389話 魔王は右往左往する -色々と振り回されてますよね-
フランソワーズが恥ずかしそうにしています。
フランソワーズは亮二から受け取ったローブを片腕で苦労しながら羽織ると、恥ずかしそうにしつつ立ち上がって尋ねた。
「有り難う。少し短いようだが裸よりは断然にいいな。ところで、私の姿は出会った頃に戻っているだろうか? どうした? リョージ? 黙ったままでは分からないではないか」
「……。あ、ああ。問題ないぞ。右腕がないのと、服装が違う以外は初めて会った時と同じだ。渡しておいて俺がこんな事を言うのもなんだが、そんなに小さなローブがよく入ったな」
急ぎ取り出したローブはフランソワーズにはかなり小さかったらしく、それを無理矢理着込んだために胸元は強調され、膝上サイズになっていた。着慣れない服で、もじもじとしながら尋ねてきた破壊力抜群のフランソワーズの姿に亮二が釘付けになっていると、ニヤニヤした顔でイオルスがからかってきた。
「そこは『君の美しさに変わりはないよ』くらいは言っても大丈夫だと思いますよ! あっ! ひょっとして裸にロンティーなので興奮している……。痛ぃ! なにも叩くこと無いじゃないですか! テンプレな状態になっている亮二さんの反応を、ちょっとだけ確認したかっただけじゃないですか!」
「う、うるさい! イオルス! 黙って見とけ! それにしても普段は俺がボケて、マルコがツッコむのが定番なのに調子が狂うよな。ボケられて初めてツッコミの奥深さが分かるわ。マルコは本当に凄いよな」
亮二はイオルスにツッコミながら、自分ではマネをする事も出来ないマルコの冴えわたるツッコミに、心の奥底で最大限の感謝を伝えるのだった。
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「じゃあ、神都に戻ろうか」
「ちょっと待ってください」
出発を告げた亮二にイオルスが待ったをかけた。訝しげに止まった亮二の視線を感じながら、イオルスはフランソワーズに質問をする。
「やっぱりフランソワーズさんは右腕がないと不便ですよね?」
「ええ。ですが、利き腕が無いのは自ら選んだのですから諦めていますよ。急にどうしたのでしょうか? イオルス神?」
「こっちの方が『急にどうしたのでしょうか?』ですよ? さっきみたいに普通に話し掛けて下さい! この世界で言えば、上から数えた方が強い貴方です。特別に普通に話し掛ける事を認めて差し上げます」
フランソワーズの話し方に、イオルスが普通に話すように伝える。冷静になった状態で神に対しての口調がおかしい事に気付いたフランソワーズに、腕を使ったジェスチャーをしながらイオルスが催促をする。
「ささっ! 早くため口で! カモン!」
「それぐらいにしてやれよ。普通は神様との会話なんて恐れ多いんだぞ。俺も最初はイオルスと話すのは緊張した……。ん? 特に緊張してないな。まあ、フラン。イオルスは神様だが喋り方がおかしいからと天罰を落とすような神じゃないぞ。そこは気にする必要はないから、俺への対応と同じように喋れば大丈夫だ」
「私のどこが不思議な魅力が満ち溢れている超美少女な女神だと言うのですか! 私はスーパー超絶美少女……。痛ぃ! 最後まで言わせて下さいよ! ここからが……。痛ぃ!」
「はいはい。話が進まないからそれまでな。じゃあ、フランには後で服を買うとして急ぎ神都に戻ろうか? マルコやカレナリエン達も心配しているだろうからな」
「ちょっと! 亮二さん! 酷いです!」
頭を押さえて抗議をしているイオルスを無視するようにフランソワーズに話し掛けながら、亮二が歩き出そうとする。それに続こうとしたフランソワーズは右腕に違和感を感じて立ち止まった。
「ん? 右腕に感覚がある? なぜだ?」
「えっ? 感覚がある? 見た目にはなにもないぞ?」
フランソワーズが困惑しながら、見えない右腕を使って亮二の飲み干した後に打ち捨てていたマナポーションの瓶を掴んだ。
「おぉ! なにもない場所に瓶が止まっている。本当に瓶を掴んでいるんだな? なにをしたんだよ? イオルス?」
「ふっふっふ。やっと気付きましたね? 亮二さん。説明しましょう! フランソワーズさんがあまりにも可哀想なので、神の力で見えない右腕を作ってみました! 格好良くないですか? 神の見えざる右手ですよ!」
亮二の頭痛を耐えるような表情になっている事に気付かないまま、イオルスは胸を張って質問に答えていた。
「あのな。右腕がない事で、魔王の座を降りられるとの話になったじゃないか。なんで右腕を使えるようにしているんだよ!」
「大丈夫ですよ! 見た目は全く見えませんから! 必要な時だけ使えば良いのです! フランソワーズさんならそれが出来ると思います!」
胸を張りながらドヤ顔で説明するイオルスに、フランソワーズは苦笑しながらも生活をする上で右腕があると無いでは大きな違いがある事を認めるとイオルスにお礼を述べた。
「確かに便利にはなるな。感謝する。イオルス神」
「むぅ。まだ口調が固いですね。まあ、徐々に慣れていけばいいので、今日のところはこのくらいで勘弁してあげましょう」
口を尖らせながらも、フランソワーズの口調が柔らかくなった事に気付いたイオルスは微笑みながら答えた。亮二は何気なく二人の会話を聞いていたが、イオルスの台詞を疑問に思い確認する。
「おい。イオルス。今さっき『徐々に慣れていければ』と言ったか? ま、まさか……?」
「その通りです! さすがは亮二さん! 私はさっきの件で神の力を八割ほど使ったので、神域に帰る事が出来ません! なので、セーフィリアに留まります。凄い! これって、美少女女神が現地に残るテンプレですよね! さすが私! 自らテンプレを作り出すとは!」
自らのテンプレを生み出した事に感動しながら、くねくねと動きつつ言い切ったイオルスに亮二とフランソワーズは唖然とするのだった。
イオルスがこっちの世界に残るようです