352話 軽いお願い事 -ちょっと頼みますね-
コージモさんにお願いをしよう!
「それで、リョージ様のお願いとは?」
「シーヴに聞いたんだけど、ドリュグルと駐屯地の工房を弟子に任すんだよね?」
嬉しそうな表情を浮かべている亮二の言葉に、コージモは頷きながら回答する。
「ええ。最近は弟子達の技術も上がってきてますからね。有り難くも自分の名前が付いた剣まで世に出ています。ちょっと違う場所で仕切り直しをして別の物を作ろうかと」
「それって武器以外にも作るって感じ?」
「そうですね。武器以外にも色々と試したいとは思って……」
「素晴らしい! やっぱりコージモさんは俺にとって救世主だよ! ちょうどいい案件があるんだけど!」
コージモの台詞を途中で奪うように遮った亮二は計画している内容を熱く語り始める。
「今、領都に新しい工場を作ろうと思っていてさ。そこで色々な農具を大量生産しようと思ってるんだよ!」
「大量生産ですか? それでしたら私じゃなくても。ひょっとして講師として? 申し訳ありませんが、まだ私は現役でいたいです」
亮二の提案を最初は楽しそうに聞いていたコージモだったが、内容が大量生産の話になると興味を失った表情になった。そんな表情の移り変わりを楽しそうに見ていた亮二は、ストレージから各金属のインゴットを取り出すと手渡した。
「これは? 鉄、銅と銀に金! そ、それにミスリル? リョージ様? これは一体?」
「領都に作る工場は研究所や養成所も兼ねてるんだよ。大量生産部門と研究開発部門や学校があると思ってくれたらいい。それでコージモさんには研究開発部門長として舵取りをして欲しいんだ。もちろん講師も月イチくらいでして欲しいけどね。給金としては月に金貨五枚でどう?」
大量のインゴットが入ったアイテムボックスごと渡され、さらに研究開発し放題の上に高給まで支払うと約束までされたコージモに断る理由は一つもなかった。
「そこまで私の事を評価をしてもらっているのに、断る理由がありませんね。リョージ様。喜んで受けさせていただきます」
満足気な表情を浮かべているコージモに、亮二も同じ表情で頷くのだった。
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「それで、他の婚約者さん達とは上手くやってるのかい?」
「もちろん。みんないい人だから揉めることもないよ。なに? お父さん、心配してたの?」
二人きりになったシーヴとコージモは、工房にある食堂でお茶を飲みながら話をしていた。
「それにしても、お茶の準備する姿も様になってる」
「当たり前じゃない。大公であるリョージ様のメイド長補佐をしてるんだよ! これくらい出来て当然なんだからね!」
手際の良さを感心していると、シーヴが口を尖らせながら返事をしてきた。昔と拗ね方が変わっていない事にコージモは安堵の吐息を吐くと、姿勢を正して再度確認する。
「リョージ様の婚約者になって幸せなんだね」
「当然だよ。お父さんの腕を治してくれたし、ドリュグルの英雄なんだよ。強いし、一緒にいると楽しいし、全てが新鮮なんだ。それに、奥さんが多いのは大貴族だし、英雄なんだから当然でしょ? ちょっと二人きりの時間が少ないのは寂しいけどね」
シーヴの幸せそうに語る口調にコージモは何度も頷く。
「これで私は心置きなく領都で研究開発に望めるな。シーヴが嫁ぐ事をあいつも喜んでくれただろうにな」
「ちょっと待って! お父さん! 領都は私も住んでるんだよ? それに『あいつも喜んでくれただろうにな』って言ったけど、お母さんの事だよね? さっきそこで会って喋ってたんだから、すでに居ないような言い方をしないで!」
神妙な顔つきで話してきたコージモにシーヴがツッコミを入れると、不思議そうな顔で問いかけてきた。
「あれ? リョージ様から『鉄板ネタだから! 婚約者達とはこんな感じでいつも話しているから』と教えて貰ったんだけど?」
「間違いなく騙されてるよ! お父さん! ちょっとは疑ってよ!」
亮二がしたり顔で父親に説明している状況が目に浮かんで、シーヴは思わずこめかみを押さえるのだった。
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「へぇ。コージモさんの工房は、こんな感じになってるんだ」
「おい! ここは関係者以外立ち入り禁止……。リョ、リョージ様! 失礼しました。ど、どうか命ばかりは!」
興味深そうに工房を見学していったのをコージモの弟子が注意しようとして、亮二だと気付くと顔面蒼白になりながら命乞いを始めた。
「おい! お前の中で俺はどうなってんだよ! そんな事で命を取るわけないだろ!」
「でも、噂では逆鱗に触れると灰燼にされた上に呪いまで掛けられるって……」
「よし。その噂を広めた奴を連れてこい。噂通りにしてやる」
殺されないと分かり安堵の表情を浮かべながら恐る恐るな感じで答えた内容に、亮二は満面の笑みを浮かべながら男性に迫った。
「知りません! 私も酒場で聞いただけですから」
「ちっ! まあいい。ちょっと道具を借りてもいいか?」
返事を待たずに道具を手に取った亮二はストレージからインゴットを取り出すと、火属性魔法とスキル武器作成を使って何種類かの農具を作り出した。
「なっ! この一瞬でどうやって?」
「これと同じ物を作ってくれとお願いしたら、お前だったらどれくらいかかる?」
驚愕の表情で見ている男性に亮二が問いかけると、職人の目に戻った男性は農具を亮二から受け取った。
「同じ物でよければ各種三個を一日で作れると思います。ですが、あの早さで作れるんでしたら、リョージ様が作った方がいいのでは?」
「俺が作ってたら他の事が出来ないじゃん! それに一〇〇年経っても、同じ物が作れるようにしておきたいんだよね。それでお願いなんだけど、このインゴットとサンプルを渡しとくから時間のある時に作ってみてよ。一個作るのに掛かる時間が知りたい」
「分かりました。じゃあ、今から作業をします」
亮二の問いかけに男性は炉に火を付けると、亮二から渡されたインゴットを使って作業を始めた。
「時間のある時でいいんだぞ?」
「親方は『今日は終わりだ』と言われてますので早速やりますよ。それにリョージ様のスピードを見せられたら、職人の血が騒ぎますからね。負けませんよ!」
不敵な笑みを浮かべながら作業を続ける男性に、亮二は逞しさを感じながら後を任すのだった。
有望な人を発見!




