345話 テンプレ展開の終わり -戦闘が終わりましたね-
幹部は軽くヒネりました。
「ずびばぜんでじだ……」
「分かればいいんだよ。それにしても俺も説得が上手くなったよな」
自慢の大剣が細切れにされたのを涙目で見ながら、幹部クラスの男は崩れ落ちていた。ミスリルの剣に氷属性を三連で纏って相手の大剣を細切れにした亮二は、剣を振り払いながら解除させると満足そうに頷いていた。そんな対照的な二人の様子を眺めながら、悪魔と突然遭遇したような顔になっていた男達は、震えながら囁くような声で仲間と話し始める。
「あれだけマッツさんをボコボコにしておいて、爽やかな笑顔で説得と言い切ったぞ?」「どうするよ? 一斉に掛かるか?」「武闘派筆頭のマッツさんが得意としている氷属性を付与した大剣で手も足も出なかったんだぞ? 俺達が一斉に掛かっても一瞬でやられるだろ!」
「おい。そこでブツブツ言ってるお前等。こいつをこれで縛れ。それとコレを全員に付けていけ。腕でいいぞ。お前達もだぞ!」
亮二がストレージからロープと大量の腕輪を取り出すと、残っていた三人に手渡した。男達はマッツをロープでグルグル巻きにした後で、亮二から手渡された腕輪を眺めながら恐る恐る問い掛けた。
「あ、あのこの腕輪は一体?」
「ああ。それは、お前達が逃げ出さないようにする魔道具だ。逃げても、探索魔法で察知出来るようになっている。倒れている奴にも付けといてくれ。大人しく捕まっておけば衣食住は保証してやる」
「ち、ちなみに逃げ出したらどうなります?」
質問してきた男に亮二は一瞥をくれると、近くにあった豪華な馬車に向かって右手を突き出して男達に聞こえるように呪文を唱えた。
「ファイアアロー!」
亮二の前に炎の矢が十六本発現し、馬車に向かって突き刺さると轟音とともに燃え上がった。馬車が崩れ落ちる様子に、腰を抜かして震え上がっているのを確認してウォーターボールで鎮火すると、醒めきった目で男達を見下ろしながら言い放った。
「逃げ出したら、馬車の状態が羨ましくなるような事をする。分かったか?」
男達は亮二からの威圧と馬車の状態を見て、顔面蒼白状態になると全力で顔を上下に振るのだった。
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「お前がワール商会の会頭のデールか?」
「なんだ? マッツはどうした? まさか、こんなガキにやられやがったのか?」
大広間にやって来た亮二が部屋の奥で酒を飲んでいた男に話しかけた。男は鼻を鳴らしながら酒を飲み続けていたが、領主のブラスは顔を真っ赤にしながら叫び始めた。
「何者だ! ここを儂の館だと知っての狼藉か!」
「素晴らしい! ナイスリアクション! これで一度でも顔を見合わせていたら『余の顔を見忘れたか?』とドヤ顔で言えるのに!」
茶化した反応にブラスが、さらに顔を赤くしながら叫ぼうとしたが亮二がストレージから短剣を取り出して見せた後に、ミスリルの剣に雷属性を三重で纏わせた。
「サンドストレム王国の貴族? そして子供? 雷属性の重ね掛け? ひょ、ひょっとしてミスリルの剣?」
「お? やっと気付いてくれた? そうだよ。リョージ・ウチノ大公だ」
隣国とは言え大公であり自国を救った英雄を前にブラスは先ほどの勢いもなくなり、口をパクパクさせながら震え始めた。そんな様子を見ながら亮二はミスリルの剣を突き付けると言い放つ。
「ブラス! その方、領主の身でありながら不正な蓄財を行い、あまつさえ領民の女子を拐かして自らの欲望を満たそうとは言語道断! 今までの罪を潔く認め、神妙に縛に付け! くぅ! こんな台詞言ってみたかったんだよな!」
亮二は興奮した状態で拳を握って言い放つと、ブラスは絶望を感じて崩れ落ちた。そんな様子を見ていたデールは領主を蹴り飛ばすと、ゴミを見るような目で見下ろしながら話しかけた。
「なにを相手の言いなりになってんだよ。だからお前は駄目なんだよ。相手は一人なんだぞ。大公だろうが、救国の英雄だろうが、不慮の事故で行方不明になれば良いだけの話しじゃねか。先生方!」
「こんなガキに武闘派筆頭と言われていたマッツさんがやられたのか?」「おいおい。酒の邪魔をされたんだから報酬は別に貰うぞ」「簡単な依頼で特別報酬か。ありがとうよ坊主」
