387話 神の話は右に左に大きく揺れる -イオルス節全開ですね-
イオルスが一所懸命に説明しています。
「……。と、こんな感じだったのですよ。どう思います! 酷いと思いませんか? マルコさんったら、神である私に遠慮せずに全力でハリセンを振り下ろしたのですよ!」
「お、おぉ。そうか。大変だったな。イオルス」
ぷりぷりと怒りながら力説しているイオルスに、亮二はマルコがどんどんとレベルアップしていく事に若干引きながらも答えていた。イオルスが現れてから三〇分ほど経過しており、やっと開放された事に安堵しているとフランソワーズが話しに入ってきた。
「傷は回復しているのに破壊衝動が起こらない。それに私の魔法が全て発動しないのは神の御業かな?」
「ええ。そうですよ。今、魔王である貴方の力は全て私の支配下にあります。最終形態で万全の状態で、魔王のフル装備だったら今の私とやり合えたかな?」
「支配下?」
苦々しげに睨み付けるようにイオルスを見ているフランソワーズを横目で見つつ、亮二も視線を投げる。イオルスは亮二の視線も感じながら爽やかな顔で頷いた。
「ええ。私がフランソワーズさんの魔力全てと、能力の八割は押さえています。ちなみに亮二さんは普段より二割増しで色々と出来ますよ」
「なんで? それって本当に俺が使徒だから?」
さらっと二割増しになっていると告げられた亮二が驚きながら確認する。
「あれ? 説明してませんでしたっけ?」
「いや。『私達の世界で自由気ままに生きて頂けませんか?』と言っただけだろ? どこに使徒になる要素があるんだよ! まさか『伝え忘れてました。てへぺろ』で、誤魔化すつもりじゃないだろうな?」
亮二のジト目攻撃に、少しだけ目線を外したイオルス。なにかを思い付いたかのように手を打つが、亮二から牽制されるとそのままの状態で固まってしばらく考え込んでいたが、なにも浮かばなかったようで頬を膨らませて抗議してきた。
「酷いじゃないですか! 私の最終兵器である、てへぺろを封印されたらなにも言えなくなるじゃないですか!」
「それで誤魔化せるわけ無いだろうがぁぁぁぁ!」
亮二の叫び声が三人しかいない場所で響き渡るのだった。
◇□◇□◇□
「そろそろ夫婦漫才を止めてもらえないだろうか? この格好のままで生きていくのも悪くないが、破壊衝動が起こるとなると別の話になるのでね。その辺りの話を詳しく……」
「そんな! フランソワーズさん! 亮二さんと私が熟年夫婦のようにお互いの事を理解し尽くしていながら、新婚夫婦のように毎日を新鮮な気持ちを持ってるなんて! そうですね。まだ、婚儀は行っておりませんので、内縁の妻と言ったところでしょうか? ですが、新婚旅行は先にしておきたいですね。海の見えるコテージで亮二さんと二人きり。満天の星に包まれながら亮二さんが私に囁くのです。『あの星など、君の瞳の美しさに比べれば……』いい! 実にいいですね。 はっ! 思わず未来を予知してしまいました。フランソワーズさん! 私は貴方の事を甘く見ておりました! こなったらフランソワーズさんにも神の加護を……。痛ぃ! 亮二さん? なぜ私は叩かれたのでしょうか?」
「おぉ。やっと帰ってきたか。取りあえずフランの話を聞いてやれ。お前が思っている以上に事は深刻なんだよ」
フランソワーズから呆れたツッコミが入ったが、イオルスは勘違いしたようで夫婦漫才の部分に過剰反応を始めた。夢の世界に旅立ったイオルスが幸せに満ち溢れている表情になっていた。しばらくは放置していた亮二だったが、延々と話しているイオルスに苛つくと、ミスリルのハリセンで連撃を叩き込んで正気に戻した。
「はっ! そうでした。このままだとフランソワーズさんが可哀相ですよね。亮二さんと会っていた時の姿に戻しましょう。亮二さんも、あの時の姿の方が好きでしょう?」
「なに言ってるんだよ。友達としてのフランなら姿なんか関係ねぇよ。恋人にするなら考えるけどな」
イオルスの言葉に亮二が苦笑しながら返答する。あまりの内容にフランソワーズは苦笑を浮かべながら亮二に向かって話した。
「酷い事をサラッと言うね。これでも私は乙女なのだよ。お願いします。イオルス神。私をリョージと会った時の姿に戻して下さい。代償ならいくらでも支払いますので」
「神に向かって『代償を支払う』との意味を分っていますか? 金銭程度で済みませんよ?」
亮二からイオルスに視線を移したフランソワーズは、真剣な表情でお願いを始めた。その様子を眺めていたイオルスも、先ほどまでのふざけた表情では無く真剣になると神気をまとわせながら確認する。あまりにも強烈な神気にフランソワーズだけでなく亮二も硬直した。
二人が動かなくなった事に気付いたイオルスは慌てて神気の調整を始める。
「ああ。ごめんなさい。こっちの世界に来る時に危ないので、物凄く力を落としたのですよ? 一〇パーセントでも世界が崩壊する可能性がありますからね。頑張って練習したのです! 力を落とすために練習をしたのです!」
「なんで練習をした事を二回言ったの?」
まとっていた神気を弱めながら、拳を握りつつ力説するイオルス。それを達観した表情で眺めていた亮二だったが、話が全く進んでいない事に気付くと代償について確認する。
「で、代償は? 金銭程度では済まないとなると命か? でも、それだったら意味無いよな?」
「ええ。命をもらっても困ります。フランソワーズさんを元に戻す代償は魔力です。今、魔王として持っている魔力は無くなると思って下さい。貴方の魔力を使って元に戻す事と、再び変身出来ないようにします。神の力を使って魔王の力を封印すると思って下さい」
「ああ。構わない。一人の魔族として余生を過ごすよ。だから私の魔力を全て使って欲しい」
イオルスが亮二の質問に答える。魔王の力を失うと宣告されたフランソワーズは、むしろサッパリとした表情で喜んで受け入れると宣言するのだった。
フランソワーズは元に戻れるようです。