396話 全ては丸く収まり始める -大団円が近付いてますね-
マルコとエリーザベトさんが謁見の間に戻ってきました。
「最後に確認だ。ツッコミにおいて、忘れてはならない大事なものは?」
「はい! 相手の心を読み、その先を動く事ですわ。そして、自分の常識を信じ、相手に流されず自分との戦いに勝利する事ですわ!」
「よし! その気持ちを忘れるな。特にリョージが相手の時は全神経を常識に傾けておけ! 油断すると一瞬でアイツの世界に飲み込まれるぞ!」
「分かりましたわ!」
謁見の間にマルコとエリーザベトが戻ってきた。二人の会話に苦笑しているオルランドを横目に見ながら、亮二は二人に近付くと話しかけた。
「人を非常識の塊みたいに言うなよ。俺のお陰でマルコ達も素晴らしい出来事が沢山あっただろ」
「ん? 失礼ですが、どなたでしょうか? 初めてお会いするかと……」
今まで見た事がない年若い男性から話しかけられたマルコは、それが亮二だとは思わずに丁寧な対応を始める。その横でエリーザベトが違和感を感じており、不思議そうな顔をしつつ首を傾げていた。
「……どこかで見たことがあるような? ねぇ。オル。あの方は、どちらから来られた方かしら? 私が一度お会いした王侯貴族の方や、協会関係者を忘れるわけがないのにおかしいですわ。オルなら、彼が誰だか分かってますわよね?」
「ああ。うん。そうだよ。僕は彼のことを知っている。そして何度も彼と会ってるよ。それにエリーもよく知っている人物だね」
歯切れの悪い恋人に不審気な視線を投げていると、最初は目を合わしていたオルランドだったが、徐々に誤魔化しきれなくなったのか視線を外して別の話をし始めた。
「そういえば、マルコ卿とどんな話をしたんだい?」
「ツッコミについての最終奥義伝授ですわ! 手首や指先の使い方から腕の振り方。視線で相手を自分の叩きやすい場所に誘導する方法。不条理に対するツッコミの心構え。全てにおいて合格をもらいましたわよ。これで免許皆伝との事ですわ。それで、質問をはぐらかしたオルに詰問ですわ。な、に、を、か、く、し、て、ま、す、の?」
アイテムボックスからミスリルのハリセンを取り出しながら徐々に近付いてくる婚約者に、オルランドは青い顔をしながら後ずさりつつ答える。
「わ、分かったよ。彼の名前は……」
「なっ! マルコさん! 彼ですわ!」
オルランドから亮二であることを聞いたエリーザベトが叫ぶ。突然、謁見の間に響きわたった声に一同の視線が発言者に集まる中、一人だけ冷静に対処した人物がいた。
「痛ぃ! なにすんだよ! マルコ!」
「間違いなく、お前はリョージだろ! 大人になっているのは、魔道具かイオルス神の暴走だろ!」
丁寧な口調で話しかけてきている年若い男性が亮二だとは気付いてはいなかったが、目の前の年若い男性に怪しさを全力で感じていたマルコは、アイテムボックスからミスリルのハリセンを取り出すと亮二に叩き込んで叫んでいた。
あまりにも華麗に叩き込まれたハリセンに周りから大歓声が起こる。亮二もまた今まで受けてきた中での会心の一撃に感動しつつ、マルコの鋭さに驚きながら叫んだ。
「なっ! マルコ鋭い! それともどこかで見て……。痛ぃ!」
「見てなくても分かるわ! お前絡みの出来事は、予想した内容を斜め上にしてから、さらにその先を見ると大体合ってる! リョージってのは非常識を塊にして練り上げた存在なんだよ!」
「酷い! 俺のどこが非常識の塊なんだよ! それに十八才になったから、今までと同じように叩かれると思うなよ! 身体の才能が全てだと証明してや……。痛ぃ! くっ! なら! 痛ぃ! えっ? な、なんで? 待って! 痛い! おい! マルコ! 今の銀のハリセンだろ! やめろよ! 何回も言うけど、本気で痛いんだぞ!」
亮二の抗議に耳を貸さずに、マルコは一気に言い放った。
「お前の動きは全て見切ってるんだよ! 最初は誰だか分からなかったから丁寧な対応をしたが、お前だと分かったら容赦しねえ! 避けるだけ無駄だから大人しくしてろ!」