デールの声に奥の扉が開くと三人の男と、それぞれに武器を持った十数人の男が大部屋に入ってきた。
「最近まれにみる豊作じゃないか? こんなにもテンプレな状態が続くなんて。じゃあ、次の台詞をどうぞ」
「余裕かましてんじゃなえよ。大公だろうが構わねえ! 野郎どもやっちまえ!」
亮二の余裕綽々な表情を見て激高したデールが叫ぶと、亮二はサムズアップしながら満面の笑みで褒め称えた。
「完璧! 最高! そのテンプレ対応に敬意を表して対人戦闘としては最高レベルでやってやる!」
亮二が言い放つと、それが合図となったかのように男達が斬り掛かって来るのだった。
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悪役二人が後ろに下がっていくのをテンプレ通りと嬉しそうに確認しながら、亮二は目の前の男が放ってきた斬撃を受け止めた。
「がぁ!」
雷属性を三連で纏っているミスリルの剣で受け止められた男は、短い悲鳴を上げながら倒れ込んだ。
「おお。さすがに三連纏ってると、それだけでスタンガンになるみたいだな」
「おい! 攻撃を受けるな! 避けろ」
亮二の攻撃を防御するだけでも気絶させれると気付いた用心棒の一人が、周りに避けるように伝えたが攻撃を簡単に躱せるわけもなく、次々と意識を刈り取られて倒れていった。
「よし! ここからは剣だけで対応してやろう。三人同時でもいいぞ」
「なめてんじゃねえ!」
雷属性を解除した亮二に対して、怒りの表情を浮かべながら斬り掛かってきた用心棒の攻撃を不可視の盾形ガントレットで受け止めると、見えない盾に驚愕している表情の用心棒を殴りつけて昏倒させた。
「隙あり!」
「ねえよ! 隙なんて!」
背後から斬り掛かってきた二人目の用心棒の台詞に亮二は半身になって攻撃を躱すと、その勢いを利用して肘を顎に叩き込んだ。二人が一撃で倒された事に驚き、呆然としている隙を亮二は見逃さず、一瞬で間合いを詰めると鳩尾に拳を叩き込むのだった。
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「よし! 終わりかな? で、どうするよ。ワール商会のデールさん。領主のブラスは降参してるみたいだけど?」
「先生方が一瞬で……。まだだ! まだ終わっておらん! こっちには人質がいるんだぞ!」
デールが身近に居た女性を人質として引き寄せると首に手を回して、ナイフを目の当たりに突きつけると亮二に対して自分から離れるように伝えてきた。さり気に魔法を放とうとする亮二に気付いたわけではなかったが、デールは亮二が行動を起こさないように叫ぶ。
「動くな! このナイフは儂の手を離れると飛び出すようになっているぞ! 動くなよ!」
人質の女性が震えながらワールの手を掴んできた事に嗜虐的な笑みを浮かべていると、亮二がミスリルの剣をストレージに閉まって両手を上げて話し掛けてきた。
「分かったよ。それにしても、いつの間に潜入していたんだ? 全く気づかなかったぞ?」
「それはリョージ様の愛が足りないからだと思います! 早く終わらせて甘やかして下さい。いつものようにすいーつだけじゃ誤魔化されませんよ! デート一日ですからね!」
突然、人質として掴んでいた女性が亮二に向かって勢い良く話し始めた。ワールは苛つきながら黙らせるようにナイフを喉元に突きつけようとしたが、腕が全く動かない事に気付いた。
「な、なぜ動かん? いつの間に儂の側から離れている! おい! なにをした?」
「五月蝿い。私に気安く話し掛けるな。今の状態の私と話していいのはリョージ様と仲間だけだ。しばらく黙っていろ」
黒尽くめの女性がワールの喉に触ると、口は動いているのに声が出ない状態になっていた。その様子を見ながら亮二は女性に近付くと、頭を撫でながら話しかけた。
「お疲れ。今の状態はノワールと呼んだらいいんだよな」
「ええ。そうです! 名前を覚えてくださってたんですね! 嬉しいです! でも、ご褒美はシッカリともらいますからね!」
大人バージョンのクロであるノワールの言葉に苦笑を浮かべると、デートの約束と褒美を渡す事を約束するのだった。
いつのまにクロは潜入をしてたんだろう?