328話 戦後処理の始まり4 -変な感じになってきましたね-
アンデルス殿下がこっちに向かってる?
「マルコ! リョージを止めろ!」
「はっ!」
壇上に全力疾走しながら叫んだアンデルスの声で、我に返ったマルコはアイテムボックスからミスリルのハリセンを取り出すと全力で叩き下ろした。
ストレージからレイピアを取り出した瞬間にざわめいた会場を不思議に思いながら、マデリーネに手渡そうとしていた亮二は背後からの攻撃に仰天しながら振り返るとマルコの必死な表情を確認する。
「痛ぃ! な、何事? えっ? 今回はなんで叩かれたの? なんでそんな顔をしてるんだよマルコ? えっ? アンデルス殿下もどうされたのですか?」
「リ、リョージ伯爵! その手に持っている物は?」
呼吸を荒げながら壇上に駆けつけたアンデルスは、呼吸を整える前に亮二に確認した。
「えっ? レイピアですよ?」
「当然ながら普通のレイピアじゃないですよね!」
もの凄い勢いで壇上までやってきたアンデルスの質問に気圧されながら答えると、胸倉を掴んで確認されている状況に亮二は若干引きながら説明を始める。
「そうですね。普通のレイピアを魔剣にするだけじゃ面白くないので、風魔法が自動で発動して戦闘中の動きを補助するようにしました。それに文字を書くように剣先を振ると、ライトニングアローが二連続で撃てるようにしています。あっ! 他にもですね、鞘に入れた状態で魔力を溜めて抜剣してからの最初の攻撃は、レイピアの剣先が伸びるようにしましたよ! この術式を組み込むのと鞘を作るのには少し苦労しましたけどね。頑張りましたよ」
「マルコ!」
「はっ! ちょっとは自重しろ! そもそも魔力の通ったレイピアは王国では高位貴族が妻に渡す物なんだよ! 当然、リョージは知らなかっただろうけどな!」
アンデルスの声に応えたマルコは、ミスリルのハリセンを四連撃で亮二に打ち込みながら叫ぶように説明した。痛みと語られた内容に亮二は暫く硬直していたが、ぎこちなく首をアンデルスに向けると絞り出すように言葉を紡ぎだす。
「ひょっとして、またやっちゃいました?」
亮二の言葉にアンデルスとマルコは渋い顔をして頷くのだった。
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「少しリョージ伯爵が疲れているようなので休憩にしよう。ユーハン伯爵は申し訳ないが、特別賞に参加する者達の取りまとめをお願いしてもいいだろうか?」
アンデルスが周りに聞こえるように伝えると、騒然となっていた会場は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。ユーハンが頷いて周りに居た貴族達を集めているのを確認すると、亮二にマデリーネ、王国側はマルコとカレナリエン、帝国側からクヌートが別室に集まった。
「本当に知らなかったんだよ! マルコもそんな大事な話は前もって教えろよ! その話を聞いてたらレイピアじゃなくて、双剣とかにしたのに! ……痛ぃ!」
「よし! 王国に帰ったら、アマデオ建国王がサンドストレム王国を建国する前の二〇年から現在に至るまでの歴史は俺が、王族や貴族の習慣についてはエレナ姫にお願いしてみっちりと叩き込んでやる!」
呆れた表情で亮二とマルコが言い合ってるのを見ていたアンデルスだったが、ため息を吐くとクヌートに向って話しかけた。
「王国を代表して、リョージ伯爵の軽率な行動を謝罪いたします」
「我らは問題ありませんよ。王国でのレイピアの扱いは存じておりますが、帝国ではそのような習慣はありませんから。肩透かしを食らったマデリーネは可哀想ですが……」
国を代表して話をしていると、カレナリエンがマデリーネを連れてやってきた。
「殿下。恐れ多いですが……」
「構わないよ。精霊の愛娘カレナリエン。エレナが結婚したら君も妹みたいなものだからね」
恐縮した様子でアンデルスに話しかけてきたカレナリエンに、鷹揚に頷きながら続きを話すように伝えた。アンデルスの態度にホッとした表情を浮かべたカレナリエンは、横にいたマデリーネの背中を押すと「頑張って」と声を掛ける。
「兄さま! 私はリョージ様からレイピアを頂きたいです! 例え、リョージ様が王国の習慣をご存じなかったとしても!」
「私からもお願いします!」
必死の表情で語りかけてくる二人に、アンデルスとクヌートは難しい顔をしながら考え込み始め、お互い相談すると現王である父親に確認する事にして一旦解散を命じるのだった。
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恩賞授与式を終了させたアンデルスは、亮二に頼んで王都に運んでもらうと、父王であるマルセルへの謁見許可を得て騒動となった説明を始めた。
アライグマ騎士団の恩賞授与式で一〇〇近くに魔剣が配布された事。恩賞の金額が桁外れに多い事。屋敷をもらった者や一ヶ月近くの休暇も渡されているなどの一連の流れを出来るだけ冷静に語った。
アンデルスの説明を大きく頷いたり驚いたりして聞いていたマルセルだったが、マデリーネにレイピアを渡す話になると、腹を抱えて大爆笑をした後にまじめな顔になって問題ない事を伝えた。
「ん? レイピアを渡すのは構わんだろう」
「軽すぎませんか? 父上。レイピアを渡すとなると、本人達は兎も角として周りの者は確実に結婚するとの認識になりますが?」
「なにが軽いものか。他国の姫を我が王国の貴族が嫁にもらうんだぞ。子供が出来れば両国の絆も強くなるではないか」
冷静な表情で話している父王にアンデルスも落ち着きを取り戻すと、亮二に向いて確認を始めた。
「そうですね。その方が良さそうですね。リョージ、黙ってもらっていて済まなかったね。マルセル王からも許可が出たから、マデリーネ姫にレイピアを渡してくれて構わない」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
アンデルスから喋る事を禁じられていたので黙っていたが、流れがマデリーネを嫁にもらう方向になった事に焦りながら亮二が断ろうとするとマルセルが片手を上げて遮った。
「王命だ。マデリーネ姫を嫁にもらえ。これだけ婚約者が居るんだ。ちょっとくらい増えても大丈夫だろ? 帝国と友好関係が築けるのなら安いもんだ」
「最後! 本音出てますよね! 政争の道具にするなら逃げますよ!」
亮二が憤慨して答えるとアンデルスは慌てたが、マルセルは軽く笑いながら謝罪するとエレナを呼ぶように伝えるのだった。
不穏な流れになってきました。