384話 戦いの決着 -苦戦もしますよね-
戦いは激しさを増します
「取り合えずば、テンプレ的に魔法の連続攻撃だよな! くらえ! 全属性攻撃!」
亮二は叫びながらフランソワーズに向かって魔法を連続で放ち始める。自分の持てる属性全てをぶつけるように魔法を撃ち続け、砂煙が舞っている状況で魔法を止めると、その中心部を睨み付けるようにして呟いた。
「やったか?」
「ガアアアアア!」
「だよね! 知ってた! でも、一度は言ってみたいテンプレ台詞だから! 無傷じゃないのが幸いだな」
砂煙が落ち着いた先には、完全に魔王の姿になったフランが怒りの咆哮を上げていた。亮二の連続魔法攻撃で衣装は朽ち果て、羽もずたずたになっていた。だが、それ以外は体が煤けている程度で致命傷には遠いようであった。
「どうすっかな? まずは自作の強化魔法でも使ってみるか?」
魔法攻撃だけでは倒せないと判断した亮二は、風属性魔法を体に纏いつつ、ミスリルの剣には雷属性を二重に付与して斬りかかる。フランソワーズは正面から単純に突撃してきた攻撃をステップで躱そうとした。しかし亮二は回避先を読んでおり風属性魔法を利用して強引に回り込り混むと、連撃を叩きこんだ。
「今度こそダメージ通っただろ!」
背後から雷属性二重付与された攻撃は思ったよりも効果があった。苦しそうにしているフランソワーズを見て一瞬表情を曇らせた亮二だったが、気を引き締めると追撃をするために一歩踏み出そうとした。
「うぉ! その状態からブレスを吐くのか! だが!」
タイミングを狙って放たれたフランソワーズのブレス攻撃に驚きながらも、落ち着いて風属性魔法で飛び上がって躱そうとする。そこに、ずたずたになっている羽を気にすることなく、飛び上がったフランソワーズが体当たりをしてきた。
とっさに不可視の盾形ガントレットで体当たりを防いだ亮二だったが、慣れない風属性魔法を使っての避難だった為、完全に避ける事が出来ずに重なり合うように地面に激突するのだった。
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「がはっ! お、思ったよりも苦戦するじゃん。似たようなレベル相手の手加減が、これほど苦労するとは思わなかったぞ。こっちにきてから最大のピンチじゃね?」
自分の方がレベルが低い事を自覚しつつも強がりを言い放った亮二だったが、思った以上に状況が悪いと感じ慌てて距離を取る。そして口から血が混じった唾を吐きだしつつ眉をしかめる。転倒した拍子に口の中を切ったらしく鉄の匂いが口中に広がった。回復魔法を唱えながら油断せずに一緒に倒れたフランソワーズを見ていると、起き上がりざまに連続の魔法攻撃を撃ってきた。
「さっき俺がやった! 同じ攻撃が通じると思うなよ」
不可視の盾形ガントレットと防御魔法を組み合わせてダメージを逃がしていた亮二に、魔法攻撃が効かないと判断したフランソワーズからの物理攻撃が始まる。硬質化した腕を振り回すだけの力とスピード頼りの攻撃だったが攻撃が徐々に当たり始めた。
「ちっ! 攻撃が読めなくなってきた!」
ミスリルの服の防御力だからこそ防げている攻撃だった。通常装備だと一撃で勝負が付いているような攻撃をなんとか躱したり防いだりしていた亮二はジリ貧になると判断し、間合いを取るために大きく飛びすさった。
そこに追い打ちを掛けるようにフランソワーズが角を使って突っ込んでくる。二人が激突したと思われた瞬間に亮二の姿がかき消えた。忽然と姿が消えた事に驚きながら周囲を見渡しているフランソワーズをあざ笑うかのように、背後に立った亮二が叫んだ。
「それは残像だ! くらえ!」
亮二は数々の敵を屠ってきた三重の雷属性を連続で叩き込む。一撃目は障壁で防がれたが、二撃、三撃と続けていく内に障壁は破れ、フランソワーズの身体にミスリルの剣がダメージを与えていく。亮二はとどめとばかりにファイアウォールを唱えた。
「死なない程度に燃えろ! ファイアウォール!」
巨大な炎の壁がフランソワーズを包み込んだ。亮二は距離を取ってポーションをストレージから取り出して一気に飲み干す。
「ぷふぁ! テンプレだったら、これから変身する感じか?」
大きく息を吸い、呼吸を整えながら炎が消えた先を見つめる。そこには炭の山のようになっているフランソワーズだった物があった。加減を間違えたと亮二が焦りながら近付こうとすると、草原一体に響き渡るような叫び声が起こり、大地が震えるように揺れだした。
「やっぱり。第二段階もあるよね。ノリ的にはさっきと同じ感じでいけば、時間は掛かるかもしれないけど倒せるよな。だけど最後は圧勝したい! よし、奥の手を使うとするか」
亮二は呟きながらストレージからミスリルの杖を取り出すと、魔力を注ぎ込みながら詠唱を始める。詠唱と共に周りには魔方陣が現れ輝き始めた。
「我、大気を満たす魔力に命じる。氷の刃となりて彼の者を切り刻め。さらには等しく針となし貫き通せ」
亮二の詠唱と共に変身中のフランソワーズを氷のドームが包み込み、中心に向かって氷の刃が嵐のように襲いかかりながら、次々と切り刻みつつ最後には突き刺さった。
「がが……。ごぉ……」
ドームが消え去った後には、身体中から氷の棘を生やしたフランソワーズが苦悶の表情を浮かべながらのたうちまわっていた。亮二は障壁が無くなっている事を確認すると、ライトニングボールを連続で打ち始める。
「今度は無効化できないだろう。それに痺れて動きも悪くなってきたな」
雷属性の効果で痺れた状態になっているのを見ていた亮二は違和感を覚えた。苦悶しながらも回復を始めているフランソワーズだが、なぜか右腕の回復を優先しているようであった。
「なんで右腕から? ひょっとしてフランが言ってた古代魔法が影響しているのか? だったら、右腕を切り離せば意識は戻るはず!」
亮二はストレージからコージモの剣を取り出すと雷属性を四重に掛ける。コージモの剣は亮二の魔力に耐えながら輝きを増しつつ刀身が熱を帯び始めた。ゆっくりと近付いてくる亮二の姿に気付いたフランソワーズは後ずさりをしようとするも、凍り付いた状態では動くことも出来ず恐怖に引き攣った顔になっていた。
「大丈夫だぞ! フランソワーズ! 痛いのは一瞬だ。そんなに嫌がらずに俺を受け入れろ!」
優しく笑いながら亮二は両手でコージモの剣を構えると、フランソワーズへ大きく振り下ろすのだった。
一つの区切りです。