34話 始めての恩賞 -大盤振る舞いですね-
準備なしでのぶっつけ本番は結構好きです
ユーハンからの依頼に、亮二はストレージから”ミスリルの剣”を取り出すと天に掲げた。群衆は突然抜剣をした亮二に対して何事かと話すのを止めて彼の行動に注目した。主賓席にいた列席者からは「ユーハン伯の前でいきなり抜剣するとは何事か!」とあちこちから罵声が上がり、詰め寄ろうとしてくる者もあった。
- 今、罵声を上げながら突っ込んで来ているのが「五月蝿い連中」なんだな。ユーハン伯も大変だな。あんな連中の為に頭を悩まさないといけないんだから -
「諸君!静粛に!私が彼に剣を見せて欲しいと希望したのだ。リョージよ、その剣で牛人を討伐したのか」
「御意に御座います。こちらはウチノ家の家宝である”ミスリルの剣”で御座います」
「なるほどな、”ミスリルの剣”か。噂に違わぬ素晴らしい剣で有ることは誰の目にも分かると思うが、いくら”ミスリルの剣”を持っていたとしても、その身体では牛人を討伐するどころか、対等に渡り合うのも難しいのではないか?」
「確かにユーハン伯の仰るとおりです。誰の目で見ても、この小さな身体では牛人との戦いでは不利な状況にしかならないと思われるでしょう。ですが、我がウチノ家には”ミスリルの剣”以外にも代々伝わる戦闘方法があります」
静まっている群衆と騒いでいる列席者の両方に聞こえるように質問をしたユーハンに対して、亮二は剣を腰の後ろに当てて跪くと畏まって答えた。亮二の対応は群衆からは礼節に則った対応であり、貴族である列席者からも口出しが出来ないくらい完璧な礼儀作法であった。
- 良かった。さっき壇上脇の待機所でスキル「礼節 7」を取っといて。列席者の連中は俺が単なる冒険者と思ってたから、いきなり完璧な礼儀作法で対応してるから面白いように固まってるな。せっかくユーハン伯がお膳立てをしてくれたんだからもうちょっと頑張ってみるか -
「ほぅ!その戦闘方法とやらはこの場で見せることは可能か?牛人を倒したお前の腕前を信じていないわけではないのだが、皆もどのように牛人を倒したのか興味が有るだろうしな」
「畏まりました。ですが、この技は危険ですので少し離れて頂いて構いませんでしょうか?」
亮二はそう言って自分の周りからユーハンを離れさせると”ミスリルの剣”に【雷】属性を付与させた。亮二が【雷】属性付与を行ったのを見て列席者から嘲笑が起こった。
「なんだ!それだけか!剣に属性を付与させるなんてお前の専売特許では無いわ!本当にお前が牛人を倒したのか?怪しいもんだわ!」
「そんなに慌てないで頂きたい。これからが本番になります」
嘲りの言葉に対して冷静に対応すると亮二はさらに【雷】属性を付与させた。前回の牛人との戦いではぶっつけ本番でやってしまったので柄の部分に熱が集まって大変な目に有ったが、今回は2日の待機期間が有ったので改良した状態に2重掛けをすることが出来ていた。
「いかがですか?」
亮二は周りにそう言いながら剣を軽く横一線に振った。振った際に【雷】属性が剣の周りで跳ね動き、剣筋の後を【雷】属性が追いかける様相は幻想的であった。群衆と列席者から感嘆の声と賞賛する呟きや羨望の声が上がっていた。
- 前回のぶっつけ本番ほどの勢いは出せなかったけど、手元にくる熱さを無くす事が出来たのは大きいよな。それとハッタリで火花を散らさずに雷が踊るように演出してるから遠くからも見れて見栄えもいいだろうしユーハン伯もこれなら納得だろうな -
適当な演舞を披露して【雷】属性を消すと”ミスリルの剣”もストレージに仕舞い、優雅な動作でユーハンに一礼を捧げた。ユーハンは亮二の一礼に軽く手を上げて満足気に頷くと群衆に向かって再び語り始めた。
「見たか!諸君!これがリョージの力だ!彼の力があればドリュグルの街はさらに魔物の恐怖から遠ざかれる!聞く所によると彼は遠い地から強制的にアーティファクトの力で飛ばされてきた異国の貴族と聞いている。帰る手段を探すため冒険者になったとも。そんな彼に対して私も全面的に協力をしたいと考えている。そこで、彼への恩賞としては金貨50枚と名誉騎士の称号、それに宿屋暮らしと聞いているのでそちらも提供させてもらおう!」
ユーハンからの発表に群衆からは大歓声が、列席者からは戸惑いや怒りの悲鳴が上がった。
「え?え?なんでそんな大盤振る舞い?」
亮二の焦った小声を聞き取ったのだろう。ユーハンは亮二に名誉騎士の称号であるマントと勲章を渡しながら笑顔で語りかけた。
「まっ、それだけお前のことを買ってるって事だ。マルコの推薦もあるんでな。それにしてもその属性付与2重掛けは凄いな。駐屯軍の兵士に教えることは可能か?」
「それはどうですかね?その人次第になりますので。2重付与は無理でも属性付与なら私と同じ威力じゃなくても良いのなら教えますよ?」
「よし!約束だ。その御礼と言っては何だがお前にもう一つ恩賞をやろう」
ユーハンはそう言って亮二に対してニヤリと笑うと亮二の肩に手をかけて群衆に大きな声で話し始めた。
「諸君!リョージは異国の貴族との事だが、彼の国では武者修行を11才から行うらしい。そして、武者修行の中で生涯の伴侶も見つけるとの事だ。聞いた所によると彼はカレナを随分と気に入ったそうだ。私はこちらに関しても彼の事を応援させてもらう!諸君もリョージの応援を頼むぞ!」
ユーハンからの突然の発表に、すでに亮二がカレナリエンの事が気に入っている事を知っている駐屯軍の兵士と事情を理解した群衆たちから大きな笑い声と「がんばれ」「ふざけんな!」「カレナリエンちゃん、そんな奴じゃなくて俺を選んでくれ!」と、先ほどの恩賞とは違う悲喜こもごもな歓声と怒声が広間に響き渡るのであった。
応援されると頑張れるんです




