386話 突然の登場と平常運転 -ツッコミは素敵ですね-
突然の登場に困惑気味です。
「『イオルス』と言ったかい? 彼女がイオルス神なのか? 思ったよりも軽い性格みたいだね」
「なに冷静に分析してるんだよ。神様が顕現してるぞ。もう少しは驚いたらどうよ」
「いや。君の強さから考えたら使徒かもしれないとは思っていたのだよ。第二段階まで変身している魔王を苦戦する事なく、圧倒する者が居るとすれば神本人か使徒だけだ。勇者でも仲間と協力して倒したと大昔の記録に残っている」
冷静にイオルスを見て呟いていたフランソワーズに亮二がツッコんだが、さらに冷静な返事がきた。闇属性での自壊は一旦中止している事に安堵しながら、ストレージからマナポーションを取り出して一気に飲み干す。フランソワーズから『それは卑怯ではないのかい?』との呟きと共に恨めしそうな表情を無視しながら、亮二はイオルスに話しかけた。
「急にどうしたんだよ? オルランドの身体を借りないと顕現出来ないんじゃなかったのか?」
「それ! そうなんですよ! よくぞ質問して下さいました! 聞いて下さい! 聞くも涙! 語るも涙の物語を! あれは私が世界を作る時に気付いた……。痛ぃ! なにするんですか! ラスボスが最後を語るのはテンプレだと思います!」
「なんで、イオルスがラスボスなんだよ! 戦っても勝てる要素が無いわ! それに世界を作る所からって! 日が暮れるレベルじゃない長話になるじゃん!」
ストレージからミスリルのハリセンを取り出して一閃した亮二が話を遮るようにツッコミを入れると、涙目になりながらイオルスは語り始めるのだった。
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「おい! 俺はすぐにリョージを追いかける! 後の事はエレナ様に任せます!」
マルコはフランソワーズを抱えて飛び立った亮二の姿を見ながら言い放った。通信具越しに了承したエレナの声を聞いて、魔剣を抜き身のまま走り出そうとしたマルコを鋭い声が留めた。
「待ってください!」
「教皇? 避難するように命令したはずですが? 緊急時なのでお願いではありませんよ?」
「分かっています! ですが、イオルス神からの啓示がありました! 『緊急事態である。我を呼べ。謁見の間にて神の子よ。急ぐのである』と語りかけられたのです!」
「なんだと? イオルス神からの啓示だと! それで呼び出す準備は?」
興奮して話しているオルランドの内容に、マルコやエレナを始めとした一同が驚愕の表情を浮かべた。イオルス神からの語りかけがあったと記録に残っているのは、五〇〇年前のサンドストレム王国の建国王が最後だったからである。
「それは大丈夫です! 以前に王都でリョージ君と一緒に戦った時に、我が身に降臨して頂いております!」
「さらっと重大な事を言いやがって! イオルス神をその身に宿した事があるって事だよな? まあいい。細かい話は後だ。リョージが魔王と戦う為に飛び出したタイミングで啓示があったのは意味があるからだろう」
興奮状態が続いているオルランドから衝撃発言を聞いたマルコ達だったが、緊急事態の為に話を後回しにすると、降臨の儀式をするように求める。一同から期待の混じった視線を受けたオルランドは、力強く頷くと詠唱を始めた。
「『幸福の神イオルスの名において、彼の者に幸福の神の加護を授けん。イオルスは慈悲深き神であり、母なる大地である。その御力を我に宿し目の前の敵を討て!』あれ? な、なぜ?」
詠唱が終わったオルランドが焦ったように体を確認する。マルコ達も最初は興奮した様子で見ていたが、特に変化がないために恐る恐る確認をする。
「どうした? この場所にイオルス神が居るのか?」
「分かりません。詠唱が成功したのは分かるのですが、以前だと体に力が満ち溢れていたのが感じられ……」
戸惑い気味のオルランドと、困惑しているマルコ達の耳に明るい女性の声が響いた。
「ちょっと! そこの君! 詠唱が中途半端! もう一回やり直しを要求したい! ちゃんとしてよね!」
「今の声はどこから?」「不思議と安らぐ声ですが……」「誰だ? いま喋っているのは?」
「ちょっと! 無視しないでよ! ここだってば!」
ざわめく謁見の間でひときわ大きな声が響く。一同が壁際に視線を投げると、胸を貫かれて死んでいるはずのモニカが動き出していた。
「なっ! 死んでいるはずのモニカ嬢が動いている!」
「大丈夫よ! 彼女はゴーレムって言ってたでしょ! 大丈夫だから近付いてきて! 魔剣を持ってる貴方よ! 早く!」
バタバタともがいているモニカの体に、マルコが魔剣を構えつつ用心しながら近付く。覗き込むように確認してきたマルコに、お願いするような声が届いた。
「あなたがマルコよね? 私はイオルス。亮二さんをこの世界に召喚せし者。彼がピンチみたいなので助けに来ました。教皇であるあの子より、こっちのゴーレムの方が入りやすいと思ったのだけど、引っかかって入れないの! あなたならなんとかできるでしょ?」
「いや。私にそのような力は……」
「えぇ! だって亮二さんが『マルコのツッコミ無双は道理が引っ込む』って言ってた……。痛ぃ!」
「だからツッコミ無双ってなんだよ! お前がリョージにミスリルなんて渡すから、あいつが悪ノリしてハリセンなんて作っただろうが! それに俺のツッコミで道理が引っ込むわけないだろ!」
イオルスのふざけた言い回しに思わず魔剣をハリセンモードに変更してツッコむマルコ。神相手にツッコミを入れた事に思わず青ざめた一同だったが、イオルスからの声に微妙な空気が流れる。
「あ、入った。さすがマルコさん! 私があれだけ苦労していたのにツッコミ一発で解決するなんて! さすがは亮二さんの懐刀です……。痛ぃ! なにするんですか! もう叩かなくて……。痛ぃ!」
「さっさとリョージを助けに行ってこい! こうしている間にもあいつが危機に陥っているかもしれないだろ!」
嬉しそうにしているイオルスに連続でツッコミを入れると、マルコは一刻も早く亮二の救出に向かうように伝えるのだった。
マルコって凄いね。