359話 甘いひと時に邪魔されるのは当然 -誰でも怒りますよね?-
カレナリエンと二人の時間を楽しんでいます。
順調に進んでいる馬車の中で亮二とカレナリエンは、ユッタリとした時間を満喫していた。魔道具拡張の部屋で紅茶とスイーツを楽しんでいたカレナリエンが、軽く吐息を付きながら話しかける。
「こんな感じで二人の時間が流れるのって初めてですよね?」
「そうだね。激動の一年だったもんな。たまにはこんな時間が流れても良いかもね」
伸びをしながら答えた亮二を見て、軽い感じでカレナリエンが提案を行った。
「お疲れのようでしたら膝枕でもしましょうか?」
「えっ! ママママジで! くぅ! ここにきてヒロインとのテンプレイベント発生かよ! こっちの世界ではヒロインと戦闘するか、物を作るがテンプレだと思っていたよ! ほ、本当にいいの?」
「もちろんですよ。どうぞ」
かなりテンション高く舞い上がっている亮二を見ながら提案して良かったと微笑みつつ、カレナリエンは膝を軽く叩いて亮二が頭を載せやすい体勢になった。
「では。遠慮なく……」
「リョージ様! お寛ぎのところ申し訳ありません! 通行中の信徒達がリョージ様にお会いしたいと申しておりますがいかがしましょうか?」
ほくほく顔でカレナリエンの膝に頭を乗せようとした瞬間に護衛の兵士から声がかかった亮二は、舌打ちしそうになりながらも気を取り直すと「今すぐ行く」と軽く声を掛けた。
「ちょっと呼ばれたから行ってくる」
「はい。お待ちしております。戻ってこられたら続きをしますので、早く戻ってきて下さいね」
不服そうな顔をしながら出て行こうとした亮二に、カレナリエンは軽く苦笑を浮かべつつ待っている事を伝えた。カレナリエンから続きの約束を貰った亮二は機嫌を直すと、スキップしそうな勢いで馬車から降りるのだった。
◇□◇□◇□
「お休み中のところを申し訳ありません。どうしても、この者達がリョージ様に感謝を伝えたいと」
「構わないよ。それで彼が代表さん?」
馬車から降りてきた主人に、護衛の兵士が申し訳なさそうに謝罪をしてきた。亮二は謝罪に対して気にする必要がない事を伝えながら、平伏している男性に近付いて話しかける。
「頭を上げてくれて良いよ。リョージ=ウチノだ。急に呼び止めたみたいだけどなにかあった?」
「い、いえ。急に声を掛けて申し訳ありません。ただ、どうしてもリョージ様にはお礼を伝えたいと思いまして、兵士の方に無理に馬車を止めていただきました」
「それは構わないけど、君達に感謝されるような事ってなにかしたっけ?」
亮二が首を傾げながら問い掛けると、信徒の代表である男性が勢いよく立ち上がり目を輝かせながら話し始めた。
「もちろんです! 今回整備された街道でどれだけ私達が助かっているか! 今までは悪路のために馬車は走らず、必要以上に神都への到着に時間がかかってしまいました」
「じゃあ、今まではどうしてたの?」
亮二の問い掛けに男性は懐かしそうな表情を浮かべながら話し始めた。悪路なのは神からの試練と耐えていた事。馬車は使えないので徒歩で時間を掛けて野宿をしながら向かっていた事。途中で野盗や野生動物に襲われて、九死に一生を得た事が毎年のようにあった事を伝えてきた。
「おぉ。それは大変だったな」
「良い思い出です。今は宿場町が複数出来上がり、ゆっくりと神都へ向かう事が出来ます。それに街道が整備されたので馬車も走っていて風景を楽しむ余裕もあります。王国騎士団の方も巡回して下っているので安心です」
亮二が今までの大変さに驚きながら感想を述べると、男性は朗らかに笑いながら答えるのだった。
◇□◇□◇□
「本当に構わないのですか?」
「問題ない! せっかく知り合いになったんだから一緒に行こうぜ! ちょっと、俺は馬車に戻るけど休憩の時に色々話を聞かせてよ!」
遠慮がちに告げてきた男性に亮二は気にしないように伝えると、護衛の兵士に信徒達が乗っている馬車と一緒に行くように伝えて馬車に乗り込んだ。
「遅かったですね。なにか問題でも?」
「大丈夫! 神都に向かっている教徒の代表者が街道整備のお礼を言ってきただけだよ」
心配そうな問い掛けに問題ない事を伝えながらも、そわそわしだした亮二にカレナリエンは笑いそうになりながら伝える。
「いいですよ。膝枕しながらお話を聞きますよ」
「そ、そう? じゃあ、遠慮なく膝枕して貰おうかな」
照れくさそうにしながらも、嬉しそうにカレナリエンの膝に頭を乗せようとしたタイミングで馬車の扉が激しく叩かれた。
「リョージ様! 敵襲です! 信徒達の馬車を守るためにも撤退のご指示を!」
「よし。どこの誰だか知らないが良い度胸をしているな。カレナリエンちょっと待っててくれる? 襲ってきた敵を鼻水垂らしながら号泣させて土下座させてくる」
無表情な笑顔でカレナリエンに告げた亮二は、ゆっくりとした足取りで扉に手をかけるのだった。
◇□◇□◇□
「リョージ様! 敵の数は三〇名! 盗賊か山賊のようで……」
「おまえ達は信徒達が乗っている馬車をしっかりと守れ。俺はあいつ等を泣かせてくる」
敵についての情報を伝えようとした兵士だったが、扉から出てきた亮二の無表情な笑顔を見て思わず後ずさってしまった。そんな兵士の様子を気にする事なく、信徒達が乗った馬車を守るように指示を出した亮二は風属性魔法を身体に纏わせると全力で走り出した。
「頭! 馬車の方から子供が走ってきます!」
「は? なに言ってんだ! 意味分からねえ……。なんだありゃ?」
子分からの報告を聞いた盗賊の頭は、怒鳴りながら殴りつけた。目の前で鼻血を出している子分には目をくれずに馬車が止まっている方向を眺めると、報告の通り物凄い勢いで子供がこちらに向かって走ってきていた。
「おい。お前等。いい度胸をしているな。俺の膝枕の邪魔をした事は万死に値する! 反省するなら三秒待ってやる!」
「膝枕? なんだ突然。おい! いいから金を……」
「よし! 反省の色なし!」
「ぎゃぁぁぁ」
問答無用で勢いよく話し始めた亮二に困惑しながらも、脅し文句をドスを利かせて喋ろうとした頭だったが、突然の激痛にのたうち回るのだった。
膝枕の邪魔はユルサン!