「ちょっ! 金と銀のハリセンは洒落にならないぞ! 待てって! 話せば分かる!」
マルコの両手に握られている金色に光り輝くハリセンと、銀色に光りながら凶悪な雰囲気を醸し出す銀のハリセンに真っ青な顔をしながら亮二は後ずさりしつつ、全力で逃げの体勢に入るのだった。
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「よし。それでは状況の説明をしてもらおうか」
「はっ! では、マルコが居なくなってから……」
マルコから説明を促された亮二は、正座をしながら今までの経緯を説明していた。その説明に矛盾があったり、横道に逸れそうになる度にマルコが銀のハリセンを鳴らす。亮二の説明は、いつしかマルコの取り調べの様相を呈しており、徐々に対応にも熱が入り始めていた。オルランドやラッチス達がフォローしようとするのだが、エリーザベトに止められていた。
「あの。それくらいで……」
「甘いですわ! それとも一緒に取り調べを受けますか? 犯行を自供するなら今ですわよ! 今なら情状酌量の余地はありますわ!」
「エリー。いつの間にか取り調べになってるよ。リョージ君の状況説明だよね?」
恋人の過激発言にオルランドが苦笑しながら答えた。ラッチス達は、この状況をなんかしようオロオロとしていが、打開策が見つからず途方にくれていた。
「あれ? どうされたのですか? なぜ、リョージ様が正座を? 今度はなにをされたのですか?」
「助かった! カレナリエン! えっ? 『今度は』ってどういう意味? そうだ! そんな事よりマルコに説明してよ! 今回は俺は悪くないって!」
謁見の間にカレナリエン達が戻ってくると、そこには銀のハリセンを振り回しているマルコ。ミスリルのハリセンで素振りをしながらオルランドに自白を強要しているエリーザベト。その周りで為す術もなく立ち尽くしてるラッチス達。謁見の間を眺めていたカレナリエンは状況を把握すると頷いた。
「なるほど。じゃあ、諸悪の根元に説明と対応をしてもらいましょう。ねぇ。イオルス?」
「は、はい! 大丈夫です! マルコさん! 私が説明……。痛ぃ! な、なんで?」
カレナリエンから説明を促されたイオルスが自信満々に胸を張って話そうとすると、マルコが神速で近付きミスリルのハリセンを全力で振り抜いていた。
「よし。諸悪の根元。神だろうと関係ない。ちょっと、こっちに来て説明をしてもらおうか。エリーザベトも一緒に来い。実地で教育もいいだろう」
「はいですわ!」
「お、お手柔らかに……」
マルコに引きずられながら連れて行かれるイオルスと、嬉々とした表情で付いていくエリーザベト。諦めの表情でその後に続くイオルス。それを残りの一同は真顔で見送るのだった。
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「それで、そっちはなんの話だったの? 結構、長かったけど?」
「『乙女のヒミツです』と、言いたいのですが、隠すことはないのでお話ししますね。イオルスさんを婚約者として迎え入れることが決まりました」
自分の預かり知らない場所で婚約者が増えたことに、亮二が軽くため息を吐きながら受け入れながら確認する。
「もう、決定事項なんだんよね? 了解。予定も決めてるんじゃないの?」
「その通りです! エレナやマデリーネには王家への確認。その上で、みんなと話し合いました。その結果、オルランドさんと結婚式を一緒に行うことにしました。その際にイオルスさんとの結婚も発表します。リョージ様の今までの貢献を讃えて、使徒であるリョージ様と世界を見守って下さると説明します」
カレナリエンの説明を聞いた亮二がエレナやメルタに他の婚約者達に視線を向けると、全員が頷いて了承済みである事を認めるのだった。
結婚式の日程まで決まっているようです。
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あと2話(100万文字まで6000文字ほど)で終了予定です。
ここまで来れたのも読者の皆様のお陰です。本当に感謝感謝です!