさん。今から緊急婚約者会議を開きます。議題は『イオルスさんを婚約者として承認するか』です。リョージ様への思いの丈を、再度私達にぶつけてください!」
「はい! 皆さんに負けないくらいの熱い想いを語りますよ!」
すぐに結婚が可能な年齢だと分かった一同から賞賛の言葉が次々と起こり、全員仲良く別室に移動を開始するのだった。
婚約者会議の詳細は教えてもらえないのです。